八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第三百二十三話 お餅つきその五
「それで、ですね」
「今じゃ夫婦水いらずらしいね」
「遊んではいるけれど」
「イタリアでも」
「親父は生粋の遊び人ですからね」
それこそ遠山の金さんか前田慶次さんかという位だ。
「ですから遊ばないと」
「もうそれはだね」
「本当にどうしてもだね」
「止君は昔からそうだよ」
「やんちゃなんだよ」
「ですね、けれど一族の厄介者って言っていても」
親父が自分でだ。
「皆さん嫌いじゃないですね」
「遊び人でも筋が通っているからよ」
四十代で黒髪がしっとりとした女優みたいな整った顔立ちでしかも上品な色香のある人が笑顔で言てきた、親父の従姉で八条化粧品の副社長である希美さんだ。一族の中でも美人として知られていて家ではいい奥さんでお母さんらしい。
「だからなのよ、貴方のお父さんは」
「一族でもですか」
「好かれているのよ」
「そうなんですね」
「女好きでも相手のいる人とは遊ばないで」
「それも徹底してますね」
「幾ら遊んでも家庭のことは忘れないで」
このことも確かだ。
「恩や義理は絶対に護るからよ」
「人としての筋が通ってるんですね」
「困った人は見捨てないしね」
「それで、ですね」
「だから子供の頃からやんちゃだったけれど」
まるで弟のことを話すみたいな言葉だった。
「それでもね」
「好かれていて」
「今もこうして笑顔でお話するのよ」
「そうなんですね」
「確かに一族のはねっかえりでね」
希美さんは笑ってこうも言った。
「昔から遊び人で言われても気にしないだったけれど」
「それでも人として大事なものは持っていて」
「やったら駄目なことはわかっているから」
そうした人だからだというのだ。
「それでなのよ」
「親父はですね」
「好かれているし人望もね」
「あるんですね」
「うちの兄さんも言ってるわよ」
希美さんのお兄さんもグループの経営者の一人だ。
「止君はあれで一つの道にいるってね」
「言うなら傾奇者の道ですね」
「それね、あの子はね」
「傾奇者ですね」
「そうよ」
希美さんも親父についてこう言った。
「まさにね」
「傾いているからですね」
「あの生き方なのよ」
「不良とかじゃないですね」
「傾いてるのはまた違うのよ」
「オーソドックスではなくてもですね」
「アウトロー的な美意識があってね」
そうしてというのだ。
「火としての道もね」
「外れないんですね」
「そうした人が傾奇者でね」
「傾くってのはそういうことですね」
「そうなの。まあ昔よくいた破滅型の作家さんやタレントさんとは違うわ」
こうした人とはというのだ。
「昭和の頃のね」
「ああ、坂口安吾とか」
「あと太宰治ね」
「太宰はその典型的なパターンですか」
「ええ、あと漫才師でもいたでしょ」
「横山やすしさんですか」
「ああした人がね」
まさにというのだ。
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