八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第三百二十話 飲み終えてその十三
「特に音楽家の滝廉太郎はな」
「凄い才能だったのが」
「二十代ちょっとで死んだんだ」
「本当に残念だったね」
「ああ」
実際にというのだ。
「結核が助かる病気になってよかったな」
「本当にそうだね」
「あと十年早かったら」
「織田作之助も死ななかったね」
「ああ、本当にな」
「あと十年だったね」
「結核で本当に沢山の人が死んだんだ」
親父は残念そうに言った。
「二次大戦の頃までな」
「その頃にペニシリンが出来たし」
「ああ、ペニシリンは凄いからな」
「あれで結核も助かる病気になって」
「梅毒もだったからな」
この病気もだ、本当にペニシリンが世に出て一体どれだけの人が助かったかわからない位だ。そう思うと偉大なものだ。
「大きかったさ、俺は外科医だけれどな」
「それでもだよね」
「ペニシリン、そして他の薬はな」
「凄く評価してるね」
「ああ、本当に沢山の人が死んだんだ」
結核、この病気でというのだ。
「治る様になってな」
「よかったね」
「けれど亡くなった人についてはな」
「残念だよね」
「ああ」
実際にという返事だった。
「本当にもう少しな」
「開発が早かったら」
「よかったな」
「それでそのことも思いながらだね」
「母さんと食ってくるな」
「うん、じゃあね」
「またな」
親父は最後は笑顔だった、その笑顔で僕と別れた。僕はその親父を見送ってから八条荘に戻った。これがこの年親父と最後にあった時だった。
第三百二十話 完
2021・2・15
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