物語の交差点
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
とっておきの夏(スケッチブック×のんのんびより)
僕らの冒険 〜 分校①
れんげ「あっ、姉ねぇなん!」
一条邸を出た一行は出発してすぐ一穂と行きあった。
一穂「おー、れんちょん。そろそろなんじゃないかと思って」
れんげ「バッチリのタイミングなん」
一穂「それで結論はどうなったん?」
れんげ「行くことになったのん!」
一穂「よーし、じゃあ私は先回りして鍵開けておくよ」
れんげ「お願いしますん!」
一穂は元来た道を引き返していった。
なっつん「かず姉どしたん?」
れんげ「姉ねぇには分校に行くことが決まったら鍵を開けてもらうようお願いしてたん!」
小鞠「あー、休みだから用務員さんいないんだっけ」
れんげ「そうなん。でも姉ねぇは予備の鍵持ってるん」
渚「そうか、一穂さんはれんげ君たちの先生でもあるもんね」
れんげ「だからウチにとっては毎日が授業参観みたいなもんなん」
なっつん「ウチ、毎日参観日だったら絶対不登校になる自信あるなー」
小鞠「それだと結局家で怒られるんじゃない?」
なっつん「大丈夫だって!部屋に籠城すれば平気だよ」
蛍「そうこうするうちにバス停に着きましたね」
一行は一条邸から最寄りのバス停に到着した。
蛍「いつもだったらもうすぐバスが来るんですけど…」
ひかげ「休みの期間中ってバス来たっけ?」
蛍「え?」
蛍はひかげを見た。
小鞠「たしか学校が休みのときは運休だったような…」
なっちゃん「本当やん、張り紙がしてある!」
なっちゃんは時刻表に貼られた「夏季休業期間中の運行について」という貼り紙を指さした。
蛍「しょんな……」
空:蛍ちゃん、ここから学校までは歩いてどれぐらいなの?
蛍「えっと、私もバスでしか行ったことなくて…。バスだと20分前後でしょうか?」
なっつん「ウチんちから自転車で1時間ちょっとかかるもんねー」
葉月「ということは15キロぐらいだから、歩きだとだいたい3時間ってところかしら…?」
空:ワタシでもちょっとキツい…。
朝霞「つまり学校に行くのは厳しいということでしょうか?」
ケイト「困りマシタネー」
早くも計画が暗礁に乗り上げかけていた、そのとき。
ブロロ…。
一台の軽トラがこちらに向かって走ってきた。
樹々「あれ?あの軽トラは…」
なっつん「かず姉だー!」
そしてその軽トラの運転手は一穂だった。
一穂「いやー、ごめんね。休校日はバスが来ないってこと忘れててさー」バタン
れんげ「姉ねぇナイスなん!」
一穂「ありがとう。さあ、みんな乗ってー」ガチャガチャ
軽トラの後ろアオリを外しながら一穂が言った。
樹々「荷台に乗るんですか?」
一穂「ん?ここらじゃ普通だよー」
樹々「いや、そうじゃなくて…警察に怒られないんですか?」
一穂「大丈夫大丈夫、この辺りは駐在所がひとつあるだけで車通りもほとんどないから。信号もないしお巡りさんも見逃してくれるってー」
樹々「は、はあ…」
『田舎っておおらかなのねえ。』
樹々はそう思った。
ー
ーー
ーーー
ー旭丘分校ー
軽トラに揺られること20分あまり。一行は旭丘分校に着いた。
れんげ「ここがウチらの学校なーん!」
平屋建ての木造校舎。赤いトタン屋根は経年劣化で色あせ、朱色に変わっていた。
空(おお…。)
木陰「趣きがあっていいわね」
空「」ウンウン
校舎の入口には「旭丘分校」とだけ書かれた看板が立てかけてあった。
木陰「一穂さん。この看板、どうして『旭丘分校』とだけしか書かれていないんですか?」
一穂「あー、前はちゃんと本校の名前が書かれた状態でかかってたんだけど台風で看板が飛ばされたときにその部分がどこかに行ってしまってねえ」
空:へえ。
一穂「たぶん折れたんだと思うけどどこを探しても見つからないし、新しく作り直すのも面倒だからそのままにしているんだよ」
れんげ「ウチが何回言っても姉ねぇは『いいのいいの、どうせ本校の人なんて誰も来ないんだし』って聞く耳を持たないん。この看板はそんな姉ねぇの怠惰な性格を如実に物語ってるんなー」
一穂「んー!なんか今日のれんちょんは饒舌だねー」
広い校庭にはいくつかの遊具の他に二宮金次郎の銅像もあった。
なっちゃん「あっ、見てん(見てよ)!二宮金次郎像ばい!」
葉月「私、二宮金次郎の銅像はじめて見たわ」
蛍「私もこっちに来て初めて見ましたよ」
小鞠「二宮金次郎像ってどこにでもある訳じゃないの!?」
蛍「歴史のある学校では多く見かけますけど、最近できた新しい学校ではまず見かけませんね」
小鞠「そうなんだ、知らなかったなー」
一穂「……よし。れんちょん、開いたよ」ガチャリ
いくつかのグループに分かれ他愛もない話しをしている間に一穂が鍵を解錠した。
れんげ「それじゃあ案内するのん!」
れんげを先頭にして他のメンバーも後に続く。
朝霞「レトロな佇まいですねえ」ギシギシ
木陰「床の軋む音がたまらなく良いわね」ギシギシ
築何十年にもなる古い校舎。
木造建築物特有の床が軋む音があちこちで響きわたり、それだけでも味がある。
なっつん「渚ちゃんたちの学校もこんな感じなん?」
渚「いやいや、鉄筋コンクリート造りの現代的な建物だよ?たぶんひかげ君の通っている学校もそうなんじゃないかな」
ケイト「ひかげの通ってイル学校はどんなトコロなのデスカー?」
ひかげ「普通の学校とそんなに大差ないよ?変わっているところといえば学校の上空に魔王城が浮かんでいることぐらいかな」
ケイト「魔王城!?」
ひかげ「うん、一度爆発騒ぎがあったけどつい最近再建された。あのときは新聞にも載ったなあ」
樹々「爆発!? やっぱり東京はすごいのねー!」
渚「いや、それは多分ひかげ君の学校だけなんじゃないかな…?」
昇降口から入り廊下に出るといくつものバケツが点在していた。
空:ねえ、あのバケツは何?
一穂「ああ、あれ?ただの雨漏り防止用に置いてるだけ」
一穂「だけどあまり近づかないようにねー」
葉月「そう……ですね。うっかりバケツを動かして雨漏りの位置が分からなくなったら大変ですし…」
一穂「いや、そうじゃなくて。床が湿気って腐ってるから近づくと抜けるよ?」
なっちゃん「えっ!?」
一穂「いやいや冗談冗談!今まで床にハマったお間抜けさんなんていないってー。まぁ一応気をつけてって話しだよ」
葉月「え、あ…そうですか…」
卓「・・・。」(←床が抜けてハマった)
ーーーー
ー教室ー
れんげ「ここがウチらの教室なん!」ガラガラ
朝霞「本当に小中学生混在のクラスなんですねー」
朝霞が「2年1組+小1+小5+中1+中3」と書かれたプレートを見上げながら言った。
木陰「福岡市内の小中学校はほとんどが複式学級だから新鮮ね」
朝霞「そうですねー。小中一貫校はありますけど分校があるという学校は聞いたことありませんし」
れんげ「さっそく中に入るん」
葉月「お邪魔します」
空「」ペコリ
教室内には机が5つ並んでいた。荷物棚も同じく5つしか使われておらず、どこか広々とした印象を受ける。
なっちゃん「あたしらも一度でよかけん、こげんところで授業受けてみたかね」
ケイト「ソウデスネー!新しい発見が生マレルかもシレマセーン」
れんげ「これが“ひらたいらさん”なん!」
れんげは荷物棚の上に置かれている水槽を示した。何匹ものカブトエビが悠々と泳いでいる。
渚「おお、カブトエビだね」
れんげ「これ、5代目なん!」
渚「5代目?」
れんげ「ウチが捕まえたんが初代でその後なっつんが蘇生させてくれたんが2代目なん!」
樹々「なるほど、この“ひらたいらさん”はその子孫なのねー」
空:ところでどれが“ひらたいらさん”なの?
れんげ「どれもなん!こっちのはエサいっぱい食べるん。こっちのは泳ぐの速いん。あっちのはーーー」
樹々「1匹1匹見分けがつくのね!?」
渚「愛好家からしたらそんなもんだよ。私だって前飼ってたテッポウエビの区別ついてたし」
ひかげ「あー、あのハサミから破裂音出すやつ」
渚「そうそう、顧問の春日野先生に何匹かあげたら『うるさくて夜眠れなかった』って言ってたよ」
空(破裂音?)
ポワポワ…
春日野日和『』Zzzzz…
テッポウエビ『』ボン!
日和『!?』ビクッ
テッポウエビ『』ボン!ボン!パーン!
日和『ああもう!眠れないじゃないのー!!』キーッ!!
ポワポワ…
空:なるほど、それは眠れないだろう。 ウンウン
渚「空君、破裂音といっても爆発音までの大きな音じゃないからね?」
空:そうなの?
ひかげ「うん」
れんげ「次はウサギ小屋を案内するのん!」
しばらく「ひらたいらさん」を見ていたれんげが言った。
渚「ウサギ小屋…。飼育小屋のことかな?」
れんげ「そうとも言うん」
蛍「飼育小屋かあ、苦い思い出が蘇ってくるなあ」アハハ…
蛍が苦笑いした。
樹々「苦い思い出?」
蛍「いや、以前れんちゃんと飼育小屋行ったとき小屋に閉じ込められたことがあるんですよ」
樹々「へえ、大変だったのねー」
蛍「はい…」
ーーーそんな話しをしつつ、一行は飼育小屋に向かった。
ページ上へ戻る