物語の交差点
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とっておきの夏(スケッチブック×のんのんびより)
ぼうけんびより
前書き
これより2日目です。
ー6時55分・神社ー
ーーー翌朝も快晴だった。
神社の境内は朝日の清らかな光に包まれてどこか神々しい雰囲気を醸し出し、数時間前までは静謐を保っていた鎮守の森はすでに蝉の声に満ちあふれている。
その鳴き声を破るように人の声が聞こえてきた。
木陰「こうしてみんなでラジオ体操するのはいつぶりかしらね」
蛍「東京では団地とかでやってましたけど私は団地住まいではなかったので、この習慣はこっちに来てから知りました」
なっちゃん「あれ、蛍ちゃんこっちの生まれやないと?」
蛍「私はもともと東京で、今年の春こっちに引っ越してきたんですよ」
渚「その割にはずいぶんここに馴染めているよねえ」
蛍「それは皆さんがよくして下さるからで……」
一穂「ほーい、時間になったねえ。そんじゃ始めるよー」ポチー
一穂がラジカセの再生ボタンを押した。
蛍「あっ、ラジオ体操が始まるみたいですよ」
しばらくの間のあと、スピーカーから男性アナウンサーの声が流れてきた。
アナウンサー『こんにちは、○○です。元気に体操しましょう。ラジオ体操第一!』
ラジオ体操の軽快なメロディとともにアナウンサーの声が入る。
空(この音楽、懐かしい…。)
アナウンサー『腕を大きく上げて背伸びの運動からー……はい!』
ーーーー
ラジオ体操は順当に消化されていき、中盤に差し掛かった。
アナウンサー『身体をねじる運動ー!』
朝霞(・・・ん?)
朝霞はふと、隣で体操しているれんげの身体の動きが段々と大きくなっていることに気がついた。
れんげ「」バッ!バッ!
れんげ「」グイッ!
れんげ「」ギュルルルル!
れんげ「」バーン!
れんげは大袈裟に体を捻ってからコマのように回り、最後にビシッとポーズを決めた。
スケブ勢「」ポカーン
のんのん勢「」グッグッ
スケブ組は呆気にとられてポカンとしている一方、のんのん組は気にすることなく体操を続けている。
れんげ「どうですか?ウチのダンスはー」フフ…
なっつん「これダンスじゃなくて体操だけどねー」グッグッ
れんげの問いになっつんが体操しながら答えた。
れんげ「なっつん、それはないのん!ウチは毎日微妙にポーズ変えてるん。ウチの努力を見てほしいん!」
なっつん「うん、知ってるよ」
ひかげ「れんげ、もう見飽きたってさ」
『諦めろ』と言わんばかりにひかげが言った。
れんげ「そんな…これまでのウチの努力は無駄だったのん……?」ガーン
れんげがショックを受けたそのとき。
ケイト「Foooooooooooooo!!!!!!」
一同「」ビクッ
ケイトが突然大声をあげたので皆ビクッとした。
小鞠「ケ、ケイトさん。どうしたんですか?」ドキドキ
ケイト「Great!! スバラシイデスヨ、れんげー!これまでの常識ヲ覆ス新しいニッポンのラジオ体操!コレぞ“New standard”デース!!」パチパチ
拍手しながらケイトはれんげを称えた。
れんげ「本当なん!?毛糸は分かってくれるのん!?」
ケイト「モチロン!コレまでやってきた体操の中でイチバン感動しました!是非ともワタシにやり方を教えてクダサーイ!!」
れんげ「いいですとも!喜んでお教えしますん!!」フンスフンス
一穂「あー、盛り上がってるとこ悪いけどそろそろ終わりにするよー。ほら、れんちょんもハンコ押すからこっちに持ってきなー」
一穂がれんげを呼びに来た。いつの間にのんのん勢の他のメンバーはすでにハンコをもらったようだ。
れんげ「わかったん!じゃあ後で教えるん!!」
ケイト「ハーイ、楽しみにしてマース!」
れんげは一穂からハンコをもらったあと、少し離れたところで話しをしていた他のメンバーと合流して話しの輪に加わった。
一穂「ケイト、ありがとうね。助かったよ」
れんげが去っていったのを確認してから一穂がケイトにお礼を言った。
ケイト「イエイエー、れんげが傷つかずに済んだので何ヨリデスヨー!それにワタシがれんげの体操に興味を持ったのは事実デスシ」
渚「やっぱり興味があったんだ…」
葉月「どちらかと言うとあのダンスは田辺先輩とか氷室先輩が興味を持ちそうだけど…」
なっちゃん「ああ、涼風コンビね」
一穂「涼風コンビ?」
なっちゃん
「ええ、美術部一の最強漫才コンビです。どげん(どんな)ことでもネタにしてしまう高いお笑い能力を持っています。しかもこっちがツッコミば入れるまで延々とボケ倒されるけん、やおいかんとですよ(=大変なんですよ)」
一穂「へー、面白そうなコンビだねー」
なっつん「おーい、早く帰ろうよー!」
なっつんが未だに話し込んでいる一穂たちを呼びに来た。
一穂「ああ、そうだった。じゃあ行くかー」
卓「」ウン
日差しが強くなる前に一同は撤収した。
ー
ーー
ーーー
・一条家・
それぞれの家で朝食後、一行は蛍の家に集まった。
最寄り駅からは蛍の家が一番近く、スケブ勢の荷物をまとめて置いておくのにもいいだろうという判断からである。
なっつん「さてと。れんちょん、どうやって動こうかねえ?」
れんげ「ウチは遠くから攻めたほうがいいと思いますん!」
蛍「というと?」
れんげ「まずは分校に行くのが吉とみたん!そのあと水車を見に行って駄菓子屋に行き、時間があれば池にも行くのん」
れんげは蛍の部屋にあった観光協会発行の案内マップを指し示しながら説明した。
朝霞「れんげちゃん、なんか作戦参謀みたいですねえ」
空「」ウンウン
れんげ「ウチ、お月見のときに供えられてしまうん…?」
ひかげ「それは三宝。参謀ってのは作戦を立てる専門家みたいなもののことだよ」
れんげ「そうなん!ウチ、さんぼーですん!」
れんげが得意げに言った。
小鞠「それにしても、れんげの考えたプランはなかなかいい案ね。これなら広い村内を効率よく見て回れるかも…」
蛍「そうですね。れんちゃんが考えたその案でいきましょうか」
なっつん「うん、そうしようか!じゃあれんちょん参謀、よろしくお願いします!」
なっつんがれんげに頭を下げた。
れんげ「うちにお任せなのーん!!」フヌー!
れんげは自信たっぷりにそう答えた。
ーーーこうして小さな冒険は始まったのだった。
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