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MOONDREAMER:第二章~

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第三章 リベン珠
  第34話 絆と絆 3/3

 鈴仙との連携で月の力を持つ鏡の盾を現出させ、敵の強大な砲撃を防ぐ事に成功した勇美。
「くぅっ……」
 だが、当然そのような威力を敵の攻撃は持っているのだ。攻撃を防いでもそこから伝わる衝撃はかなりのものであった。
 それでも、勇美の奮闘に盾は応えてくれたようだ。何とその敵の攻撃を派手に押し返したのだ。
「何っ!?」
 これにはヘカーティアは驚愕してしまった。まさかこの多少の不利を押し返すとっておきを、敵はものの見事に打ち返してしまったのだから。
 思わぬ反撃に、ヘカーティアは咄嗟に神力を周りに張り巡らせて防御体勢を取った。だが、いくら女神といえどもそれは付け焼き刃の対応でしかなかった。故に彼女は自らの技で痛手を喰う事となったのである。
「ぐぬぅぅぅーーーっ!!」
 そしてヘカーティアは後方へと弾き飛ばされてしまったのだ。続いて彼女は地面に叩き付けられる。
 だが、不幸中の幸いと言うべきか、彼女が咄嗟に取った防御の措置により純狐は巻き込まれず、そしてヘカーティア自身のダメージも抑えられたのであった。
 一方で、その攻撃を弾き飛ばす芸当を見せた勇美の方も無事では済まなかったようだ。彼女も盾を掲げながらも敵の攻撃は完全には殺し切れなかったのであった。
「────っ!!」
 勇美はその衝撃により呻き声も出す事が出来ずに、彼女もまた後方へと弾かれてしまったのだ。
 この緊迫した攻防戦の後に残ったのは、奮闘の果てに地に倒れ伏した二人の戦士の姿だった。
「勇美さん!!」
「ヘカーティア!!」
 そして、それぞれのパートナーが各々の側の戦士の下へと駆け寄っていった。
 まずは勇美の方である。こちらは攻撃を跳ね返した側であった為にそのダメージは最小限に食い止められていた。彼女に通ったのは吹き飛ばされて地面に接触した際の痛手だけのようだ。
 だが、彼女は人間なのだ。故にそれだけでも十分な痛みと言えよう。
「うう……」
「勇美さん、大丈夫ですか?」
 呻きながら体を起こす勇美に対して、鈴仙はその身を案じながら彼女を優しく起こす。
 そんな温かみのある対処をされながら、勇美は心地よい感覚を覚えながら答える。
「ええ、ちょっと飛ばされて体を打っただけですから、心配は要りませんよ」
「無茶はしないで下さいね、勇美さんは人間なんですから。体を張るべきなのは我々妖怪なんですからね」
「ありがとう鈴仙さん。でも、私が神降ろしの力を借りられる以上、この勝負は私に託してはくれませんか?」
「勇美さん、あなたって人は……」
 勇美のその振る舞いを見ながら鈴仙は感心していた。確かに勇美は積極的であるが、鈴仙の記憶では最初の方は些か自分が前に出る事には奥手であった筈なのだ。
 それが今、こうしてリーダーシップを取るように自ら進んで前に出ているのである。鈴仙は勇美のお陰で成長出来たという自覚があるが、その勇美自身も成長していったという事だろう。
「分かりました。この勝負、勇美さんに託します。だけど、くれぐれも無理はしないで下さいね」
「分かっています。ここぞという時は鈴仙さんに頼らせてもらいますよ♪」
 自分を気遣う鈴仙に対して、勇美はそうおどけながら返して見せたのだ。そう、彼女には自分を投げ捨てて戦うような意思はないのである。ちゃんと自分を大切にしながら、その範囲で奮闘しようという心構えであった。──それが依姫の下で育った彼女が出す持論であった。
 だが、同時に彼女は負ける気も到底ないのだった。それも依姫から学んだ事であり、勇美自身が潜在的に心の奥底に宿していたものでもあるのだ。
 クラウンピースが倒された時点で神二人の計画は果たせなくなっている。もう、この勝敗は幻想郷を救う事には関係してはいない。しかし、それでも勇美は負ける事は嫌いで、その気持ちに鈴仙も応えるつもりだった。
 一方でヘカーティアである。彼女は勇美とは違い、エネルギーの奔流をその身で浴びたのだ。しかも、自分が攻撃の体勢をしている所に、更に自分自身の力を受けたのだから、その痛手は相当なものだろう。
「あたたっ……今のはちょっと痛かったね」
「全く……女神とはいえ無茶しますよ」
 だが、ヘカーティアはおどけて見せながら何の問題かといった風にあっさりと起き上がって見せたのだ。この辺りはさすがは女神といった所だろう。これには純狐は呆れと感心が入り混じった心境で見守った。
 だが、それでこそ純狐にとって頼れる存在でもあるのだった。確かに自分も強大な力を持っているという自覚はある。しかし、それでもヘカーティアは頼りになる存在であり、何より自分と一緒に行動してくれる者というのが彼女には有難かったのだ。
 純狐は愛する息子を殺され、そしてその元凶たる夫を仇討った後は、当然彼女は孤独となってしまっていたのである。
 そんな中ヘカーティアは現れたのだ。その事は孤独であった純狐には何よりも嬉しかったのだった。例え自分と彼女が結ばれている理由が復讐の同志という、道徳的には間違った内容でも純狐には嬉しかったのだ。そう、さながら純狐にとってはヘカーティアは新たな家族同然となったのだ。
 その事はヘカーティアも意識する所であった。確かに彼女は同じ復讐対象を持つ者として純狐と結ばれたが、その心の奥底には少しでも自分が純狐の拠り所となってあげたいという気持ちも確かに存在するのだった。
 そんな二人だから、一丸となって何かを成し遂げたいと思う気持ちが強くなっていったのだった。それが、今の勝負という訳である。
 最早彼女達は復讐を成功させる事は出来ないだろう。だが、勝負を最後まで投げ出さずにこなす事で一つの目標に向かって進みたいのである。だから、純狐とヘカーティアとしてもこの勝負に負ける訳にはいかないだ。
 勇美と鈴仙、純狐とヘカーティア。両チームともこれ以上長くは戦えないだろう。その考えは両者とも一致するのだった。
「勇美、次がお互い最後となるだろうな。覚悟はいいか?」
「ええ、望む所です」
 ヘカーティアの提案に、勇美も同意する所であった。自分は人間である分、ヘカーティアよりも遥かに長期戦は分が悪いのだ。だから、手っ取り早く決着を付けたい算段だった。
 対して、ヘカーティアの方もあのような色々予測のつかない相手と長く戦っては不利になるというものだった。現に、先程こうして自分の大技を返されて痛手を負った所であるからだ。そのような判断は馬鹿でも出来るだろう。
 そうお互いに了承を取った後に、ヘカーティアは目を閉じて念じたのだ。それにより、今までの展開とは違った現象が起こったのである。
 今までは赤髪→青髪→黄髪の体の入れ換えを一巡するという流れであったが、今度はというとその三体の体が一同に介してこの場に同時に現れたのであった。
 これが意味する事は想像に難くはないだろう。
「今度は異界、地球、月の体一つずつなんてまどろっこしい事はせずに一度に全て使わせてもらうよ。もう休ませるなんて余裕ぶっこいた事は自分で自分の首を絞めるだけだからね」
 ヘカーティアがそう言い切ったように、彼女は今正に勝負に出たという事であった。
 見れば、『地球』には然程のダメージはないが、『異界』と『月』には馬鹿にならないダメージがあるのが見て取れたのであった。特に月の損傷は致命的だろう。
 なので、最早ぐずぐずしている暇はないだろう。故にヘカーティア『達』は迅速に行動に移したのである。
「まずは【異界「クリムゾンプラネット」】」
 最初に動いたのは異界の体であった。それにより、彼女達の頭上に赤い不気味な惑星型の球体が現出した。
 それに続けとばかりに他の体も行動を起こした。
「続いて【地球「アクアプラネット」】」
「最後に【月「プリンセスプラネット」】」
 そして、地球と月の体も行動を起こし、それぞれ地球のような水の惑星型、月のような淡く輝く惑星型の球体が現れていったのだった。
 それだけでは終わりではなかった。ヘカーティア達はそれぞれが創造した惑星を、ある一点に動かし始めたのだ。
 そして、それぞれの体が操る惑星は重なり合い、やがて一つの存在となったのであった。
 勿論、三つの惑星が一つに集まった事でその質量も三倍となったのである。これには勇美はあの言葉を言うしかなかったのであった。
「すごく……大きいです……」
「でかいのはいいからさ……ってそれは違う」
 この流れにはヘカーティアは賛同しない所であった。彼女はあくまでノンケなのであるからだ。
 そんなくそみそな勇美には構わず、ヘカーティアは最後の仕上げにやっておかなければならない事があるのだった。その為に彼女は純狐に呼び掛ける。
「純狐、こっちの準備は整った。後はあれを頼む」
「分かりまし……」
「おおっ。ここで満を持して『ケツの中にションベン』ですね♪」
「「「だから違うって」」」
 またしてもヘカーティア、純狐、鈴仙の敵味方の垣根を越えたツッコミが炸裂したのだった。そして、いっその事ヘカーティア側に就いてしまおうかとも鈴仙は四割位本気で考えてしまうのだった。
 そんな、さりげなく裏切りすら考えていた鈴仙をよそに、純狐は気を取り直して仕上げの為にスペルカードの発動をする。
「【「地上穢の純化」】」
 そのスペルの発動により、辺りから、そして勇美や鈴仙から黒いもやが発生して、ヘカーティアが創り出した合成惑星の中へと取り込まれていったのだった。
 恐らく、この黒いもやの正体は『穢れ』だろう。それを純狐が集める事でヘカーティアの目論見が享受するようであった。
 そして、穢れを集めた惑星は黒の絵の具を水に溶かしたかのようにみるみる内に黒く染まっていったのである。
 穢れを取り込んだ惑星は実に不気味に空に浮かんでいたのだった。それだけで勇美達に威圧感を与える効果をもたらしている。
 だが、勿論それだけでは終わらないのだ。画竜点睛の為にヘカーティアはこの力を行使する為にスペルを発動する。
「さて、お待たせしたね。では、【三重界「リベンジプラネット」】っと!」
 とうとう発動されたのだった。ヘカーティア三人分に加えて純狐の力まで備わった連携奥義が。その名前が意味する所は『復讐の惑星』であった。正に復讐心を胸に宿した二人らしいものであろう。
 瞬く間にその色を禍々しい歪なグラデーションを生み出す『復讐の惑星』。そして、胸の中が気持ち悪くなるような禍のエネルギーの滞留が巻き起こっていた。
 それを見て、呆気に取られる勇美と鈴仙。まるでその現象を見ているだけで精神を削がれてしまいそうである。
 だが、当然それだけで敵は許してはくれないのだ。最早完全に準備の整ったヘカーティア達は一斉に言うのだった。
「これで準備は整った」
「これから真の地獄を見せてやろう」
「では、行くぞ」
 口々に三人のヘカーティア達が言うと、全員が一斉に両手を掲げて禍の惑星に念を送り始めたのである。
 それにより三人のヘカーティアの腋が盛大に開かれたのだが、さすがの勇美も今回ばかりはそれには構ってはいられなかったようだ。
 そうこうしている内に復讐惑星の胎動はどんどん増していき──遂に勇美達に牙を向いたのである。
 惑星から次々と禍の弾丸が勇美達のいる地上に目掛けて降り注いでいった。
「くっ!」
「これはっ、厄介ですね」
 愚痴をこぼしながらも二人はその歪な弾幕を避けていく。だが、今までの弾幕と比べてもこれは実に手強い事が感じられるのだった。
 まず、その量である。宙に浮かぶ惑星の中からばら蒔かれるそれは、確実にその密度が濃いのであった。明らかに先程の『地獄に降る雨』よりも、弾幕自体の規模が大きい事が感じられるのだ。
 加えて、弾丸一発一発の威力も馬鹿にならない事も忘れてはいけないだろう。漸く避けた事で地面に着弾していくそれらは、その度に赤黒い爆炎をあげていくのだ。これをもらってはダメージは相当なものだろうと考えるべきだろう。
 つまり、これらの事から導き出される結論は……。
「これは、長期戦は明らかに不利だねぇ……」
 そう呟く勇美に対して、鈴仙は何か感じる所があったのだ。故に彼女は勇美に聞く。
「勇美さん、その様子だと……何か秘策があるのですね?」
「うん、まあね」
 鈴仙の読み通り答えた勇美であったが、その様子はそこはかとなく歯切れが良くなかった。
「勇美さん?」
「あ、ごめんなさいね。この作戦は少し問題があるから……。だから鈴仙さん、一つ約束してくれますか?」
「何ですか?」
 一体何事かと首を傾げながらも、鈴仙は勇美にその先を促したのである。それに対して勇美は答えていく。
「あのですね……。私がこの作戦を行った後でも私を嫌いにならないで欲しいのです。いえ、私に対して懐疑的になってもいいですけど、これからも『仲間』だって思って欲しいのですよ……都合が良すぎるかも知れませんけど」
「勇美さん……」
 勇美の言わんとしている事を察する事は出来ない鈴仙。だが、彼女の切実な態度からは、確かな覚悟が感じられたのだ。
 元より、勇美はせこい事はすれど根本にあるのは誠実な心であるのを鈴仙は彼女との短くない付き合い、そしてこの旅を通じてよく分かっているのである。だから鈴仙の答えは決まっていた。
「構いませんよ勇美さん。あなたがどんな手段に出ようとも、私はあなたを信じます」
 そう言って鈴仙は勇美の両手を温かく包み込んだのであった。それにより勇美は鈴仙の温かさを肌で感じる。
「鈴仙さん、ありがとうございます。お陰で気持ちに踏み切りがつきました」
 勇美はそう鈴仙にお礼を言って、なけなしの笑顔を彼女に見せたのであった。それだけで鈴仙には勇美の純粋な気持ちがありありと伝わってくるのだった。
「さあ勇美さん、あなたの思うようにやって下さい」
「恩に切ります」
 このやり取りの後、勇美の心は完全に決まったようであった。そして、その想いを胸に勇美は目の前の禍の星へと視線を向けた。
 その様子をヘカーティアは眉根を寄せて見ていたものの、やがてそれも収まり得意気に勇美に言う。
「何やら意味ありげなやり取りをしていたようだが、この攻撃からそう易々と逃れられると思うな。私達の復讐心の結晶からな!」
 言い切るとヘカーティア達は再び一斉に禍の星へと念を送った。そして再度大量の穢れの弾幕が放出される。
 それらを避けながら勇美はある神へと呼び掛ける──誰も勇美が呼び掛けるだろうとは思っても見なかった神に。
「『大禍津日』よ。今こそ、その力を示して下さい」
「「「!!」」」
 その名前を聞いた瞬間、この場にいる誰もが驚愕したのだった。
 それも無理はないだろう。何せその『大禍津日』は穢れをその身に溜め込んだ禍神なのであるから。
 その神がいかなる災いをもたらすかは、かつて霊夢が月でその力を使うという暴挙の時からも分かるであろう。
 それを勇美は今から行使しようというのだ。この場にいる全員に激震が走っても無理がないというものだろう。
 だが、漸くして平静を取り戻したヘカーティアが言うのだった。
「何を血迷ったか。そのような力を使う等と!」
 勿論そう言うだけでは事は収まらないだろう。なのでヘカーティアは最悪の事態が起こる前に、いざとなれば勇美を手に掛けるつもりで身構えた。
 だが、何やら様子がおかしいのだ。この場にいる誰もが想定していた最悪の展開にはなっていないと判断する。
 意識を向けて見ると、ヘカーティアが築いた穢れの塊が徐々にどこかに集まっているのが分かる。見れば、そこには見慣れない機械が存在していたのだった。
 それは、機械で築きあげた惑星のような外観であった。丁度ヘカーティアが創り出したそれを機械仕掛けにあしらったような様相である。その名を勇美は口にする。
「【集星「穢れの集まる場所」】」
 その名前を聞いた瞬間、ヘカーティアは首を傾げたのだ。──穢れを『集める?』と。
 勇美の言葉の意味はすぐに分かる事となるのだった。
「まさか……?」
 今の展開をヘカーティアは目を見張りながら見ていた。正に勇美の言葉通りにヘカーティアの繰り出した穢れの弾幕を、その機械の惑星は取り込んでいたのだから。
「これは、どういう事だ?」
「知らなかったんですか? 大禍津日は厄神であると同時に、穢れを集めて浄化を行う善神としての側面もあるのですよ」
 それが勇美の真の狙いだったのだ。断じて禍神の力で災厄をもたらそうとしたのではなく、災厄を集めて敵の攻撃の無力化を計ろうという算段だったのだ。
 しかし、ここで疑問が発生する。それをヘカーティアは指摘に掛かる。
「だが、集めた穢れはどうするんだ? そのような代物を集めたならもて余してしまうだろう?」
 その指摘は尤もであった。災厄の権化たる穢れを人間の勇美が集めた所で、その処理には困るというものであろう。
 だが、その課題についても勇美は織り込み済みなのであった。
「尤もな疑問ですね。でも、そこでこれの出番って所ですよ」
 そう言う勇美が懐から取り出したのは、二本の赤いリボンであった。それには鈴仙も見覚えがあるのだった。
「勇美さん、それは八雲紫のスキマのリボンですね?」
 そして彼女は思い出したのだった。今の旅の始めの頃、勇美がこのリボンを用いて簡易版のスキマを生成して中から収納したアイテムを取り出すというやけに便利な使い方をしていたのを。
 だが、鈴仙の記憶ではそれで作れたスキマは実に小規模なものであったのだ。それではとても今の状況に対応出来るとは思えなかったのである。
 しかし、鈴仙は勇美を信じる事にしたのだ。何せ今まで数々の常識を破ってきた勇美である。今回もまたしでかしてくれるだろうと思ったのだ。
 そんな鈴仙の期待に答えるべく勇美は行動に移そうとしていた。その前に彼女はしみじみとした雰囲気で呟く。
「紫さん、一緒に戦いましょう」
 そう勇美は、今は幻想郷にいるだろう自分の恩人の一人へと想いを馳せるのだった。
 確かにこの場には八雲紫はいない。だが、勇美には紫の想いが託されたリボンがあるのだった。だからこれは、紫の想いと一緒に戦う事と同義なのであった。
 幻想郷を最も愛する者の気持ちと一緒に、それを護る為に戦う。その事に意味があるのだ。
 一頻りリボンを握り絞めながら想いを噛み締めた勇美は意を決して──そのリボンを今正に穢れを集めた機械惑星の下へと放り投げたのであった。
「何を!?」
 勇美のその行為に鈴仙は驚愕したのだった。あれだけ勇美が大切にしている物をこうも容易く投げ付けるとはと。だが、勇美は落ち着きながら言った。
「まあ鈴仙さん。そう驚かないで見ていて下さい」
 そう言った勇美のする事は一つであった。──新たなスペルの発動である。
「【解放「穢れの行き着く先」】!!」
 するとどうだろうか? その宣言の後に起こったのは、機械惑星の中心に大穴が開くというものであった。そして、惑星の集めた大量の穢れはその穴の中に取り込まれていったのだった。
 それは奇妙な光景であった。まるで何かの生き物が、自分の体に浴びた水を自身の力で吸い込んでいるかのような目につく様相だ。
 そして、大穴の開いた機械惑星は、瞬く間に穢れをその中に全て送り込んでしまったのだった。
 その急展開に、相手型は神二人と言えども驚愕して開いた口が塞がらない心持ちとなっていた。だが、ここで漸く純狐が平静を取り戻して言葉を紡ぐ。
「で、ですが今回のはヘカーティアと私の合わせ技が破られたに過ぎません。例え彼女のダメージが大きくて戦いに支障をきたしても、私が戦えばいいだけ……の事……」
 純狐のその言葉は徐々に萎んでいったのだった。何故なら、鈴仙が相手方の隙を突いて、狂気の瞳の力を発動させながら純狐の背後を取っていたのだから。加えて、鈴仙は純狐の背中に自前のルナティックガンを突き付けていた。
「さあ、どうしますか?」
「────っ!?」
 純狐はこの状況で鈴仙が自分を狙って来たのと、今の彼女の台詞を聞いて確信したのだった。──『気付かれてしまった』かと。
 そうとなれば、今回の作戦は最早破られたも同然なのだ。なので純狐はヘカーティアに目配せして彼女の判断を仰いだ。
 それに対してヘカーティアは首肯するという反応をしたのだった。つまり、この展開が示す事実は……。
「見事です二人とも。この勝負、私達の負けのようですね」 
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