MOONDREAMER:第二章~
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第三章 リベン珠
第33話 絆と絆 2/3
それはさておき、漸くレーザーが収まりヘカーティアは一息つく事が出来たようである。
「やるね、兎の方も……。まさかこんな芸当が出来るなんてね」
「鈴仙さんは光を反射する物全てに今のような事が出来ますからねぇ……」
そう説明しながら、勇美はどこかしみじみとしていた。
無理もないだろう。何せこの技により勇美は鈴仙から初黒星を頂戴してしまったのだから。
確かにその勝負は恨みっこ無しの戦いだったから勇美には恨む意思はないのだが、やはり自分を出し抜いた技で他の誰かが陥れられるのは不謹慎ではあるがスカッとするものがあるという事だ。
「だから鈴仙に鏡はご法度だって言ったんですよぉ♪」
「「「いや、言ってない」」」
ここに、純狐、ヘカーティア、そして鈴仙の三人の敵味方混在のツッコミが炸裂したのだった。
そして三人は思った。それは悪徳商法よりも悪質だと。どこぞの契約狂の白い悪魔よりもタチが悪いと。
だが、取り敢えず勇美のゲスな物言いは置いておいてと、鈴仙は今しがた自分の猛攻を受けたヘカーティアを見据えた。
確かに、今の攻撃で彼女は手痛い打撃を受けている。だが、鈴仙には嫌な予感がするのであった。それを裏付けるかのようにヘカーティアは口を開いた。
「ここまでやられたんじゃ仕方ないね。まだこの体は使いたかったんだけどね……」
そう言った後、ヘカーティアの髪は赤髪になった。どうやら一巡して最初の異界の体へと戻ったようだ。
そのヘカーティアを見据えながら鈴仙は思った。
(やっぱりこの体にダメージは無いようですね……)
つまり、先程は折角の会心撃により月の肉体に多大なダメージを与えたのに、今の異界の体には全く通っていないのだ。
その気持ちは勇美も同じであった。RPG的な観点で見ても厄介なのに、これは今現実で起こっているのだ。
このまま続けていてはこちらの分が悪くなるだろう。
だが、勇美にはある読みがあったのだ。もしこの読みが正しければ……。その事を敵に察せられないように、勇美は神の力を通じて鈴仙の特殊な音を聞き取れる耳へと送っておいた。
(勇美さん……、成る程、分かりました)
その読みの内容を鈴仙は素直に聞き入れ、そして相手側に気付かれないように、耳から放つ特殊な波動にメッセージを乗せて勇美に送り返したのであった。
そうとは気付かずにヘカーティアは得意気に言う。
「さあ、どうしたものかね? 今のこの異界の体はこうして無傷という訳だから、こちとら些か余裕というものなのだよ♪」
そう言うヘカーティアの態度はふてぶてしい。まるで、積極的に自分が目立とうとしていると、勇美にはそう感じられた。やはり、自分の読みは正しい可能性がこれで出てきたというものなのであった。
勇美がそのように考えを巡らしているとは露知らずにヘカーティアはこの異界の体の第二のスペルカードを繰り出す。
「さあさあ、ちゃちゃっと行くよ! 【異界「地獄のノンイデアル弾幕」】っと♪」
そう言うとヘカーティアの体に赤黒いオーラのようなものが発生し始めた。その状態で彼女は両手を高らかに天に掲げたのであった。
その瞬間だった。これは幸と言うべきか、不幸と言うべきか。ヘカーティアの上半身の服装たるTシャツは完全な袖とはなっておらず、袖の部分の生地が無防備な構造なのである。
故に常に肩部は露出され、そして今回……両腕を掲げた事により、普通の感覚ならなるべく隠しておきたい腕の付け根たる『腋』までも大胆にお披露目される事となってしまったのだった。
「ウホッ! いい腋……」
当然というべきか。脳内が常に春な勇美はこの絶好の機会を逃す事なく、ホイホイとその魅惑の領域へと意識を集中したのだ。
「そして、シャッターチャンス!」
加えて勇美は、間髪入れずにカメラを懐から取り出してシャッターを押したのだった。
ちなみにそのカメラは無論、鈴仙とクラウンピースとで一緒に記念撮影をした時の物であった。ピエロ妖精や兎耳の者が写っている写真や、変なTシャツの女性が惜しげもなく腋を露出している写真……。これらを現像する事になる者は一体どう思うのであろうか?
「心配要りません。現像は文さんにやってもらいますから♪」
「勇美さん、変な写真ばかり現像させられるあの天狗の身にもなってあげて下さいね」
「なぬっ!?」
しょうもない物を写真にしようとしている勇美も勇美だが、ここでヘカーティアはさりげなく言う鈴仙にも聞き耳を立てたのだ。自分やヘカーティアの写った写真が『変』だという事を。
これには包容力のある女神たるヘカーティアも聞き捨てならないものを感じたのだった。
「私とクラウンピースが変……だとぉぉぉー!」
そう吼えながら、ヘカーティアの纏うオーラはより強く、より禍々しくなっていったのである。
これには鈴仙もたじたじとなるのだった。例えクラウンピースとヘカーティアのファッションセンスが変なのは正論でも、それを今の状況で堂々と言う度胸などはただの無謀だと彼女は見切りを付けた。
「訂正しろぉー兎風情がぁぁぁー!」
「いえ、訂正してお詫びしても弾幕は張るのでしょう?」
「その通りだ、覚悟しろぉ!」
果たして自分とこの女神の言い分は、どちらが理不尽なのか。その不毛な哲学に対して……鈴仙は考えるのをやめた。
何はともあれ、今は激昂した敵の弾幕がいかに強大になるかという事である。
そう思いながら二人は身構えるのだった。対してヘカーティアは満を持して溜めに溜めたエネルギーの放出を始めたのであった。
そうしてヘカーティアの全身から赤黒いエネルギーの弾が次々に放出されていった。しかも厄介な事にそれらの弾速も弾の大きさも軌道も完全にまばらなのであった。
正に、これはさながら無思考の弾幕といえるだろう。統一性がない事が、この場合逆に脅威だろう。
「くっ……」
勇美はその乱雑な弾幕を辛うじて避けながら考える。どうも自分は神降ろしを借りながら戦う分、規則的な行動パターンが多くなっていると自覚するに至ったのだ。
つまり、この攻撃を規則正しい自分には攻略するのは難しいという事である。さて、どうしたものか?
だが、勇美は焦りはしなかったのだ。何故ならあくまで『自分には』対処がしづらいに過ぎないのだから。そこまで考えを巡らせると、即座に彼女は行動に移すのだった。
「ここはお願いします、鈴仙さん!」
自分で対処出来ないのなら、仲間に頼ればいいのだ。これは何も恥ずべき事ではない。何故なら仲間を信頼している証なのだから。
「任されました、勇美さん♪」
言われた鈴仙の方も嫌そうな素振り一つせずに、二つ返事で承諾したのである。この事からも、二人は今までの旅と戦いでより一層絆が深まったのが分かるだろう。
そして、勇美から信頼の下に攻略を任された鈴仙は、威風堂々とした態度で以って敵の不規則で掴み所のない弾幕へと意識を向けながら、スペルカードの発動をする。
「【散符「朧月花栞」】!」
その宣言と共に彼女は右手を鉄砲に見立てて敵の放つ弾の群れにその銃口を向けた。それに加えながら彼女は自前の狂気の瞳を赤く輝かせたのだ。
それにより、辺りは霧が発生したようにもやが掛かり、視界はぼやけてしまったのである。
その状態で鈴仙は指の銃口から弾丸を発射したのである。次々に射出されるそれは、正に小さなロケット弾のようであった。
更には、その速度も速い遅いまばらであった。それに加えて霧が発生している為、その弾の群れの動きの想像は実に難しいものとなっていた。
故に、ヘカーティアの方もこの鈴仙の攻撃には舌を巻いていたのだった。自分の不規則な出方に対して、鈴仙もそれに対抗するかのように出てきたのだから。
ヘカーティアがそう思っている間にも、鈴仙の放った小さなロケット弾の群れは次々に敵の弾幕に当たっていき相殺していったのである。
だが、ヘカーティアも負けてはいなかった。彼女が放った弾の群れが破壊されようとも、次から次に新たな弾の兵団を投入していったのだから。
しかし、今回は彼女が分が悪かったようだ。何せヘカーティアは弾を出すだけだったのに対して、鈴仙は霧状のエネルギーを出して視界を遮るという芸当までこなしていたのだから。
そうこうしている内に、事の次第は収まっていったのである──鈴仙が敵の弾幕を全て殲滅するという形で。
「……」
その結果を目の当たりにして、ヘカーティアは些か呆気に取られていたのだった。まさかこうも効率よく自分の弾幕を攻略されるとは思ってはいなかったのだから。
なので、いち早く彼女は結論を出す事にしたのだった。その旨を彼女は口にする。
「この『ノンイデアル弾幕』は、ちょっとした自信作だったんだけどね……仕方ない、次に行かせてもらうさ」
そう言うとヘカーティアは次なる形態に以降するのだった。そして現れる青髪の『地球』のヘカーティア。
「さて、行きますか」
得意気にそう言うヘカーティア。その様子を見ながら勇美は『思った通り』だと認識した。
それは、ヘカーティアの体力が回復している事であった。確かに先程地球のヘカーティアには僅かばかりだが勇美がダメージを与えていた筈である。それが完全ではないとはいえ、回復していたのだから。
(やっぱり、この場から離れている間に休んでいたって事だね)
そう勇美は結論付けたのである。予想通りの、厄介な仕様をヘカーティアは携えているようだと。
だが、それでも勇美は絶望はしていなかった。彼女の読みが正しければ、この圧倒的に不利な状況を一気に覆す事が出来るのだと。
だから、勇美はその時が来るのをじっくりと腰を据えて待つ事にしたのだった。今は敵の新たなる弾幕に意識を集中すべきであろう。
「準備はいいかい?」
「ええ、こっちはバッチリですから、お構い無く来て下さい」
律儀に聞くヘカーティアに対して、勇美はそうさらりと答えてみせる。その言葉に嘘偽りはないだろう。
その勇美の心意気をヘカーティアは受け取り、そして意を決して今の体で使える弾幕の行使をする。
「それじゃあいくよ。【地球「地獄に降る雨」】」
こうして地球の体でヘカーティアの第二の弾幕が放たれる事となる。
いよいよ攻撃が来るか? そう勇美達が身構えていたが、どうやら今の様子はおかしいようだ。
「鈴仙さん……?」
「ええ、私にも感じます……」
二人もそう言うのであった。確かにすぐに敵の攻撃が来ると思われたのに、一行に来ないのだから。
そして、それは唐突に起こった。今まで快晴過ぎる程であった地獄の空であったが、それが一気に曇り空となったのである。
後は予想通りであった。ぽつりぽつりと滴が天から落ちてきたかと思うと、この今いる地獄に大粒の雨が降り注いだのであった。
「「っ……!!」」
これには勇美と鈴仙の二人は肝を冷やしたのである。何せ一瞬にして辺りの状況が一変したのだから。
その二人の反応を見ながらヘカーティアは満足気な様子を見せた。こうも自分が用意したサプライズに驚いてもらえたとなると喜ばしい事であるからだ。
だが、彼女にとって、お楽しみはここからなのである。それを示す為にヘカーティアはここで言及した。
「さて、これだけで驚いてもらっちゃ困るよ。続いて、こんなのはどうだい?」
言うとヘカーティアは右手を天に掲げた。それにより今回も彼女の腋が見えたのだが、さすがの勇美もそれに喜ぶ余裕はなかったのである。
「くそぅ……惜しい。もう一回ヘカーティア様の腋のシャッターチャンスだったってのに」
いや、付け加えよう。勇美はヘカーティアの腋に喜ぶ余裕はなかったが、喰らいつく意思は健在だったという事である。
そんな勇美を前にしたヘカーティアであったが、今回はスペルカード発動に集中していて別段取り乱す事はなかったようだ。それに加えて彼女は余裕を見せながら言ってくる。
「本番はこれからさ。いくぞ!」
その発言を皮切りに事は起こったのである。空から降り注ぐ物が大雨に加えて、エネルギー弾が追加されていったのだ。
正にこれは『弾幕の雨』とでも言うべきものだろう。更には本物の雨まで降っているのだから厄介極まりない。
ちなみに純狐は自身のスペルカードである『震え凍える星』により自分の頭上に氷の塊を現出させてそれを傘代わりにしている。何だか無駄に器用である。
「純狐さんに雨宿りだけでもさせてもらえないかな?」
「いえ、雨だけ避けても弾幕に当たっては意味がないでしょう?」
等と勇美と鈴仙は軽口を叩き合うが、何せ激しい雨に打たれながら弾幕まで避けるのは非常に重労働なのであった。
だが、勇美には別段困った様子は見られなかった。寧ろどこかケロっとすらしているように見受けられた。その答えは簡単であった。
「その様子だと、何か秘策があるのですね?」
「うん。厄介な弾幕なら、お引き取り願うまでですよ♪」
勘よく気付く鈴仙に対して、勇美は飄々とした様子で言う。とは言え今のずぶ濡れになる状況は難儀極まりないのだ。事は迅速に行わなければならないだろう。
まずはお決まりの神々への呼び掛けである。
「『風神』様に『天照大神』に『だいだらぼっち』様よ。この悪天候をどうにかすべく力を貸して下さい」
そして三柱の神が勇美の半身の機械に取り込まれる。後はいつもの通りに変型を行うまでである。
だが、今回は些か様子が違った。三柱の力を取り込んだ勇美の分身マックスは、そのまま地面に降り立ったのである。
その後には急展開が待っていたのだった。何と地面に足を付けたマックスは、そのまま自身を構成する機械を地面に張り巡らせ始めたのだ。さながら植物が根付くかのように。
そのような急変化を遂げていったマックスの行き着いた先、それは地面をくり貫いてそこに根付く巨大な送風機であった。
「まさか……」
事の一部始終を見守っていたヘカーティアは、その造りを見て鋭く脳内を電流が走る感覚に襲われたのである。
「ヘカーティア様、読みがいいですね。では」
そう言って勇美は、いつの間にか手に生成されていたリモコンをその送風機に向けながら宣言をする。
「【天地神「下から上まで突き抜けるトルネード」】!」
そして宣言の後に勇美はリモコンのスイッチを入れた。
後は想像に難くないだろう。地面に備え付けられた巨大なファンから物凄い風が産み出されていったのだった。
それにより生み出された答えは実にシンプルであったのだった。地面から天空に向かって勢い良く風が、正に竜巻の規模で吹き荒れ、一帯に降り注いでいた雨を雨雲ごと綺麗さっぱりと吹き飛ばしてしまったという事である。
こうして空は先程の雨が嘘のような、清々しい日本晴れとなっていたのだった。
「そんな馬鹿な……」
これにはヘカーティアも意表を突かれてしまったようだ。つくづく予想を超える芸当をしてしまう勇美に、彼女とて驚くしかなかった。
だが、本物の雨は吹き飛ばしたものの、空からは比喩表現となる弾幕の雨は降り注ぎ続けていたのだ。しかし、ここまで来れば勇美達のものである。
何故なら、雨で誤魔化されていたが、弾自体の攻撃頻度はそこまできつくはなかったのだから。寧ろ、今まで弾幕ごっこに明け暮れた勇美達にとっては優しい難易度と思える位の代物であった。
「例に挙げるなら、『スピードモンス』みたいな所だね。あいつは水しぶきが派手なのに囚われなければ攻撃箇所は僅か一箇所しかないからね」
「いや、その例えはちょっとマニアックな領域に入っているぞって」
ヘカーティアはそれは分かる人が少ないと、手を振って抗議した。
「いいじゃないですか、あのゲームの内容も網羅しているサイトも結構最近に出来た事だし。『筋たけし』で検索してもそこに行けますよ」
「確かに、シューティングゲームを作れるゲームって事で、私達にも無縁ではないか」
「そうそう、東方のパロディー作品もありますからね」
何故か変な方向に華を咲かせる二人に、鈴仙と純狐はついていけなくなっていた。あまりにも話がマニアックすぎるし、第一メタな内容すら含まれるからだ。
なので、二人は話の軌道を元に戻す事にした。
「勇美さん、ネタ的な話はそれ位にしておきましょう」
「ヘカーティアも、余り相手の悪ノリに乗る必要もありませんよ」
「うん、ごめん」
「私も些かふざけすぎたな」
鈴仙と純狐の申し出に、勇美とヘカーティアは案外素直に自分達の非を認めるのだった。
そして、勇美はある事に気付いていたのだ。確かにヘカーティアは別の体の稼働中に、ダメージを負った体を休ませて回復する事が出来るのだ。その事はあるSRPGに例えるなら『戦艦に乗せる』ような感覚だろう。
確かにこれはゲームではなく実際の戦いだから、ゲームのルールでは通用しない側面が多い。だが、例えとして用いる分には問題ない部分もあるだろう。
そして、『戦艦に乗せる』事に対するデメリットも今の現状に当てはまると勇美は考えるのだった。
その例えと共に、勇美はヘカーティアに存在する弱点に付いて指摘する。
「つまり、ヘカーティア様の肉体入れ換えは、HPは回復しても『気力』は減ってしまうという事ですよ」
「どういう事だ?」
勇美の言い始めた話の要点を掴めずにヘカーティアは首を傾げる。
そんな彼女に対して、勇美は丁寧に答えていく。
「つまり、別の体と入れ換えて休ませている間に、気が緩んで士気が落ちているって事ですよ」
それが、今の弾幕の威力が落ちている事にも繋がっているのだろうとも勇美は指摘した。
「成る程……確かに」
勇美に自分の特性たる三つの体を用いた戦法の意外な弱点を指摘され、ヘカーティアは素直にその事実と勇美の奮闘を受け止めたのである。
ともあれ、弱点を認識されたとなっても自分のやるべき事は変わらない。なのでヘカーティアは次なる手に出ようとする。それに、彼女の次の手ならば『特に問題はない』のだから。
そして、お決まりの如くヘカーティアはその身を地球から月へと変貌させた。再び髪の色が変わり黄色になるが、その変化も最早見慣れたものであろう。
この月の肉体は先程鈴仙の会心撃により一番ダメージを負った筈である。それがやはり完全ではないものの回復しているのだった。
だが、それに加えて士気の方も下がっている。勇美はこれは好都合だと思うのである。
しかし、勇美のその読みは些か浅いものであったとこの後に思い知らされる事となるのだった。
「やっぱり『気力』は落ちているようですね」
「まあね」
勇美の指摘通りに気だるいものを感じながらヘカーティアは『やれやれ』といった感じに自嘲気味に呟くが、すぐに気を持ち直して言う。
「だけど、そんな事は些細だって今か思い知らせてあげるよ」
言うとヘカーティアはおもむろに自身の構えを変え始めた。そして、その変えた構えには勇美は見覚えがあるのだった。
「あ……まさか……」
勇美は戦慄した。その構えから嫌な予感がしたのだ。その構えはというと、『両掌を上下に合わせる』というものであったからだ。
「鈴仙さん、気を付けて下さい。大きなのが来ますよ!」
咄嗟に鈴仙に呼び掛けて勇美はこれから起こるだろう被害を最小限にすべく奮闘し、自身もそれに備えて神に呼び掛ける。
「『石凝姥命』よ、どうか!」
それを聞いて鈴仙も合点がいき、勇美のそれに自身の『インビシブルフルムーン』を合わせるのだった。
対して、その二人が準備している間にヘカーティアの方も──十分にありったけのエネルギーを溜め込む事に成功していたのである。
後はその力を惜しみなく繰り出すだけなのだった。
「【月「ルナティックインパクト」】ぉっ!!」
その掛け声と共にヘカーティアの両手にみるみるうちに『月』のエネルギーが収束されていき──そして一気に放出されたのだった。
こうして遂に繰り出された黄金色の巨大なエネルギーの波動。容赦や手加減という要素とは無縁のそれは勇美達を飲み込もうと進撃していった。
これがヘカーティアの読みの結果なのであった。例え体を休ませて士気が下がっていても、元々の威力が高ければ特に問題はないといえるだろうと。
勿論それを予測した勇美は無防備にそれの直撃など許す筈はなかったのである。準備の整った彼女達は目の前の厄災に備えてこの技を繰り出した。
「間に合え! 【護鏡「月読のミラーシールド」】!!」
そして、勇美達の眼前に巨大な鏡張りの盾が生成されたのだ。続いてそれが規格外の力の奔流の前に割って入る。
鏡の盾は勇美の命令に従順に従い、迫って来た波動をその身で果敢にも受け止めたのである。それにより勇美達は直撃を免れたのだ。
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