| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

MOONDREAMER:第二章~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四章 ダークサイドオブ嫦娥
  第13話 満月の塔 SIDE:H 後編

 ヘカーティアの『異界』の体が向かったルート。そこに彼女は当たりをつけるのだった。
「敵さんのお出ましだね」
「みんな、やるよ!」
「おおー!」
 そう口々に言葉を放つのは、言わずとしれた玉兎達の面々だ。
 正解のルートを守るために戦力を配備する。こうも分かりやすくて何よりだと思いながら『異界』は口を開くのであった。
「いいよこういうの……いよいよを以て『あーるぴーじー』らしくなってきたじゃないの♪」
 そう意気揚々と『異界』は言うと、片手に神力を籠め始めながら更に言葉を続けた。
「生憎他の二つの体は別行動をさせてるけど、お前達なんかこの『異界』だけで十分さ」
「何をー!」
 その『異界』の挑発めいた言葉を受け、玉兎の一羽はいきり立ったのである。そして、それに続いて他の玉兎達も士気を高揚させていった。
「生意気だねー!」
「やっちまえー!」
 だが、現実というものは非情なのであった。
 玉兎の相手は地獄の女神なのだ。つまり神の領域に存在する者である。
 最早それは一方的もいい所なのであった。『異界』は手に籠めた炎の力を弾幕に変えて、次々と敵の群れを撃ち落としていったのである。
「ぶべらっ!」
「はべらっ!」
「もぐらっ!」
 このようにして、敵の兵士はどこか変な叫び声をあげながら面白いように沈んでいったのだった。
「ざっとこんな所だな……」
 こうして敵の群れを呆気なく殲滅した『異界』は、何事もなかったかのように先を進んで行ったのである。
 そして、彼女の前にそれは現れる事となる。
 ──頑丈そうな扉であった。素材自体は床と同じ水晶で出来ているが、それが異質な代物である事を『異界』は早々に見破るのであった。
「……成る程、月のエネルギーで防御を固めているという訳か……」
 つまり、これには月の技術の英知が注ぎ込まれているという事である。
 ──強行突破は難しそうだな。『異界』はそう結論付けるのだった。
 かと言ってこの扉の目の前に来ても自動で開くというような兆しは見せないのである。
 なので、もう少しこの扉を調べてみようかと、そう思った所で『月』から念話による連絡が入ったのであった。
『『異界』よ、聞こえるか?』
「どうした、『月』よ?」
『こっちで宝箱……なる物を見つけてな。その中を調べてみたら『スイッチ』のような物があったって訳だ』
「でかした♪」
 そう言って『異界』はジャストタイミングでいい仕事をしてくれた『月』の事を労うのであった。そして、そのような反応を見せた『異界』の様子から、ますます自分の読みが正しかった事を『月』は察するのであった。
『その様子だと、どうやらビンゴのようだな』
「ああ、全くだ。それじゃあ早速それを押してくれ」
『承った』
 そう『月』からの言葉があると同時であった。『異界』の行く手を今まで強固な守りで阻んでいた扉は、まるで憑き物が落ちたかのようにすんなりと開いていったのだった。
 つまり、シンプルな話である。正解ルートは確かに『異界』が進んだ道であったが、そこにある扉を開くには『月』のルートにあった宝箱の中のスイッチを押さなければならないという事という訳であったのだ。
 つまり、普通に攻略していれば、どうしてもスイッチを押す→正解ルートへ行くという二度手間になるという構造だったのである。
 だが、ヘカーティアは自身の特異な能力で一回の手間でこなしてしまったという事である。これにはこの『満月の塔』を建造した技術者も涙目というものだろう。
 まあ、こういうのはクリアした者勝ちであるから、違法な改造コードを使うようなケースでもない限りある程度は許容範囲というものだろう。
 それはそうと、第一関門を突破した『異界』は皆に召集命令を下す事にした。
「『地球』に『月』よ、戻って来い。これで道は開けたからな」
 それに対して他の二人は否定する意味合いなどないために、素直にその指示に従う事とする。
 そして、まずは『月』が『異界』の目の前へと現れたのだ。
 そう、ヘカーティア達はそれぞれの肉体の場所へ、他の肉体を瞬時に移動させる事が出来るのである。これも女神たる所以なのであった。
「よくやった『月』。お手柄だぞ」
「まあ『異界』の役に立てるならお安いご用というものだよ」
「さすが私だ。素直でよろしい」
 そうしてヘカーティア達は自分で自分を褒めるという芸当をこなしていたのだった。
 アスリート等の精神強さが求められる役職の人が自らを鼓舞する手法として自分自身の奮闘を自分で評価する事が本来の意味での『自分で自分を褒める』だが、このヘカーティア達のように文字通りの場合は一体どうなるのだろうか?
 その答えはヘカーティアにしか分からない常人には理解不可能な概念であるが、当面の目的は彼女ら三人全てを自身の力でこの場に呼び寄せる事にある。
 今こうして『月』はこの場に無事呼び寄せられた訳である。後は『地球』も呼び戻すだけであるので、『異界』は続けて念話で彼女へ呼び掛けたが……。
「『地球』……。早くパンツ穿いて来い……」
『異界』が呆れながらツッコミを入れたとおり、『地球』は今絶賛ノーパンの刺激を堪能中なのであった。
『あっー、ちょっと待ってくれ。この快楽はそう簡単には手放せないからな……ンギモッヂイイ♪』
「ノーパンになどいつでもなれるだろう、早く来い」
 破廉恥な快感に身を預ける『地球』も『地球』であったが、さりげなく問題発言する『異界』も『異界』なのであった。
 だが、こんな不毛なやり取りをしているが、彼女達はれっきとした一つの存在なのである。だから『地球』の方もこれ以上自身を煩わせるような真似はしないのであった。
『分かった分かった。今そっちに行くからな』
「……無論、パンツ穿いてだぞ」
『……ちっ』
 ここに無事『地球』の野望は阻止されたのであった。しょうもないスケールの小さい野望であったが、まあ平和は守られたのである。
 ともあれ、次の瞬間には『地球』は無事に皆の集う前へと舞い戻って来たのだった──無論パンツは穿いた状態で。
「それじゃあ、これで全員集まったな」
「そういう事のようだな」
「じゃあ、先を急ぐとしますか」
 そして三人は口々にそう言うと、『異界』を基盤とした元の一つの姿へと戻っていったのだった。引き続きヘカーティアの塔攻略は継続される事となった。

◇ ◇ ◇

 扉の先も相変わらず水晶の通路は続いていった。だが、明らかに『今まで』とは常軌を逸していたのだった。
 その見た目で分かる変化。それは、今までの通路は透き通った水色であったのに対して、今目の前に繰り広げられているのはエメラルドグリーンとなっていたのだった。
「いよいよダンジョンの奥底に進んだって感じだな」
 その事が視覚情報から分かるこの塔の演出に、ヘカーティアは舌を巻くのだった。
 そんな雰囲気を楽しみながら進むヘカーティアの前に目を引く物が飛び込んで来た。
「これは、スイッチか……?」
 そう、それは紛れもなくいかにも押すと作動するようなスイッチであったのだ。ただし、先程『月』が発見したそれのように宝箱の中に仕込まれていたのではなく、ワープ装置程の大きさの物がこれまた同じく床に組み込まれていたのだった。
 と、なれば後はやる事は決まっているだろう。
「これを踏めばいいのだな?」
 答えはそう言う実にシンプルなものであったのである。ヘカーティアはそれに素直に従う形でその足を踏み込んでスイッチの上に乗るのだった。
 だが、無論彼女は裸足なのである。それでいながらダンジョンの仕掛けに踏み込む様は些か背徳的であったのである。
 まあ、そのようにダンジョン攻略には不釣り合いな艶かしい出で立ちであるものの、要は仕掛けを作動させてしまえばいい訳で。
 スイッチは当然相手が裸足だろうが何だろうがお構い無しなので、何事もなく自分の役割を果たしていくのだった。
 そして、スイッチの起動によりもたらされた結果は、ざっくりと寸断された目の前の道の前に半透明のエネルギー体の足場を形成するというものであった。
「成る程、分かりやすいね」
 仕掛けを起動させれば道は開かれる。それは実にシンプルな展開であったのだ。
 そして、ヘカーティアは迷う事なくその足でエネルギーの足場を踏みしめる。普通の感覚ならそれが足場の役割を果たしているのか訝んで躊躇ってしまうような代物であったが、そこは女神である彼女は瞬時にそれが信頼足りうる足場だと見抜いていたのだった。
 そうしてヘカーティアは人間だったら吊り橋を渡るかのような度胸を要する橋渡りを難なくこなして、向こうの岸まで辿り着いたのであった。
「何て事はないね……」
 それがヘカーティアのこの橋渡りへの率直な感想であった。
 本当に彼女にとって日常茶飯にも劣る出来事であったのである。でなければ地獄の統括などおいそれと出来るようなものではないだろう。
 そして、何の問題もなく進んでいた彼女の目の前に再び『それ』は現れたのであった。『それ』を見ながらヘカーティアは頭をポリポリと掻く。
「やれやれだな……またか?」
 そうヘカーティアがぼやくのも無理はないと言えよう。何せ、彼女の目の前には性懲りもなく先程と同じスイッチが現れたからである。
「全く……これも踏めばいいのだろう」
 言ってヘカーティアは全く同じ動作でスイッチの上へと乗った。
 そして、通例が如く目の前にはエネルギーの橋が現出して道が開けたのである。
「何と言うか……芸がないな。後はまた渡ればいいのだろう?」
 そう言ってヘカーティアは、最早作業的だと漏らしつつも、先へ進むべくスイッチからその身を離したのである。
 それは橋を渡るのは当然自分の身だから必然的に行う事だろう。だが、その事実を嘲笑うかのような事が起こったのである。
 確かにスイッチを押した事で仕掛けは作動して橋渡しはされたのであった。だが、今ヘカーティアがスイッチから降りた瞬間に、まるで逆再生するかのように橋がかき消えていったのだった。
「ほう、これは……」
 この事態に、最早飽き飽きとしていたヘカーティアも興味をそそられたのである。
 そして、もしやと思い、再びその身をスイッチへと預けたのだ。
 すると、これまた再び目の前にはエネルギーの橋が架けられたのであった。そこでヘカーティアは合点がいく。
「うむ、これはずっとスイッチに乗っている限りは仕掛けが作動しているという訳か」
 つまり、常にスイッチの上にいなくては橋は継続しないという事である。
 本来ならばどこか別の場所を散策して重りのような物を代わりに乗せるような処置をしなくてはいけないだろう。何せ体というものは一つしかないのだから。
 だが、この仕掛けにとって今の相手は余りにも相性が悪かったのである。前述の『体は一つ』がこの相手に対しては見事に例外となってしまうのだから。
 この行為はゲームでは反則になるかも知れないが、ヘカーティアは敢えてこれを実行する事にしたのである。
 確かにこの塔の攻略は楽しい。だが、今のこの状況は嫦娥を追い詰める絶好の機会なのだ。故にいつまでも遊び感覚でやっている暇はないというものであるのだ。
 なのでヘカーティアは迷う事なく、『スイッチを押したまま、そこから離れた』のである。
 つまり、そこに『地球』を残したまま本体は離れたという事であった。
「さすがリーダー、私の身を引いてしまうような事を平然とやってのける。そこにシビれるあこがれるゥ!」
「……自分に憧れてどうする」
 と、本体は茶化してくる『地球』を軽くあしらいながらも、彼女の協力で未だ現出しているエネルギーの橋を渡っていくのだった。
 そして、無事に向こう岸まで着くと本体は『地球』に向かって呼び掛けるのだった。
「と、いう訳で後は分かるな? 『地球』よ、戻って来い」
「あいよ。しかし全くを以てこの塔の製作者泣かせの事をするもんだな」
「まあ、そう言うな。今は時間が少しでも惜しいからな」
「それは否定出来ないな。じゃあ、ちゃっちゃと戻りますか♪」
 その『地球』の言葉の後にすぐ彼女の姿はかき消え、本体の元へと戻っていった。そして直後にスイッチは起動しなくなり橋は消滅してしまったのだった。
 だが、今は当然ヘカーティアの本体は既に向こう岸にまで辿り着いている訳であるのだ。
 こうして自身の能力で攻略したのだから文句を言われる筋合いがないながらも、どこか不正に片足突っ込んだ手法でヘカーティアはこの仕掛けをクリアしてしまったという訳である。
 そして、ヘカーティアは目の前にワープ装置を見付けたのであった。だが、それは道中の物よりもどことなく荘厳とした雰囲気がある。
「これの先が……ボスさんのお出ましって所だろうね♪」
 そう当たりをつけたヘカーティアは迷う事なくその装置へと歩を進めていったのだった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧