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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第三百二十話 飲み終えてその六

「それだけでいいとは限らないのが怖いんだよ」
「人間っていうのは」
「世の中もな」
「そういうことだね」
「ただ、取り返しのつかないことをした人がな」
 親父はここで顔を上げて僕に言ってきた。
「反省して素晴らしいこともするさ」
「そんなこともあるんだ」
「確かに取り返しがつかなくてな」
「後悔してもどうにもならない」
「そんなことをしてもな」
 それでもというのだ。
「素晴らしいことをすることもな」
「そのこととは別にだね」
「それがあるのも世の中なんだよ」
「そうなんだね」
「公民権運動ってあったな」
「キング牧師やマルコムエックスの」
「アメリカのな」
 一九六〇年代のそれの話をしてきた。
「あの人最高裁判所の長官も頑張ったんだよ」
「アール=ウォーレンだった?」
「その人が黒人と白人を分けてるのは駄目だってな」
「法律的に言ったんだよね」
「それで公民権運動が成功したんだよ」
「その人がいてだね」
「二千万の黒人とアメリカの未来を開いたんだよ」
「凄いことだね、けれど」
 僕はそのアール=ウォーレンという人について知っている、それで親父に対しても真剣な顔で言った。
「その人戦争の時に」
「ああ、カルフォルニアの知事でな」
「日系人を収容所に送ったね」
「ジャップって呼んでな」
 戦争中なので差別用語も普通に使われていたのだ。
「それでカルフォルニアに返さないとかな」
「何もしないのは攻撃命令を待ってるとか言ったよね」
「無茶苦茶言ってな」
「十万の人達の人権を踏み躙ったね」
「それでそのことが批判されていたんだよ」
「それもかなりだね」
 僕も知っていることだ、アメリカそれもカルフゥルニアから来た同級生の子に教えてもらったことだ。
「叩かれて」
「明らかに人種差別でな」
「本人にもその感情があって」
「堂々と政策としてやったからな」
「言い逃れ出来ないね」
「そうしたこともしたんだよ」
 このことは紛れもない事実だ。
「あの人はな」
「そうだったね」
「このことは許されないことでな」
「取り返しがつかないね」
「まさにそのことだよ」
 親父が言っていることだ、今まさに。
「あの人はそうしたことをしてな」
「反省して後悔してもだね」
「どうしようもないさ、世の中変わってもな」
 その人がだ。
「罪を責める人もいるしな」
「その人がどう反省して後悔して行いをあらためても」
「罪を憎んで人を憎むでな」
 世の中こうした人もいる、もう憎しみが走って何の容赦も攻撃する人も。
「それでだよ」
「そうした人は責めるね」
「そうさ、けれどあの人はそうしたことをしてもな」
「二千万の黒人の未来を開いたんだね」
「キング牧師やマルクスエックスと同じかそれ以上の貢献をしたんだよ」
「凄いことだね」
「これもまた人間なんだよ」 
 親父は正面を見て遠い目で話した。 
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