MOONDREAMER:第二章~
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第三章 リベン珠
第32話 絆と絆 1/3
「月の兎は宿敵、嫦娥の部下。この兎を生かして帰す訳にいかないね。そして、その月の兎に味方する人間も同罪だ。そこで、お前達に楽しい選択肢をやろう! 月、地球、異界……殺されたい身体を自分で選べ!」
ヘカーティアは宣戦布告の為にそう攻撃的な台詞を勇美と鈴仙に対して浴びせていた。しかし、当の勇美はというと、どこかニヤニヤしていたのだった。
まず、ヘカーティアはこうして攻撃的な文句を並べ立てた訳だが、それは建前であり決して本心からの言葉ではない事を勇美は分かっていたからだ。
何故なら、彼女はこうして好意的に弾幕ごっこに自ら出向いてくれようとしているのだから。
弾幕ごっこを積極的に行ってくれる者は皆仲間であるというのが勇美の考えなのだ。これから戦う相手に仲間と言うのも些か変な話だが、それが勇美の持論なのだから誰が何と言おうと仕方ないのである。
だから、ヘカーティアらこの二人は信頼出来る存在といえるのだった。確かに自分達は勝たねばならないが、相手方は弾幕ごっこの上で戦ってくれるので気を許せる存在となっているのだ。
そして、もう一つ勇美が思う所があった。その事を勇美は指摘する。
「それにしてもヘカーティア様。台詞が芝居掛かっていますね?」
勇美に指摘されて、ヘカーティアは「そうか?」と頬を自分の髪の色のように赤らめ、頬を掻きながら言った。
「この台詞回しには自信があったんだけどね。浮いてると言われちゃあ仕方ないな」
「いえ、私は素敵だと言っているんですよ。依姫さんも弾幕ごっこの時、時折そういう台詞回ししますから、親近感が沸きましてね」
「そうか……」
そう相槌を打ちながらヘカーティアは思った。勇美にこうも慕われる綿月姉妹の妹たる依姫。彼女は実に隅に置けない存在だなと。
確かに純粋な力量では自分や純狐の方が上回っていると思うし、実際の所その可能性が高いのである。
しかし、ただの力では計り得ない要素が依姫にはあるようだとヘカーティアは思い至らせるのだ。そして、その何かを受け取った勇美とこれから戦えるのだ。そう思うとヘカーティアは実に気分が高揚してくるのだった。
と、ヘカーティアがそう思いを馳せている所へ勇美からこんな質問があった。
「ところでヘカーティア様、さっき『月、地球、異界……殺されたい身体を自分で選べ』と言いましたが、それってどういう意味ですか?」
「そうだな、説明しないといけないな」
そう言ってヘカーティアはコホンと咳払いをした。その仕草だけで得も言われぬ魅惑的なものを勇美は感じてしまっていた。そんな勇美を尻目にヘカーティアは説明していく。
「まず、私の能力は『三つの体を持つ』というものなのだよ」
「体が三つ……ですか?」
それはどういう事だろうと、鈴仙も興味深げに反芻する。
「そう、三つの体さ。私の肉体は月と地球と異界に一つずつ存在していて、それが合計で三つという事になるって訳よ」
そこまで聞いて勇美は「成る程」と合点がいったようにポンと手を叩いた。
「つまり、『命が二つある』ってのと似たようなものって事ですね」
「それは違う」
ヘカーティアは即座に否定していた。断じて自分は頭を燃やされたシーンで有名なあのヒーローとは違うと。そして、そうなると自分は強キャラの筈なのに黒星ばかりになるのは断じてごめんだとも思った。
「そもそもなんであいつは最強なのに負ける描写ばかりにされたのかねぇ……」
「それは主人公じゃないから、物語の展開の都合上だと思いますよ」
「「……」」
そんなヘカーティアと勇美のやり取りを遠巻きに見ながら鈴仙と純狐は思った。「何の話やねん」と。
なので、話が迷走する前に純狐は釘を刺しておく事にするのだった。
「ヘカーティア、変な話はその辺にして、完結に説明してあげて」
「ああ、わかった」
しょうもない話を繰り広げていたヘカーティアだが、ここで意外にも素直に純狐の言葉に従った。
「つまり、分かりやすく見せるとこういう事さ」
おもむろに彼女はそう言うと、片手を高らかに天に掲げた。すると、彼女の体が最初に彼女が出現したかのように燃えさかる炎のようなエネルギーに包まれたのだ。
そして、その炎が収まると、そこには信じがたい光景が用意されていたのだった。
「ヘカーティア様が……三人……?」
勇美の指摘が全てを物語っていた。その言葉に嘘偽りはなく、勇美達の目の前には三人となったヘカーティア『達』が存在していたのだった。
だが、髪の色はそれぞれ違った。まず、最初の彼女と同じ赤髪、そして青の髪、最後に黄色の髪をしたヘカーティアがこの場にはいるのである。もう一つ注釈すると、元のヘカーティアが一人で身に付けていた鎖付きのアクセサリーは赤髪が見た事もない惑星型、青髪が地球型、黄色が月型のものを担当しているのだった。
この現象を起こした後、ヘカーティア達は口々に言葉を発した。
「これが私の秘密さ」
「これで私が三つの体を持つという事の意味が分かっただろう」
「一人で三位一体、それが私、ヘカーティア・ラピスラズリの真骨頂という訳だ」
これには勇美は堪らずに「おおー」と感嘆の声を上げるのだった。
あまりにも圧巻の一言だったからだ。一つの存在の肉体が三つもあるとは驚き以外の何者でもないのだ。
確かに複数の体を操る者を勇美は何度か見ている。
まずはフランドール・スカーレット。彼女はスペルカード『フォーオブアカインド』の力で自身を四人に分身させる事が出来た。
そして、皇跳流。彼女は本来の自分の姿である無数のバッタに分裂する出来たのである。
だが、それらはあくまで能力で増やしていたり、本当の姿が無数の存在からなっていたという事だ。
しかし、今のヘカーティアはどうだろうか。能力による分身でもなく、複数の存在が集まって構成されている訳でもなく、正真正銘彼女の肉体が三つ存在しているという事なのだ。
「どうだい? 驚いたかい?」
「はい、とっても♪」
赤髪に聞かれて勇美は素直にそう答えたのである。幻想郷に馴染んでから今まで幾度となく非現実的な存在を見てきた勇美であったが、ここまで驚いた事はそうそうないのである。
「女神様って事を抜きにしても、ヘカーティア様って凄い存在なのですね」
「まあ、いつもこういう芸当が出来るって訳じゃないさ。ここが地獄だから三つの体を同時に存在させられる訳で、普段は一度に一つの体しか出せないのだよ」
今度は青髪がそう勇美に説明した。それを勇美はうんうんと意欲的な姿勢で聞いていた。
そして、その内容の整理が頭の中でついてくると、今度は彼女の表情はこれでもかってくらい破顔したのだった。
「素敵ですヘカーティア様、あなたのようなHな女神様が同時に三人分も一度に堪能出来るなんて。なので私のさっきの質問の答えは決まりました。月、地球、異界のヘカーティア様……全てモノにしたいです♪」
それを聞いたヘカーティア達は、さすがの彼女達でも意表を突くような答えだったからか、一瞬呆けた様子を見せ、その後に全員でクスクスと笑い始めたのである。
「面白い事言うお嬢さんだね」
「そういう貪欲な子は嫌いじゃないさ。ならば存分に味あわせてあげよう」
「そして、HはHでもHELLの方だがなぁぁぁー! (地獄の女神的な意味で)」
こうしてヘカーティアは勇美から自身に寄せられたアンケートに答えるべくファンサービスの意向を示そうとするのだった。
そして純狐は思った。『最後のは余計』だと。これのせいで、そこはかとなく『ぶっぽるぎゃるぴるぎゃっぽっぱぁぁぁー!』等という奇っ怪な奇声が聞こえてきそうないらぬ不安に苛まれそうになるのだった。
◇ ◇ ◇
こうして、勇美&鈴仙VS純狐&ヘカーティアの最終決戦の火蓋は落とされたのだ。ちなみに、今はこの場にいるヘカーティアは一人の赤髪のみとなっている。どうやら地球と月の体は弾幕ごっこの時に使用するようだ。
まず、先手を切ったのは赤髪のヘカーティアだ。
「まずは小手調べさ! 【異界「逢魔ガ刻」】」
スペル発動に伴ってヘカーティアは右手を翳すと、そこから炎が吹き出したのである。後は簡単であろう、それを敵に向かってぶつけるだけである。
ヘカーティアは炎を纏った手を勇美に向けて振りかざすと、そこから燃え盛る火炎のカッターが射出された。
炎の斬撃、しかも飛び道具という中々に斬新な攻撃。だが、勇美は臆する事なくその攻撃への対処に適した神々へと呼び掛ける。
「『石凝姥命』、『マーキュリー』様、お願いします」
すると、彼女の周りに水が出現していき、すっぽりと包むように覆ったのだ。
そして、炎のカッターは水の膜に突っ込むと、ジュっと音を出してそのまま消滅してしまったのだった。
「と、いう訳で【水鏡「ウォーターベール」】です」
「やるね……」
的確な対処だと、ヘカーティアは感心しながら勇美を見据えていた。だが、これは序の口なのである。故に彼女には十分すぎる程の余裕があるのである。
そして、勇美の方も油断はしていなかった。今の攻撃自体がヘカーティアの力量から察して、余りにも軽すぎたからだ。
純狐の放つスペルは一発一発が重く強烈な威力があったのだ。対して今のヘカーティアのスペルはそれと比べると余りにも拍子抜けなのだから。
恐らく勇美が察するに、ヘカーティアの力量は純狐を上回っているという事なのである。それがこうして簡単に対処出来た。これに警戒しない手はないだろう。
そう勇美が思考を張り巡らせていると、ヘカーティアの方から声が掛かってきたのだ。
「だが、次のはどうかな?」
言うとヘカーティアの髪の色が一瞬にして赤から青に変わる。それを見て勇美は何だか最近11作まで作られたゲームの主人公みたいだと思った……が、今は戦いの最中なのでその思考は振り切る事にした。無論トゲをぶつければ一発で倒せるのではなどという下らない考えは勇美は抱かなかった。
無論、ヘカーティアが基本体である『異界』の体から、『地球』の体へと『入れ替え』をした事による演出であった。
そして、その入れ替えられた体により、次なるスペルが発動される。
「【地球「邪穢在身」】」
スペル発動後、ヘカーティアの全身を黒いオーラのようなものが覆った。その状態で彼女は右手を開いて前に突き出す。
すると、そこから黒いエネルギーの塊の弾が発射されたのである。
そこから感じられる力の重みは中々のものであった。これの直撃を喰らえばタダでは済まないだろう。
だが、勇美は至って落ち着きながら次なる神に呼び掛ける。
「次は『伊豆能売』様に『アルテミス』様、頼みます」
勇美がそう言うと、巫女の神の力が勇美の半身の機械へと取り込まれていく。
その課程を終えると、気付けば勇美の手には神々しく輝く弓が携えられていたのだった。
(弓……?)
その現象を目の前にしながら鈴仙は首を傾げた。勇美がそのような得物を持つのは自分の記憶と照らし合わせても、かなり珍しいからである。
そして、その弓のスペルの名を勇美は言葉に刻む。
「【浄弓「清めし者のフォングース」】!」
その名と共に、勇美は勇ましく手に持った弓で、生成したエネルギーの矢を放ったのだった。
勇美からその放たれた矢は、煌びやかに輝きながら直進していき──見事にヘカーティアが繰り出した禍々しい塊を撃ち抜いたのであった。
そして、その勢いは留まる事はなかった。禍を断ち切った清めの矢そのまま発動主たるヘカーティアへと向かっていったのだ。
「!?」
咄嗟にヘカーティアは防御態勢を取り、ダメージを最小限に収める。だが、何せ攻撃の後を狙われたのだ。ダメージは留める事は出来ても完全には無効化は出来なかったようだ。
「くっ……やるじゃないか」
ヘカーティアはダメージを負いながらそう呻くように呟く。だが、勇美には感じられたのだ、そこはかとなくそこまで悔しがってはいない様子に。
ともあれ、ヘカーティアは今の勇美の会心撃について問う。
「見事な判断だね。今のをよく思い付いたな」
「ヘカーティア様のスペルの名前を聞いてピンときたんですよ。この攻撃は『穢れ』を操るものだって」
それは、地上の生命エネルギーたる穢れを嫌う月の民たる依姫と接していた事で気付けた事なのであった。大切な人の弱点だからこそ、勇美はそれに敏感になれていたという訳なのである。
それは皮肉な話ではある。だが今こうして勇美は活路を見出だせたのだ。故に怪我の巧妙だと彼女は腹を括る事にしたのだった。
それを聞きながら、ヘカーティアは感心したように頷いていた。そして、やはりその様子には余裕の念がありありと見て取れるのである。
「さすがは黒銀勇美といった所だな。それなら次の力を使っても問題はなかろう」
言うとヘカーティアは無言で念じる。すると彼女の髪は黄色に変貌したのだった。今度は『月』の体へと入れ換えた証である。
そして、この瞬間勇美は確信したのだった。さっき与えたダメージはこの月の体には及んでいないと。
(つまり、三つの体にそれぞれHPが振り分けられているって事だね……)
そう勇美は自分に分かりやすいようにゲームに例えて考えたのだった。その方がこの気を抜けない戦いの中では有効だからである。
(さて、どうしたものかな……)
その事実が分かっても今の勇美ではどう対処する事も出来ないのだ。取り敢えずこの事は現状維持とするのだった。
まず、今集中すべき事は、新たな体に入れ換えた敵がどう出てくるかという事であろう。そう勇美が考えを巡らせていると、タイミング良くヘカーティアから声が掛かってくるのだった。
「さあ、異界と地球は攻略されたけど、今回の月はどうかな?」
そう、『ダメージ0』の月のヘカーティアは余裕の態度でそう言ってきた。そして、有無を言わさず彼女は次なるスペルを発動する。
「【月「アポロ反射鏡」】」
その宣言により辺りの空気に変化が生まれた。かと思うと一気に周囲に何かが現出したのである。それは……。
「鏡……?」
勇美の言う通り、辺りには無数の鏡が設置されていたのだった。それを見て勇美は「まずい」と思った。何故なら彼女は以前に似たような技に出会っているからである。
勇美の予想通り、ヘカーティアは彼女達に望ましくない行動をしようとしているのだった。それをヘカーティアは実行に移す。
「どうやらその顔は私がやろうとしている事を分かっているって感じだね。それじゃあお望み通り行くよ!」
彼女がそう言った正に次の瞬間であった。ヘカーティアは両手に黄色いエネルギーを集めると、それを迷う事なく出現させた鏡へとぶつけたのである。
「やっぱり!」
勇美は当然それに対して身構えたのだ。こうなってしまっては、後は防御に徹するしかないだろう。
「【盾符「シールドパンツァー」】!」
勇美はすかさず防御の為のスペルを発動したのである。それにより彼女の眼前に守りの為の装甲が現出した。
「ふぅ……」
これで一先ず守りの方は固める事が出来たようだ。後は敵の攻撃をしのぐだけである。
正にそれは間一髪だったようである。勇美がその装甲を出した瞬間に次々に乱反射した黄色いエネルギー弾がぶつかってきたのだった。
「くぅっ……」
乱反射をして速度の上がったそれは、案の定装甲越しに勇美に強い衝撃を与えていったのだ。だが、辛うじて防御はこなしている為に直接ダメージを負うような事はないようだ。
それを見ながらヘカーティアは言う。
「中々見事な防御っぷりだな。だが、忘れてはいないかい──この戦いが『タッグ戦』だって事を!」
その言葉に続きヘカーティアは「純狐、お前の出番だよ」と『相方』に呼び掛けたのである。
「待ちわびましたよ、ヘカーティア♪」
相方に指名をされ、純狐は意気揚々とした振る舞いでスペルカードを取り出したのである。
「それじゃあ期待に応えないといけませんね。【「掌の純光」】」
宣言により、純狐の両手に光が集まっていった。丁度、先程勇美達が彼女一人と戦った時と同じである。
だが、勇美は先とは様相が幾分違う事を瞬時に察したのである。それは、その光の濃度も規模も小さい事であった。
つまり、これから純狐がやろうとしている事は得てして察する事が出来るというものだろう。
そして純狐は満を持して行動を起こしたのだ。──それは勇美の予想通り『鏡』に向かって光のレーザーを発射する事に他ならなかったのだ。
それにより予想通りにレーザーは乱反射を起こしながら暴れ回り……その矛先は鈴仙に向かおうとしていた。
「鈴仙さん、『これなら』……!」
勇美は意味ありげな言い回しの台詞を鈴仙に投げ掛けると、鈴仙はすぐにそれに合点がいったようで「分かりました」と言うとすぐさまに迫り来るレーザーを見据えたのである。
次の瞬間、鈴仙の瞳が更に赤く輝き、続いて彼女に迫っていたレーザーが見事に軌道を反らしていったのだった。そしてレーザーは地面の何もない所に突き刺さった。
「ふう、間一髪って所でしたね」
「そのようですね」
迫っていた危機を回避した二人は、これで一先ず安心といった様相で一息ついた。対して純狐は納得がいっていない様子である。
「何故……、今の攻撃を狂気の瞳で反らす事が出来ると分かったのですか!?」
「簡単な事ですよ」
純狐が放つ質問の間に勇美が割って入って来た。そして彼女はそのまま続ける。
「あなたの今の光、あの時よりも弱かったからです。鏡で乱反射させる為に調整したのでしょう?」
その言葉に自分の名前に付いている通りに、狐に摘ままれた心持ちとなる純狐であったが、次には吹っ切れたような爽やかな表情となっていた。
「見事、見事ですよ勇美さん。やはり私達が警戒した通りの存在です」
笑いながらそう言いつつも、彼女は次には表情を真剣なものへと変貌させていた。
「しかし、現状は私とヘカーティアの合わせ技を一回攻略しただけではありませんか? 次は一体どうするつもりですか?」
確かにその通りであろう。今の状況は、僅か一回レーザーを狂気の瞳で回避したに過ぎないのだ。次もそうまぐれが続くとは思えないだろう。
だが、純狐とヘカーティアは気付いていなかったのだ。今の相手にはこの『アポロ反射鏡作戦』は完全に悪手だったという事を。
「……鈴仙さん、そろそろ『やっちゃっていいですよ』?」
「それじゃあ行きますか?」
そう意味深な会話をしつつ、勇美と鈴仙の二人はニヤニヤしていたのだった。これにはヘカーティアは訝った。
「何が可笑しい!!」
「……ヘカーティア、その台詞は負けフラグですよ……」
「あ、ごめん、つい」
対して純狐は幾分か冷静だったようだ。ヘカーティアは指摘されて素直に謝っておいた。
だが、冷静か取り乱しているかでは今彼女達が置かれている状況に変わりはなかったのである。その事を証明する為に鈴仙は、『正にこの状況にピッタリな』スペルを発動するのであった。
「【水月「ムーンシャドウレイ」】っと♪」
するとどうだろうか。瞬く間にヘカーティアが現出させた無数の鏡が一斉にその表面を輝かせ始めたのだった。
「まさか……」
「そのようですね」
ヘカーティアと純狐の表情が凍り付く。どうやらこれから起こる惨劇を二人は正しく予期しているようだ。
そして、そんな二人を見ながら鈴仙は無慈悲に言い放った。
「はい、それではお待ちかねの……♪」
鈴仙のその言葉を合図にして、全ての鏡から紫色のレーザーが照射されていったのだった。
「つうぅぅぅっ……」
その身を無数のレーザーに貫かれ、さすがのヘカーティアも堪らずに呻き声をあげていた。そして、その矛先は純狐にも向かおうとする。
「っ!? 純狐だけにはっ!」
言うとヘカーティアは純狐の目の前に鏡を出現させて間一髪で彼女への攻撃を反射させてあらぬ方向へと向かわせたのだった。
「……」
その様子を見ながら、何やら勇美は物思いに耽っていた。こうなってくると、自分が考えている『あの仮説』はもしかしたら正しいかも知れないと。
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