八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第三百十九話 お茶漬けを食べてその十一
「それで揉み消しても怨みは残るだろ」
「そうだよね」
「だから最初からな」
「相手のいない人と遊んでいたんだ」
「ああ、本物の女好きだったからな」
「本物だったんだ」
「文字通り英雄色を好むでな」
この人は英雄と言って問題ないだろう、文句なしに近代日本を作り上げた人だ。東洋のビスマルクと言われたそうだがその頭の柔らかさ、江戸時代の人なのに立憲政治や政党政治を受け入れた頭の柔軟さを考えればビスマルク以上ではないだろうか。
「そっちも本物でな」
「遊び方もわかっていたんだ」
「もう毎日二人とか五人とかだったらしいがな」
「親父並だね」
その相手の人の数もだ。
「親父実は伊藤さんの生まれ変わりとか」
「そうだったらいいな」
「いいんだ」
「ああ、あの人よりはずっと人間として落ちるがな」
それでもというのだ。
「正直憧れてるしな」
「それでなんだ」
「若しあの人の生まれ変わりだったらな」
「嬉しいんだ」
「そうさ、それで女の人と遊ぶにもな」
あらためてこの話をしてきた。
「いいな」
「怨みを買わない様にして」
「病気にもな」
「注意することだね」
「昔は本当に死んだからな」
梅毒にでもなればだ。
「そうした遊びだってのはわかっておけよ」
「そう考えると怖いね」
「遊びってのは命懸けなんだよ」
抹茶プリンを食べつつ言ってきた、僕も親父も最後のお酒も頼んでいるけれど二人共スイーツに合うお酒であるカルーアミルクだ。
「酒だってそうだろ」
「飲み過ぎると身体壊すしね」
「実際に死んだ人も多いんだ」
そのお酒、カルーアミルクも飲んで話した。
「酒もな」
「身体を壊して」
「そして女の人もなんだよ」
「怨みやら病気やらで」
「そうしたものなんだよ」
「そう思うと遊びも怖いね」
「快楽と死ってのは表裏一体かもな」
親父はこの言葉も笑って出した。
「その実は」
「生きるか死ぬか」
「それはな」
まさにというのだ。
「表裏一体でな」
「命懸けなんだね」
「そういうものだろうな」
「厳しいものでもあるんだ」
「太宰治は義の為に遊ぶって言ったな」
「何の作品だったかな」
太宰の作品も名台詞名文が多い、特に作品の最後の一文がいつも秀逸なのが太宰の作風の特徴の一つだろうか。
「一体」
「戦後の作品だったな」
「自殺する直前かな」
「まあ大体その二年前位までもな」
「作品だね」
「戦後のな、それでその文章もな」
義の為に遊ぶという普通に考えると既存の価値観の否定の様な文章もというのだ、事実戦後の太宰は自殺するまでそうした価値観を否定していた。
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