| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

MOONDREAMER:第二章~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四章 ダークサイドオブ嫦娥
  第12話 満月の塔 SIDE:H 前編

 時はまたしても、勇美と鈴仙がそれぞれの担当の場へと向かった頃へと戻る。
 そして、ここにも自分の向かうべき場所へと向かった者がいたのだった。
 その名はヘカーティア・ラピスラズリ。正真正銘の地獄の女神である。そして、彼女はそんな今の状況を思い返して自嘲気味に呟くのだ。
「……まさか、この地獄の女神たる私が月の民のために行動するなんて思いもしなかったな……」
 そう、彼女は女神という位置にあるが故に、直接民を助けるために動く等とは本来あり得ない話なのである。
 ましてや、彼女は一度純狐と共に彼等に復讐を企てた身であるのだ。だから、自分は月の民へ一肌脱ぐ等という義理は全くといっていい程存在しないのだ。
 だが、こうして今は月のリーダーたる綿月姉妹の指示の下に行動している。その理由の一つがこうである。
「まあ……今回事を起こしているのが嫦娥ならこっちも動かない訳にはいかないからな……」
 そう、彼女と純狐の復讐の目標である嫦娥の存在があったからである。
 ヘカーティアは自身の能力により嫦娥への執着を捨てられなくなってしまっている純狐よりも嫦娥へは固執してはいないのだ。
 しかし、彼女とて嫦娥へ全く憎しみが沸かない訳ではないのである。だから、今回向こうから行動を起こしてくれたのは正に好機といえる事なのであった。
 そして、純狐の事を思っての事でもあったのだ。今回の機会を活かして彼女と共に嫦娥との因縁に決着を着ける事が出来れば、何か今後自分達が変わっていく事が出来るのではないかという考えがヘカーティアには存在していたのである。
 そして、もう一つの理由が……。
「勇美……か」
 そう、自分達が事の発端となった月の異変を解決にはるばる地上から、玉兎と一緒にやって来た人間の少女、黒銀勇美の存在がヘカーティアの心境には影響しているのであった。
 自分や彼女が敬愛する綿月依姫のような高いスペックを持っている訳ではない人間の少女である。だが、そんな彼女が神降ろしの力を借りる、玉兎の協力がある、スペルカード戦のルールの下に戦った……等の様々な要因があったものの、自分と純狐に対して勝利を収めたのだから。
 それは実は月の重役、稀神サグメの『口にすると事態を逆転させる能力』の影響下にあったからというのもあるのである。
 だが、それでも彼女達が自分を打ち破った事には変わりはないのだ。その事をヘカーティアには断じて否定するような心は備わってはいなかったのだ。
 そして、勇美に対して思う所は、何も彼女の潜在能力だけではないのだ。
 それは、彼女の人柄であった。一途でひたむきな姿勢は、自分達が忘れかけそうな要素だったのである。その事を思い起こさせてくれた勇美には感謝の念すら覚える所なのである。
「……この私が人間にここまで思う所が出て来るなんてね」
 そうヘカーティアは独りごちながら哀愁を噛み締めながらも、この気持ちは大切にしなければと思いながら、今もその勇美が行動を始めている頃だと思い、自分もそれに倣うべく動き始めるのだった。

◇ ◇ ◇

「……ここが塔の中……なのよね?」
 ヘカーティアは思わずそう呟くのであった。そうせざるを得なかったのである。
 そう、この『満月の塔』も、半月の塔のように、『とても塔の内部とは思えないような構造』であったという訳なのだ。
 寧ろ、今の光景を目の前にして、ここがはい塔の中ですと言える人の方が神経がどうかしているだろう。
 まず、足場は半透明な水晶を加工したような物で構成されているのだ。それだけでも塔の内部とはかけ離れていると言えよう。
 だが、それだけでは物足りないと言わんばかりに、辺りは東西南北、上下左右見渡す限りの宇宙空間のような様相なのである。
 そう、上下左右ですらあるのだ。上は勿論、下にまで果てしなく宇宙空間は広がっているのだった。
 そこに、先程の水晶の足場が宙に浮くかのように至る所に存在しているのだ。
 もしこれを勇美が見たら、こう言うだろう。『まるでRPGのラストダンジョンみたいだね』と。だから、ヘカーティアはしみじみとこう呟くのだった。
「これは、勇美に見せてあげたら喜ぶかもねぇ……。まあ、あの子も別の塔で目を引く光景を見て楽しんでいる事でしょうけど」
 楽しむ。任務にありながらそれを自身の喜びとしながらこなしてしまう。ヘカーティアはそんな勇美のポテンシャルを改めて見習うべきだと心の中で再評価するのだった。
 そして、勇美は実はこれから先の任務で今のヘカーティア程の冒険はしないのである。だから、後にもし彼女がこの事をしれば血涙を流さんばかりの事態となるだろう。
 それはさておき、ヘカーティアはこの『ラストダンジョン』然とした塔の攻略へと向かうのであった。

◇ ◇ ◇

「……私の担当する地獄でもこんな光景はそうそうお目に掛かれないってものよねぇ……」
 そう感心しながらヘカーティアは常軌を逸した塔の中を歩いているのだった。
 辺りは全て宇宙空間で占められている中を、頼りなさげな水晶の足場を渡っていく。これには地獄という、現世の常識が通用しない世界の支配者たるヘカーティアとて刺激的な体感となるのだった。
 そして、水晶の足場を彼女は基本スタイルである裸足で練り歩いているのである。その事に彼女は背徳的な快感を感じるのだった。
 ヘカーティアは常に裸足でいる事が多い為、その足の裏は鍛えられているのである。
 だが、それでも素足で今のこのような場所を踏みしめるのは彼女にとっても刺激を感じさせてくれるのであった。その事に彼女は心を踊らせるのだ。
 だが、その悦びもそこそこにして先を進まねばならないだろう。そう思い直しながらヘカーティアは更に先へと進んでいったのだった。
 そうヘカーティアが思いながら進んでいると、彼女の目の前に現れる光景に変化が見られたのであった。
「これは……いよいよ勇美が喜びそうな演出だね」
 そういう彼女の前には、床に紋様が描かれているものが存在するのだった。
 それも、合計三つである。その事に対してヘカーティアは勘良くそれが何かをいち早く察するのであった。
「これは……恐らくワープ装置って所だろうな」
 これも勇美の貸してくれたゲームから察する事が出来たのであった。その事に対してヘカーティアが驚く事はなかったのだ。
 月の技術力の高さが随一だという事は彼女も知る所なのである。伊達に長年月への復讐は企ててはいない所である。根が真面目な彼女は敵を知る事は欠かさずに行っている訳だから。
 そして、彼女は更に推測するのだった。
「これは、ゲームだとどれか一つが正解のルートへと繋がっているという訳だろうな」
 そう、RPG等ではワープ装置で移動した先の一つが先への道が存在しており、他の場所は行き止まりだったりするという展開である。
「つまり、正解を見つけるまでハズレだったら、ここに戻って来て再び別のルートへ進むのを繰り返すって事だろう」
 そうヘカーティアはこの仕掛けの攻略法を一人呟くのであった。だが、それにはある言葉を省略した場合の事である。
「まあ、でもそれは『正攻法』の場合って事だな」
 ヘカーティアはその言葉を、悪戯っ子のような笑みで以て紡ぐのであった。そして、彼女はその言葉の意味となる行動を起こすのだった。
「さて……私の『三つの体を持つ能力』の本領発揮といきますか♪」
 そう言うとヘカーティアはおもむろに目を閉じると、そのまま何やら念じ始めたのである。
 そして暫くした後、事は起こったのであった。まず、ヘカーティアが目映い光に包まれたかと思うと、光が止む頃には彼女が三人に増えていたのである。
 だがそれは完全なコピーのような姿ではなく、基本体が赤髪なのに対して新たに現れた二体は青髪と黄髪であり、それぞれが身に付ける装飾品も微妙に違うのであった。
 そう、これこそが三体で一人というヘカーティアの特異たる真の姿なのであった。
 そして、三人のヘカーティア達はそれぞれが独立した意思の下に疎通を始める。
「久しぶりだな二人とも。今回もよろしく頼むよ」
「任されたよ『異界』。今回のシチュエーションは正に私達向けだしな」
「勇美の稽古以外で三人が力を合わせるのは、あの子達と戦った時以来だな。う~ん、感慨深い」
 と、このように賑やかな会話を始める三人だったが、何度も言うがこれはヘカーティア・ラピスラズリというれっきとした一個体の存在なのである。改めていかに彼女(達)が特異な存在であるか察する事が出来よう。
 そして、そのまま基本体の『異界』が二人に話の本題を切り出していくのだった。
「さて、『地球』に『月』。二人に集まってもらったのは他でもない。ここから三人で協力した方がてっとり早そうな状況に行き当たったという訳さ」
「ああ、やっぱり私達の出番という訳だな」
「我々ながら反則的な存在だと思うよ」
「まあ『月』。それは言いっこなしさ」
 そう言い合って三人は全員がワープ装置がこの場に三つある事を確認するのであった。そして三人は迷う事なくそれぞれ別の装置の前へと歩を進めるのだった。
「それじゃあ、私は行くからな」
「ああ、決勝で会おう!」
「……別に試合をする訳じゃないって。しかもそれ、敗退フラグだぞ」
 そんな茶番を晒す三人であったが、見事な連携が取れているかのように皆一斉にワープ装置へと踏み入れたのであった。
 まずは青髪の『地球』が向かったルートである。
 彼女の前に現れていったのは、今までと変わらないような水晶の通路であった。
 そう、今までと代わり映えしない光景が続いていったのである。その事から彼女は薄々と状況を察していくのだった。
「これは……『ハズレ』を掴まされたようだなぁ……」
 そう言って『地球』は些か残念そうに振る舞うのだった。
 そんな彼女の推測は当たり、彼女の進んでいた道はやがて途中でザックリと途絶えてしまっていたのだ。
「ざんねん!! わたしのルートはこれでおわってしまった! ……ってね」
 と、『地球』は死神が多忙を送るのはこれ以上ない世界の台詞で自分の現状を憂うのだった。加えて何かとサボりがちな無縁塚の死神もあの世界の死神を見習うべきだな等と割りとどうでもいい事を思うのだった。
「私の方は暫く待機か……」
 そう呟く『地球』であったが、自分の役目が終わったなら終わったでやってみたい事があるのだった。
「こうも裸足で水晶の上を歩くのは刺激的だから、この機会に『やっておきたい』ってものだね……♪」
 そうどこか呆けた表情で『地球』は呟くと、おもむろに短いスカートの中に手を差し入れていった。
 そんな如何わしい行為をし始めたものだから、当然意識を共有している自分自身から注意の念が飛んでくるのだった。一番の司令塔たる『異界』からである。
『『地球』……』
「ああ……」
 自分自身とのやり取りであるにも関わらず、気まずい空気がそこに生まれてしまっていた。
 当然だろう。だが、話は些か変な方向にもつれるのだった。
『『一人遊び』は許可しないぞ。何せお前は私達自身だから、それをやったら全員が疲れる事になるからな』
「じゃあ、ノーパンになるだけなら?」
『それは許可する。かまわん、やれ!』
「さすが私だ。なかなかりかいがはやい」
『うむッ! お前が気持ち良くなれば我々が快感になるからな。寧ろ有り難いというものだ』
 と、彼女達は地獄の女神であるが故か、価値観や感性が些か人間とは違う為、止める者が存在しないのであった。
 そして、暫し時は遡り、『月』の視点へと移る。
 彼女の目の前に現れていく光景は、今までの道筋よりもやや入り組んだものとなっていた。それに対して彼女は期待を膨らませる。
「ああ、これは手応えありそうだな」
 そう、彼女が勇美から借りたゲームだと、こういう展開だと高い確率で何かが起こるのがお約束なのであった。
 そう心を弾ませながら歩を進める『月』の目の前に、こういう展開ではお決まりの物がそこに現れたのである。
 勇美のゲームでそれが何だかを知っていたヘカーティアは、そのあからさまな用意に些か呆れ気味になってぼやくようにそう言うのであった。
「こんな所に、宝箱があるなんてね……」
 まさにゲームの中の話だと『月』は思うのだった。だが、まずはその中身を確認してみない事には話は進まないだろう。
 そう思いながらヘカーティアは、自身の神力をその宝箱へとあてがったのである。
「罠かも知れないからな……慎重にいかないと」
 この事もヘカーティアは事前に知っていたのだった。こういう好奇心と探求欲をそそらせる代物の中に罠を混ぜて侵入者を撃退するという算段がお決まりなのである。
 そして、暫し自らの神力を宝箱に注ぎ込んだヘカーティアはそこで胸を撫で下ろすのであった。
「ふう……どうやら罠の類いはないようだな」
 一頻り宝箱の調査を行ったヘカーティアであったが、ここでこの宝箱には罠がない事を知るのだった。
 後に待っているのは、誰もが待ちかねる事であろう。『月』も例外なくその好奇心を踊らせながら意気揚々と宝箱の中を見るのであった。
「さて、中には何が入っているのかな?」
 そう言ってヘカーティアは満を持して宝箱の蓋へと手を持っていったのであった。
 そして、中身を確認した『月』は確信したようにこう呟く。
「……これは、皆に知らせないとな」
 最後の視点となるのは我らがリーダーたる『異界』であった。彼女もまた自分に割り振られた道を進んでいるのだった。
「これは……私が正解を引いたかも知れないな」
 そう呟く『異界』の目に飛び込んでくる光景。
 それは、まるで威風堂々としているかのような道の構造であった。こうも力強く造られている事から考えれば、これが先へ進むための正しい道筋だと思えてくるのである。
 そして、『異界』のその推測は裏付けられる事となる。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧