八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第三百十三話 休める時はその七
「偽善を嫌っていて」
「そうなんですよね、あの人は」
「それで戦後急にです」
「価値観が変わって」
「そうした戦前あの戦争を否定することはです」
「しませんでしたね」
「そこはいいことだったと思います」
太宰のこのことを話してくれた。
「あの人は最初から最後まで芥川龍之介を追い求めていました」
「だから芥川賞を欲しがって」
必死もっと言えば醜いと言っていいまでにだ。
「それで最後、如是我聞でもですね」
「芥川の様に弱くなれとですね」
「言っていましたね」
こう言って志賀直哉を批判していた。
「死ぬ直前にも」
「あの作品と人間失格が太宰の事実上最後の作品でしたが」
グッドバイも書いていたけれどもうこの作品は太宰にとっては自分のやるべきことを全て終えた後だったのでもうどうでもよかったのではなかったと言われている。
「そこでもです」
「そう言っていた程でしたね」
「芥川も戦前の人ですし」
「その芥川の価値観もですね」
「太宰は芥川を否定しません」
決してという言葉だった。
「それは生涯一度もです」
「なかったことですね」
「はい」
まさにというのだ。
「ですから」
「最後もですね」
「そう言って」
そしてだったのだ。
「世を去りました」
「そして日本軍を批判したりとか」
「戦前の否定もです」
「しなかったですね」
「一時期左翼思想に傾いてはいました」
これは学生時代のことだ。
「ですが運動家にはなりませんでした」
「結局止まりましたね」
「そして引き返しました」
「そうでしたね」
「それで天皇万歳ともです」
「戦後言いましたね」
「太宰は戦後はそうした急激な転向にです」
まさにそちらにというのだ。
「反発し批判していました」
「それで日本軍もでしたね」
「私の知る限りですが」
「批判していないですね」
「一度も、そして私もです」
畑中さんご自身もというのだ。
「あの時は。戦場でも見てきたので」
「その日本軍の人達を」
「確かに悪いところもありましたが」
「あれだけ掌返しで貶められることはですね」
「なかったです、そして尊敬から幻滅へと変わり」
日本人の日本軍への感情がだ。
「憎悪に変わる場面を観まして」
「尊敬されることは怖い」
「そう実感しました」
「そうなんですね」
「自分を尊敬してくれた人に軽蔑されたいとは」
こう思うことはだ。
「誰も思わないでしょう」
「やっぱりそうですね」
「そしてそれが憎悪になるなぞ」
「辛いですね」
「ですから自分を尊敬しろなぞです」
「まともな人は言わないですね」
「そんな人は絶対に尊敬されず」
自分がそうしろと言ってもだ。
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