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MOONDREAMER:第二章~

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第四章 ダークサイドオブ嫦娥
  第3話 月での合流

 今回の会議で勇美、鈴仙、ヘカーティアの三者はこれから月へ行きサグメ達との合流する事が決まったのだった。
 その事に異を唱える者はこの場にはいなかった。しかし、ある疑問を抱く者はいたのだった。
「あの、八意先生。ちょっといいですか?」
「何かしら勇美ちゃん?」
 勇美に呼び掛けられ、永琳は素直にそれに受け答えた。そこへ勇美から質問が投げ掛けられる。
 それは、シンプルにして、最も重要な事柄であったのだ。
「率直に言います。私達はまた徒歩で月へ行くのですか?」
 それが一番の問題であった。
 確かに自分と鈴仙は自分達の足で秘密の通路を介して月まで行ったのだ。そして、その経験は決して無駄にはならず、特に勇美を心身共に更に成長させる要因ともなったのである。
 そして、夢の世界の境界の支配者たるドレミー・スイートとも仲良くなっている為に、彼女にはすんなり通路を通してもらえるだろう。
 だが、それはそれなのである。いかに勇美が意欲的であろうとも、あの長い道のりを再びこなすのは些か参るというものであった。
 その勇美の懸念を聞いた永琳は、にまぁ~っと形容するのに難儀する笑みを浮かべながら言った。
「勇美ちゃん、あなたは肝心な事を忘れているわ。あの時は月の都全般が凍結されて、月の民は夢の世界へ避難していたわ」
 永琳は嘘は言ってはいなかった。だが、敢えて言葉足らずにしていたのである。『その事』は勇美と鈴仙の成長の為に相談して決めた事だからだ。故に彼女達に悟られてはいけないのだ。
 そして、その答えとなる者の一人が今正にこの場へと向かっていたのだった。
 勇美も、ここまで来ると、その答えが薄々と分かってきたのである。なので、彼女は先手を打つ事にしたのだった。
「勇美ちゃん、お久し……」
「ご無沙汰してます豊姫さん♪」
「ぐふっ……」
 先手を取ったつもりが逆に取られていた。その事に豊姫は国民的RRGのボスキャラの断末魔のごとき呻き声を出して悶えるしかなかったのだった。
「はあ、はあ。や、やるようになったわね勇美ちゃん……」
「ええ、これまで何度も見ていますからね。もう、そうそう驚きはしなくなるというものですよ♪」
 対して勇美はしたり顔であった。この豊姫を出し抜く事が出来てご満悦といった様相である。
 ともあれ、この綿月豊姫がこの場に現れた。その事で既に答えは決まっているのだった。
「勇美ちゃん。もう答えは分かっているわね? 豊姫に送っていってもらうって訳よ。ね、簡単でしょ?」
「はい、凄くシンプルです」
 このように、落書きをしているように見えていつの間にか立派な絵画を完成させてしまっていた画家とは違って本当に簡単な事なのであった。
「と、言う訳で。後は豊姫の能力で月まで迎えはいいって事よ」
「つくづく便利ですねぇその能力……」
 これまた小説家を目指す自分にあったらいいなと思う能力であった。これさえあれば取材の為に各地に出向くのが一瞬なので、その事で浮いた時間を執筆に回せるだろうというものなのである。
 だが、今はそのようなIFの話を妄想している場合ではない。また何やら月では厄介な異変が起こっているようなのだから。
 勇美は月の住人ではないのだから、別に月の問題を解決に向かう義理はないのである。
 だが、彼女は自分の世界を変えてくれた依姫を始めとして、月の住人の一部の者達とは最早家族同然なのだ。だから、その恩に報いる為に今回の異変に協力したいと思う所存なのであった。
「それじゃあ、準備が出来次第私が月に送って行くからね♪」
 そう言って豊姫は指を立てて茶目っ気を出してみせるのだった。
 準備。前回の異変では数日掛かる旅であった為に食べ物等を色々用意していたものだ。だが、今回は一瞬で月へ行けるのだ。特に準備は必要ないかも知れない。
 だが、この豊姫の気遣いにあやかって悪ノリする者はいたのだった。
「準備ですか。それじゃあ私はパンツを脱いできますね♪」
「寧ろ減らしてどうする!?」
 そこに鈴仙がすかさずツッコミを入れたのであった。それはもう、一緒に月への旅に同行した際に散々鍛えられたスキルなのだった。
「え? だって今回は旅ではないんですよ。なら身軽な方がいいじゃないですか?」
「身軽すぎるわ! 肝心な物身に付けないでどうする!?」
 理不尽な主張をする勇美に対して、鈴仙はキレッキレのツッコミを炸裂させる。やはり前回の異変でそれは鍛えあげられたようだ。
 その様子を見ていたヘカーティアはそこに便乗するのであった。だが、それはいらなかったかも知れない。
「確かに勇美の言う事は一理あるな。それじゃあ私は『地球』と『月』も脱ぐとしますか?」
「お前は寧ろ穿け」
 そういや基本体の異界の体は会議のどさくさに紛れてノーパンのままだったかと、鈴仙は頭を抱えるのだった。
「と、いう訳で豊姫様。ヘカーティアの異界の体に穿かせたら出発します」
「真面目ねえ鈴仙は♪」
「いえ、倫理的に見て基本的な事ですって」
 鈴仙は首を横に振った。そういえばこの人も勇美のリクエストで着た白のノースリーブワンピースにケープという趣味全開な格好を継続しているしと思った。
 そして、気付けばこの場にはツッコミ役は私一人になってしまったとも痛感するのだった。依姫様もこんな苦悩を味わっていたのだなと改めて心に感じるのであった。
 その後、ヘカーティアの異界の体に抜かりなくパンツを穿かせたのを確認した鈴仙は、これで準備は整ったと豊姫に伝える。そして、いよいよ出発の時が来たかと豊姫は頷くのであった。
 だが、その前に一つ豊姫は鈴仙に言っておきたい事があったのだ。
「鈴仙、ごめんなさいね。あなたは地上の兎になったのに、また月の面倒事に巻き込んでしまって」
 豊姫のその思わぬ言葉に鈴仙は狐に摘ままれてしまったかのような心持ちとなったが、すぐに気を持ち直して笑顔を携えながらこう言うのだった。
「気にしないで下さい豊姫様。確かに私は地上の兎になりましたが、だからといって生まれ育った場所をバッサリ無関係と割り切る事も出来ませんからね」
「そう言ってもらえると助かるわ」
 鈴仙にそう言われて、豊姫の方も方の荷が降りるような気持ちとなるのであった。
 そして、豊姫の力にて一行は月へと向かったのである。

◇ ◇ ◇

 やはり、豊姫に掛かればそれは一瞬であった。まるで、まばたきをするかのように一行が目にしている風景が変化したのだ。
 だが、勇美が想像していたのとはやや違ったのである。その事を彼女は指摘する。
「あれ、ここは建物の中ですか……?」
 そう、その勇美の指摘通り、一行は月の屋外ではなく、直接建物の中に現れたという事なのであった。
 その事について豊姫は説明していく。
「うん、今は月の都が玉兎達に制圧されているからね。百聞は一見をしかず……って事で、外と見てみる?」
 そう豊姫に言われて、勇美は建物の窓から、都の外へと視線を向けたのであった。
「!?」
 瞬間、勇美は驚愕してしまった。
 何せ、何かの祭りかの如く玉兎達が都を所狭しと占拠していたのだから。これは、駅前が祭りで歩行者でごった返している所を想像してもらえればいいだろう。
「何で、こんな事になっちゃってるんですかぁ~……」
 余りに驚愕した為に、勇美は口元を外されたゴム風船のような喋り方をしながら体の気が抜けるような虚脱感に襲われるのだった。
「勇美ちゃん、出来ればそれは寧ろ私達が聞きたい位なのよ」
 そう言って豊姫はすっくと肩を窄めて言った。
「う~ん、そうですよね。でも、兎さん達なら月の民の皆さんなら対処出来るんじゃないんですか?」
 そう勇美は指摘した。彼女は月の民のスペックの高さは正にその人達と隣り合わせに接している為に、非常によく分かっているが故の事である。
 それは、勇美のもっともな読みであろう。そして、的確に的を得ていると言えよう。
 だが、ここでその理論に意を唱える者が現れるのだった。
「勇美、貴方の読みはいい所を突いているわ。だが、それは少し違うという事ね」
「その声は?」
 その声を聞いて、勇美は流行る気持ちを抑える事が出来ないのだった。何故なら、その声の主は彼女が月に着いたら真っ先に会いたい人の物であったからである。
「依姫さん!」
 そう、勇美がこの世で最も敬愛してならない恩師のような存在、綿月依姫その人であったからである。
「勇美、久しぶりね。と言っても、今はそう悠長に再会の挨拶を享受している場合ではないのでしょうけど」
「はい、そのようですね。何やらまた大変なご様子で」
「ええ、全くね」
 勇美のその指摘に、依姫も同意する所であったのだ。折角先の月の異変が解決したというのに、また新たな異変が起こっているのだから。
 だが、それ以上に依姫は今この場で言っておかなければならないと思う事があったのである。
「でも、今回は幻想郷の者達を巻き込んではいないのは、これ不幸中の幸いといった所かしら?」
 その事を依姫は伝えたかったのである。前回は計らずとも、月の問題の筈なのに、無関係の筈の幻想郷を巻き込んでしまったのだから。
 例え依姫がその事への直接の関与はしていなくとも、同じ月の民として責任を感じる所があったのである。
 だが、それを聞いて勇美は首を横に振るのだった。
「いいえ、あの時は月の民の皆さんは大変な目に遭っていたのですから、その事を責めてばかりはいられませんから」
「……ありがとう、そう言って貰えると肩の荷が降りる思いよ」
 そう言って依姫はなけなしの笑顔で以って勇美に微笑み掛けたのであった。
 そして、勇美は話を元の軌道に戻すべく先を促す。
「でも、今はその事を話している時ではないのでしょう?」
「ええ、このような事態は始めてですからね。さすがの私でもこれには手をこまねいている状況よ」
 そう言う依姫の様子は、気丈に振舞っているものの、そこには疲れを隠せはしない状態であったのだ。それを勇美は見逃さなかった。
「やっぱり、今まで依姫さんは玉兎達と戦っておいででいられたのですね」
「目の付け所がいいわね、勇美。その通りよ。彼女等を今まで月の兵士達と協力して相手をしていました。ですが……」
「相手が多すぎるという事ですね?」
 勇美はここで合点がいったと相槌を打つのだった。
 その指摘に対して依姫も返す。
「そう、その通りよ。あれだけの数が相手ではこちらの方が分が悪いというものよ」
 そこまで言うと依姫は一旦言葉を区切り、その後に「さっきの勇美の話になるけど」と付け加えたのである。
「確かに月の民は基本的なスペックが高いわ。でも、実際に戦える人となると限られているわ。地上に例えると欧米人を持ち出せばいいかしら?」
 そう言うと依姫は丁寧に説明していくのだった。
 いくら欧米人が日本人よりも肉体的に恵まれているといっても、全ての彼等が鍛えられた日本人を上回る訳ではないと。
 そう出来るのはちゃんと訓練を積んだ者のみであるのだと。つまり、月の民といえど皆が皆元から優秀な戦士ではないと言うのだと依姫は締め括ったのだった。
「成る程、説得力がありますね。依姫さんの強さはアホみたいに磨き抜かれた所にありますからね」
「勇美、それは聞き捨てならないわ。それだと私がいかにも脳筋みたいではないの」
「これは失礼いたしました」
 依姫にそう言われて、勇美は素直に謝っておく事にしたのだった。
 何故なら、それは全くの見当違いであるからである。脳筋どころか、依姫が月の民の中でも特に柔軟な考えの持ち主である事は勇美がよく知る所だったからであるのだから。
 そして、勇美はいよいよを以て話の確信に迫っていくのだった。
「それで、私達の出番という事ですね」
「中々理解が早いわね」
 そう話の早い勇美に、依姫も有り難さを感じる所であった。そして、勇美はこの時を待っていたのだと満を持して想いを打ち明けるのだった。
「では依姫さん。私はあなたと一緒に戦えるのですね?」
 それは勇美が今まで渇望した事であった。
 ──憧れの依姫と肩を並べて共に戦う。その時を勇美がどれだけ待ち望んだ事であろうか。
 これで夢が叶うと勇美は心踊るのが抑え切れないでいた。だが、依姫から掛かってきた言葉は勇美が予想だにしていない内容であった。
「いいえ、今回勇美は私と一緒には戦えないわ」
「えっ……?」
 勇美はその言葉を耳にした瞬間、周りの時が止まったかのような体感をしてしまったのだ。
 折角自分が依姫と共に戦えるチャンスだというのに、それが出来ないとはどういう事なのか。
 その話の旨を依姫は説明していくのだった。
「今回貴方達三人を呼んだのは、貴方達にある任務に就いてもらいたいからなのです」
「と、言うと?」
 勇美は未だに納得のいかない心境でありながらも、その内容を律儀に聞き出そうとする。
 そこに入って来たのは豊姫だった。彼女は依姫の代わりに説明をしていく。
「ところで勇美ちゃん。いくら玉兎の数が多いと言っても、こうも簡単に月の都を制圧出来たのをおかしくは思わない?」
「あ、確かに……」
 そう豊姫に言われて、勇美はその内容に重々承知だという態度を示すのだった。
 その事について、豊姫は説明をしていく。
「月の都には、結界を司る三つの塔があるわ。それらの塔を玉兎達に占拠されたが為に、今の月の都はこんな状態だという事よ」
 そこまで聞いて、勇美は話の内容を理解するのだった。そして、その内容を言葉にする。
「つまり、私達三人をその塔奪還の為に向かわせるという事ですね」
「そういう事よ。そして、これは集団でやるよりも、それぞれが単独でやった方が小回りが利くというものよ。そして、それぞれの場所に三人を私の能力で送るという訳」
「成る程、分かりました」
 豊姫の話を聞いて、勇美は実に効率的な作戦だと納得するのだった。こういう任務は大勢でやるよりも単独の方がやりやすいというものだからだ。
「分かりました。その任務、受けましょう」
 ここに勇美の承諾は得られたのだった。そして、他の二人も異を唱える事はなかったのである。
 こうして、勇美、鈴仙、ヘカーティアの今後の方針は決まったのである。後はそれぞれが成すべき事を成すだけであろう。
 そうして決心を決めている者の一人である勇美に対して、依姫から声が掛かってきたのだ。
「勇美、ごめんなさいね。貴方は私と一緒に戦いたかったでしょうに……」
「依姫さん……」
 勇美の心境を見事に依姫に指摘されて、勇美はどこかいたたまれない心持ちとなるのであった。
 そんな勇美に対して、依姫は言葉を続ける。
「でも、甘えてはいけないわ。勇美、ここが正念場よ。そして、私は貴方を信じている」
「……はいっ!」
 その依姫の言葉に勇美は自身の背中を押されるような心強さを感じるのだった。
 依姫にはその能力のみならず、このように優しさと厳しさを併せ持った心がある事に一番勇美は惹かれていったのだと、今一度再確認するのだった。 
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