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恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS

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第百七話 曹操、司馬尉に詰め寄るのことその十

「そうね。皇帝をここで殺せばいいわね」
「帝を!?」
「まさかここで」
「それもいいわね」
 司馬尉の笑みがだ。より凄惨なものになった。
 その笑みだ。帝を見てだ。
 右手を挙げようとする。それを見てだ。
 劉備がだ。すぐに玉座の帝を見上げて叫んだ。
「お逃げ下さい!」
「いえ、私はここにいます」
「ですがそれは」
「太子達がここにいるのです」
 そのだ。戦いの場にだ。
「それでどうして私だけ逃げられましょう」
「ではここで」
「私もいます」
 逃げないとだ。毅然として言うのである。
「司馬尉なぞに背は向けません。それに」
「それに?」
「私はここにいることで戦います」
 そうするとだ。己を殺そうとする司馬尉を見据えて言った。
「この女と」
「!?まさか」
 ここでだ。司馬尉は皇帝を見てだ。
 そのうえでだ。気付いた様に言った。
「この状況では」
「!?姉様一体」
「何があったのですか?」
「よくないわね」
 周囲を見てだ。それで言ったのだった。
 今だ。司馬尉達の周りにはだ。北に翁とズィーガー、東に楓と十兵衛がいた。
 そして南には嘉神に覇王丸、西に示現と狂死郎が位置していた。そのうえだ。
「三種の神器、巫女達も揃っているわね」
「これだけの力に囲まれて本気になられれば」
「危ういですか」
「特にあの娘ね」
 月を見てだ。司馬尉は言った。
「あの娘の力は常世さえ封じるものだから」
「だからですね」
「今は」
「そうよ。今は下手に動いたら封じられるわね」
 こう言うのだった。妹達に。
「だから。ここは退きましょう」
 于吉も言う。
「それが賢明です」
「わかったわ。それじゃあね」
 こうだ。彼等の中で話してからだ。
 そのうえでだ。司馬尉は劉備達に言った。
「気が変わったわ。帰るわ」
「随分と勝手なことを言ってくれるな」
 関羽がその司馬尉を見据えて言う。
「これだけのことをしてくれてか」
「言っておくわ。やがてこんなものでは済まなくなるわ」
 悠然とした笑みを戻してだ。司馬尉は言うのだった。
「けれど今はね」
「逃げるというのだな」
「そうよ。逃げるわ」
 平然と笑ってだ。司馬尉は言い返してだ。
 そのうえでだ。己の前に黒い渦を出してだ。その中に向かう。その中でだ。
 彼女はだ。劉備達に言った。
「また会いましょう。その時こそはね」
「終わりよ、全てね」
「その時こそが」
 司馬師と司馬昭も言う。しかし。 
 その二人にだ。陳宮と華雄が飛び掛かる。
「行かせないのです!」
「貴様等だけでも!」
「待つ」
 しかしだ。その二人にだ。
 呂布がぽつりと言った。その瞬間にだ。
 二人は動きを止めた。すると今向かおうとしたその場所にだ。
 巨大な火柱があがり無数の氷の刃が起こった。それを見てだ。
 陳宮も華雄もだ。蒼白になって言った。
「な、何なのですこの炎は」
「まさかあの二人も」
「当然よ。私達も狐の血が入っているのよ」
「術は使えるわ」
 二人もだ。姉と同じくだった。
 その悠然とした笑みを浮かべだ。言ってきたのである。
「私は炎」
「私は氷よ」
 司馬師と司馬昭がそれぞれ言う。
「それが使えるのよ」
「こうしてね」
「あのむかつく姉だけちゃうんやな」
 張遼はそのことに歯噛みしながら述べた。
「ほんま難儀な奴等やな」
「そやな。何処まで嫌な奴等やねん」
 ロバートも言う。話し方は張遼と似た感じになっている。表情も。
「おまけにそこの眼鏡にチビもおる」
「ははは、于吉といいますので」
「左慈だ」
「そんなもんわかっとるわ」
 二人の名前自体は覚えているというのだ。
「御前等のその胡散臭さを言うとるんや」
「そうよね、一体何なのよあんた達」
「今だに正体不明なんだがな」
 ユリにリョウも続く。
「こっちの世界の人間でもないし私達の世界の人間でもないし」
「では何なのだ」
「それはあの方々がお話してくれます」
「俺達から言うことはない」
 こう言ってだった。二人はだ。
 やはり何も言わずだ。それでだ。
 その場から消えたのだった。司馬尉の妹達もだ。
 それぞれ自分達の前に黒い渦を出して姉と同じ様にして消えた。それからだ。
 彼等は姿を消した。そうして都から姿を消したのだった。かくして司馬尉は宮廷から消えだ。謀反人と正式に定められたのだった。
 だがそれは終わりではなかった。今度も戦いのはじまりでしかなかった。


第百七話   完


                        2011・9・7 
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