DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~
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求められる成長
前書き
最近鼻の調子が悪い件について
第三者side
カキーンッ
高々と打ち上げられた打球。それは右中間を深々と破り、打った赤髪のポニーテールの少女はガッツポーズを浮かべ、三塁ランナーの金髪の少女は手を叩きながらホームベースを踏む。それを確信した後、両校のベンチから選手たちが出てくる。
「終わったな」
立ち上がり肩を回す町田。スコアは7対0となっており、5回コールドの規定に達していた。
「狛場商業のピッチャーも頑張ってましたけどね」
「来年はもっといい投手になって帰ってくるかもな」
コールド負けにはなってしまったものの、打撃力の高い明宝学園相手にギリギリのところで耐えていた投手は泣きながら他の選手に抱き抱えられるように整列へと向かっている。そして試合終了の礼を終えた彼女たちには惜しみ無い拍手が送られていた。
「今から練習に行くんですか?」
「いや、別会場の日帝大の試合に間に合いそうだからそっちに行くわ」
「私たちも行った方がいいですか?」
「お前らはそのまま帰っていいよ。ビデオは俺が預かる」
片付けられたスコアブックとビデオカメラを受け取ると足早にその場を後にする。その頭の中は今の試合のことと次に行われる試合のことでいっぱいだ。
(莉子と丹野の連携は見れなかったがあの守備の感じからして問題はないんだろう。打撃も葉月をクリンナップに上げれるほど層を増していた)
今までの戦っていた相手から見れば格段にレベルアップしているように感じられる。それに加えて気になる存在も現れていた。
(莉子の守備範囲は広いし優愛もサードなら安定感がある。そして何よりあのキャッチャーか)
全員が本来の正ポジションに戻れた要因である一年生二人の登場。特に気になるのは一切の前評判のない背番号20の少女だ。
(フレーミングも配球も申し分ない。ヒットはなかったがバントも一つ決めてたしな)
元々下位打線には打力のない選手を多くいれていた明宝学園。そのため、彼女の打力の低さはそこまでの問題には見えなかった。
(逆に日帝大はスタメンの入れ替えはなし。ベンチ入りメンバーは多少変わっているが大した強化にはならないだろう。ただ、あいつらは元々高い打撃力があるからな)
目に見えた変化はわからないがそれでも脅威となるのが秋、春と二度決勝戦を戦った日帝大付属高校。彼女たちの積極果敢な攻撃は高い総合力を誇る東英学園でさえも圧倒されてしまう時がある。
(打順に変動はあるのか?はたまた明宝みたいに登録後に伸びてきた選手がいるのか?)
「と思ったけど、春と変化無しか」
スコアボードを見た町田はその打順を見て春から変化がないことを確認した。そして、その絶大なる破壊力も。
日帝大 721 3
大田東 000 0
快音を響かせ続ける打線。さらにはマウンドを預かっている背番号11が三塁を踏ませぬ好投を続けており、相手に一切の隙を与えない。
「吉永を温存してこれか……ただ、準決以降はこうはいかないだろう」
ブルペンにすら入っていないエースのことを考えただけでタメ息が漏れてくる。選手層の厚さは自分たちにひけを取らないことを彼もよくわかっていた。
「翼星と明宝ならどっちが上がっても吉永以外じゃ抑えられないだろう。そこがこっちのアドバンテージになるか?」
東英には後藤と佐藤という二枚看板がいる。しかし、日帝大付属はエースの吉永と同等の投手はいない。そこが大きな差であることは間違いない。
(こんなに調子がいいなら、桜華を気にする必要もないかもな)
気になる要素は取り除かなければならないが、自分たちも試合を控えている以上対処できることには限りがある。町田は勝敗が決したこの試合を見届けることなく、学校へと戻っていった。
莉愛side
ガキッ
「ほら!!また左肩下がったよ!!」
「すみませ~ん」
無事に初戦を終えた私たち。コールドゲームで終えたことで先輩たちも上機嫌……と思っていたんだけど……
「莉愛ちゃん今日二回チャンスあったのにな~、どっちも三振だもんね~」
「うぐぐ……」
実は今日の試合でヒットを打てなかったのは私だけだったみたい。しかも一打席は送りバントだったけど、残り二打席はチャンスで凡退……しかも4回の攻撃はダブルプレーをやってしまった。そのため、優愛ちゃん先輩と伊織さんに見守られながら打撃練習を行っているってわけ。
「優愛、見本見せてあげて」
「ほいきた」
伊織さんから指示を受けると鳥籠に入ってくる優愛ちゃん先輩。彼女にバットを渡してそこから出ると、彼女は数回素振りをしてから打席に入る。
「まず構えたら視線はピッチャーの投げる時の肘あたりに合わせる!!」
「肘?」
「そう!!肘!!」
肘ってことは投げる方の肘だよね?そこに視線を合わせたらボールが見えにくくなるんじゃ……
「肘をしっかり見るっていうよりボーッと見るようなイメージだね。そして視線はそこから極力動かさない!!」
「え?」
視線を動かさないってますます見えにくくなるんじゃ……今の私は全体をしっかり見てるけど、その方が見やすい気がするんだけど……
「左肩が下がるってことはステップ幅は狭くした方がいいね。打席も前目に立とうかな?」
そこまで話してからピッチャーに投げるように指示を出し、それを受けてボールが投じられる。その球はインハイへのストレート。
「そして打つ時は引き手をボールに当てるようにバットを出して声を出しながら打つ!!」
カキーンッ
快音を響かせ高々と打ち上げられる打球。それはライトフェンスを飛び越え隣のサッカー部のグラウンドまで飛んでいった。
「うん!!大体こんな感じ!!わかった!?」
「あ……あんまり……」
いつもはやんちゃな子供っぽいのにバッティングになるとそれを全て打ち崩してくるような力を見せてくる彼女にはいまだに慣れない。しかも一度にいっぱい解説されるから何からやればいいのかもわからなかったし……
「優愛、一つずつやろう。そんなに一気には無理だから」
「えぇ!?じゃあ引き手からやろっか」
すごくしょんぼりしてる優愛ちゃん先輩を見て申し訳ないような気もしてくる。その一つ一つの行動が本当に先輩っぽくなくて後輩に教えられているような感覚になるのは気のせいじゃないんだろう。
「もう一球お願い」
「ほーい」
その頃グラウンドでは莉子さんと紗枝が澪さんからノックを打ってもらっていた。
「莉愛ちゃんはこっちに集中しようね~」
「ほへんははい」
今日の試合ではダブルプレーを取る場面がなかったからかそこを徹底的にしている二人。二人の連携は練習試合でもほとんど機会がなかったけど、それを感じさせないほどにミスがない。
「ボールに右手を当てに行くようなイメージでスイングするんだよ」
「はい!!」
後ろから視線を感じながらの打撃は緊張感がすごい。おかげで疲労がいつもより溜まっているような感じがする。
カキーンッ
指導されるがままにバットを振ってみるとライナー性の強い打球が飛ぶ。あまりにもいい当たりが出たことに打った私も驚いてしまった。
「いいじゃん」
「その調子でどんどんいこう」
「はい!!」
二人から見てもいいスイングができていたようでそんな言葉をかけてくれる。私は二人の指導を受けながら日が暮れるまでバットを振り続けた。
後書き
いかがだったでしょうか。
初戦とライバル校を少し出してみました。次は三回戦をチャチャっとやってメインゲーム三連戦に入っていこうと思います。
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