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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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新戦力

 
前書き
雪がすごすぎて外に出たくないので今日は投稿に時間割けました笑 

 
「しかし……また片寄った組み合わせになったもんですね」

一枚の紙を見ながら本部席で試合を見つめている町田。彼は隣にいた他校の部長に話しかけていた。

「翼星と南第二が初戦でぶつかりましたからね。しかも順当に行けば準々決勝で明宝と当たりますし」

夏の選手権大会の組み合わせ抽選の結果を見ながら試合を見つめている彼ら。他にも多くの学校関係者が本部席で試合を見つめていた。

「東英さんは明日ですもんね?どうですか?緊張してましたか?」
「よくも悪くもいつも通りって感じでしたよ。そちらは?」
「うちなんか緊張してて眠れてない子もいるみたいで……」

互いのチーム状況を話し合う面々。それが本当かブラフかはわからないが、補助員として本部席にいるとは思えないほど彼らはリラックスしていた。

「町田先生、新野(ニイノ)先生、しっかりスコア付けておいてください」
「は~い」
「すみません」

公式戦のスコアは新聞や後日各校へと配布される資料に載るため各校の部長や監督が行っている。その日に試合がない学校が担当になるため、町田は面倒くさそうにしながらもこれをやらなければならないのだ。

「明宝のスコアだったらよかったのに……」
「敵情視察ですか?でも日帝大もいますし翼星も勝ち上がったら当たりますからね」
「いや、どうやら新戦力が出てきたみたいだからな」

選手名鑑を取り出しながらパラパラとページをめくり始める町田。それを後ろからすごい形相で睨まれていたが、彼は気にすることなく話を続けた。

「ほら、4番に一年生が入ってる。おかげで優愛が5番になってるよ」
「元々サードでしたもんね、渡辺さん」

選手名鑑には各校のベンチ入りメンバーが書かれている。たまに三年生をこの段階では入れておいて直前に行えるメンバー変更で本来のメンバーである下級生を登録し直すこともあるが、強豪校はそれを行うことはほとんどない。

「他にも一年生が4人……斉藤を除いてはみんな番号が大きいけどな」

ベンチ入り20人の中に春までいなかったメンバーが5人も入っている。さらにはそれにより外れてしまった上級生もいるため、よほどの新戦力が入ったのだと彼は読んでいた。

「4番の丹野(タンノ)さんはわかります?」
「去年声は掛けようと思ったんだけど……その時には千紗……二遊間候補の獲得が決まってましたからねぇ」
「一人しか声掛けないんですか?」
「何人かは声掛けますよ。ただ、丹野は二遊間特化型みたいなプレイヤーでしたからね」
「あぁ……なるほど」

他のポジションも守れそうな選手なら声をかけてコンバートするのもありだが、それが難しそうな選手もいる。そうなると試合に出しにくくなるため町田はあえて声をかけなかった。

「でもライバル校に行かれたら嫌じゃないんですか?」
「それはあるけど……選手の伸び代を考えた方が得策ですからね」
「あぁ……そうでしたね」

町田は女子野球U-18日本代表の監督も務めているため、有望な選手には極力多くの経験を積んでほしいと考えている。もちろん優秀な指導者の元に行ってくれるならの話にはなってくるが。

「他の一年生はわかりますか?」
「聞いたことある奴もいるけど……全然知らないのも一人いますね」

中学時代から野球をしてきた都内の選手はほとんど把握しているはずが、彼でも知らない選手がいたことに本部席はざわついていた。ましてはそれが一年生ながらシード校のベンチに入っているとなればなおさら。

「日帝大は相変わらずですね」
「一年生は秋まで体作りをやらせてますからね。どれだけ実績や実力があろうがそれを徹底してるから結果も出てきたんでしょう」

高い攻撃力を誇る日帝大付属は二、三年生のみで夏の大会を毎年勝ち抜いている。それは一年生時のトレーニングによる土台作りが功を奏しているからなのだが、それゆえに実績のある選手に敬遠されることもあるらしい。

「監督がどこに丹野を置いてくるのかが見物だな。それをこの目で確認できるのがありがたいですよ」

補助の試合や会場は組み合わせにより決まるため確認しておきたい試合が見れないことなどざらにある。今回ばかりはいいくじを引いたと町田もご満悦のようだった。

















一試合目の補助が終わりスタンドへと移動してきた町田。彼の隣には三脚にカメラを立てている少女と、スコアブックの準備をしている少女がいる。

「先生の予想だとどんな打順になってそうですか?」

カメラの準備を終えた少女がスマホをいじっている町田へと声をかける。

「俺なら丹野は二番に配置するかな」
「一年生なのにですか?」
「今の打順じゃ陽香に負担がかかりすぎだからな」

エースであり打線の中軸も担っている陽香。彼女の使われ方では上に行くにつれて消耗が激しすぎると感じていた彼はそう考えていたらしい。もちろん、決めるのは監督だがと付け加えていたが。

『本日の第二試合ーーー』
(さて、どんな打順を組んできてる?)

本来なら彼は本部席で試合を見ることができる立場にあるのだが、今回は選手の入れ替わりがあったライバル校のデータを取るためにビデオ班と行動を共にしている。そのため、この段階ではどのようなオーダーを組んでいるのかわからないのだ。

『続きまして、後攻、明宝学園高校のスターティングメンバーは、一番ライト新田さん』
(やっぱり栞里は一番のままか。じゃあ次は?)

次の打者の名前によりどのような意図を持ってオーダーを組んできたのか、春からどの程度成長しているのかが見えてくる。普段はなかなか見せない彼の真剣な表情に、隣にいる少女たちも背筋が伸びていた。

『二番セカンド丹野さん』
「そう来たか」

その名前を聞いた瞬間、彼から笑みが溢れた。舐めているのではない、相手に成長が見られたことに対する喜びの笑みだ。

(となると三番は莉子か?それとも優愛を上げてくるか?)
『三番ショート水島さん』
「莉子が三番ね。なるほど」

数回頷きながら納得の表情を浮かべる町田。しかし、彼の横にいた少女たちは、今のアナウンスに違和感を抱き顔を見合わせていた。

「あの……」
「シッ」

何かを言おうとした彼女を制する。よほどこの試合の行方が気になっているらしく、それ以外のことには頭が回っていないらしい。

『四番サード渡辺さん』

止められた少女はソワソワとしているが、見えているはずの町田はあえてそれをスルーし続けている。

『五番ファースト東さん』
(葉月を上げてきたか。じゃあ陽香はどこに入れるんだ?)

ここで予想とは異なるオーダーが出てきたことに目付きを鋭くさせる。その意図を読み取らなければ自分たちが喰われてしまう可能性があるだけに真剣だ。

『六番ピッチャー坂本さん』
「陽香をこの位置ってことは……」
「先生!!」

色々と彼なりの思考を張り巡らせている最中、業を煮やした少女の声に驚き体を震わせる。

「なんだよ、今色々考えてーーー」
「明宝のオーダー、おかしくないですか?」

わざわざ何用かと思えばわかりきった問いにタメ息を漏らす。

「あのな……新戦力が入ったら打順が変わるのは当たり前でーーー」
「いやいや!!そうじゃなくて!!」

そう言ってスコアボードを指さす少女。彼はいまだに彼女の言いたいことがわからないままそちらに目をやる。その時は意味がわからなかったが、次の放送でようやく違和感に気が付いた。

『七番レフト菊池さん』
「え?センターじゃない?」

春とポジションが代わっている選手がいることにここで気が付いた町田。彼は少女の指さすスコアボードに映し出される打順とポジションを確認する。

「三番に6ってことは……」

旧式のボードのため名前は表示されていない。しかし、誰のポジションが代わっているのかはすぐにわかった。そして……

『八番キャッチャー城田さん』

それによりどのポジションにさらなる戦力が加わったのかもすぐに明確になる。

「まさかあの人がこんなフェイクをしてくるとは思わなかったな」
『九番センター高嶋さん』

その次のアナウンスが頭に入ってこない。彼の知る真田は背番号通りに初戦を戦ってきた。勝ち進むに連れてスタメンが代わることはあったが、大事な初戦をベストメンバーで挑まないわけがない。

「あのキャッチャーは知ってるか?」
「いや……」
「私も……」

この日のビデオ撮影は一年生二人。名鑑を確認した彼は同い年の彼女たちなら把握しているかと訊ねてみるが、二人は首を横に振るだけ。

(誰も知らないなんてことがあるのか?中学時代は埋もれていたってことか?)

まさか大事な初戦を三ヶ月前まで未経験だった少女に任せているとはわかるはずもなく、困惑を隠しきれない町田。しかし、彼はすぐに落ち着きを取り戻した。

「まぁ、見てみればわかるか」

試合はすぐにでも始まる。それを見ればこのオーダーがハッタリか否かすぐにわかる。

「あの……今日の練習は?」
「瞳に任せるわ。LINEしておこ」

本来なら最優先にしなければならないことすら後回しにしてしまうほど興味を引かれた青年。彼はLINEを送り終えると試合に向けて忙しなく動いている選手たちをじっと見つめていた。



 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
やっと夏の大会開幕です!
そしていきなり莉愛ちゃんの出番です。
果たして彼女は期待通り活躍できるのか!? 
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