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おっちょこちょいのかよちゃん

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129 杉山さとし、思いがけぬ再会

 
前書き
《前回》
 クリスマス・イブの日、りえはフローレンスと出会い、異能の能力(ちから)を行使する事ができる機械を赤軍が開発していた事実を知る事になる。そしてりえは杉山と大野が大野が転校するという事で喧嘩した事をかよ子から伝えられ、杉山の家に赴く事を頼まれたのだった!!

 オリジナルキャラ紹介・その9
 煮雪悠一 (にゆき ゆういち)
 羽柴家の次女・ありの夫。初登場45話。ありとは大学時代から付き合い始めた。北海道で生まれ育ち、アイヌ民族の子孫である。異世界の人間を召喚する事ができるテクンカネ(アイヌ民族のブレスレット)を用いて戦う。攻撃特化の武装の能力(ちから)を持つ。好きな食べ物は鮭、ウニ、 

 
 杉山はただ何もせずボーっとしていた。
「さとし」
 姉が部屋に入って来た。
「ね、姉ちゃん?」
「アンタ、もうすぐ戦いに行くのよ。そんなんでいいの?」
「う、うるせえなあ、ほっといてくれよ!」
「何よ、それ。そうだ、昨日、石松に会ったわよ。大野君と喧嘩したんだって?」
「う・・・」
(石松の奴・・・。姉ちゃんに言いふらしたな・・・!!)
「それに大野君が転校するって聞いたわ。ちゃんと仲直りしなさいよ」
 姉はそのまま部屋を出た。
「くそお・・・」
 杉山は大野との喧嘩を思い出す。大野は親の都合だから仕方ねえだろと言った。しかし、本当はそんな言葉など望んではいなかったし、喧嘩などするつもりはなかった。寂しかったのだ。それで心にもない事を言ってしまった。「俺はお前なんか居なくなったって大将なんだ」と。
(俺に一体、何ができるんだよ・・・?)
 杉山は自問自答を繰り返していた。大野と仲直りする為に、そしてこの歪んだ日常を取り戻す為に・・・。

 翌日、かよ子はりえと山田家にて待ち合わせた。
「かよちゃん、おはよう」
「おはよう、りえちゃん」
 二人は約束通り、杉山の家に行く。二人は道中、雑談する。
「そういえば、まるちゃんやたまちゃんは元気かしら?」
「うん、でも二人共、二人の喧嘩を気にしてるよ」
「そうなのね・・・。ところで、かよちゃん、杉山君の事、好きなの?」
「ええ!?」
 かよ子は動揺した。
「う、うん・・・、実はそうなんだ・・・」
 かよ子は恥ずかしく思いながら肯定する他なかった。
「だから、杉山君が大野君と喧嘩するのが見てられなかったし、慌てて止めたんだ・・・」
「やっぱり、実は私も杉山君の事、気になってたの・・・」
「りえちゃんも、杉山君が好きなの?」
「ええ、喧嘩もしたけど、どうも気になってたの・・・」
「じゃあ、やっぱり私達、恋のライバルだったんだね!」
「ええ、そうね」
「私なんておっちょこちょいだから、りえちゃんには勝ち目ないかな・・・」
「そうかしら?それは杉山君次第だと思うわ」
 りえは恋敵にしては意外と謙虚な態度だった。
「それにしても異世界に連れて行かれたって言う藤木君の事なんだけど、なんか私の事気になってた感じなのよね。寄書にも『この次はボクが守ります』って書いてあったし」
「え?う、うん、でも藤木君は他の女の子もがきなんだ」
「え?」
「うん、でも私が前に野良犬に襲われた所を見捨てた事でその女の子から嫌われちゃったんだ。それで藤木君はその女の子の家に別れの手紙も書いて行ったんだよ」
「そうなの。他に好きな女子がね・・・。藤木君って案外恋しやすいのね」
「そうかもね」

 そして二人は杉山家に到着した。かよ子はインターホンを鳴らす。杉山の母が出た。
「あら、山田さん」
「こんにちは。杉山君、いますか」
「あら、ちょっと待っててね」
 杉山の母は息子を呼ぶ。お待ちかねのあの男子が来た。
「なんだ、山田か」
「杉山君、今日、『あの子』連れて来たんだけど・・・」
「『あの子』・・・?」
 杉山は一瞬誰の事か解らなかった。だが、その時、かよ子の後ろにもう一人、女子が現れた。
「久しぶりねっ、杉山君っ!」
「お、お前・・・!!」
 杉山はりえを見て夏休みに彼女と喧嘩した日々を思い出した。
「来てたのか・・・」
「ええ。かよちゃんにこの休みに清水に行くって年賀状出してたからねっ。ところで・・・」
 りえは本題に入ろうとする。
「あんた、大野君と喧嘩したってかよちゃんから聞いたわ。それから持っていたあの石も手放したってね。こんな大変な時に異世界で戦えるの?」
「う・・・、お前に関係ねえだろ!あいつが勝手に言っちまうんだ!俺はあいつなんかいなくたって大将なんだよ!!」
「一人でも十分大将なのっ?じゃあ、これからの戦いで一人でも戦えるのっ?結局アンタは友達がいなくなるのが嫌で喧嘩したんでしょっ!?仲直りしなさいよっ!」
「うるせえなあ!」
「仲直りもできないのっ!?アンタはやっぱり『臆病者』ねっ!!」
「何だと、この野郎!!」
 二人は睨みあった。
「違うってんならちゃんと仲直りしなさいよっ!」
「余計なお世話だ!!」
 かよ子は仲裁に入ろうと試みる。
「ふ、二人共・・・!!」
 かよ子は何を言おうか迷った。
「お願い、私は喧嘩する為に二人を会わせたんじゃないよ!」
「あ・・・」
 りえは我に返った。
「ごめん、カッとなっちゃって」
 りえは杉山の方にもう一度振り向く。
「んで、あんたは行くんでしょうね?異世界に」
「う・・・」
「行かないのっ?なら『臆病者』ねっ。私は行くわよっ!」
「もうほっといてくれ!!」
 杉山は扉を乱暴に閉めた。
「何よ、あれっ・・・!」
「す、杉山君・・・!!」
 かよ子は扉を叩いた。
「杉山君は異世界に行くよね。私は、来てくれるって信じてるよ!」
 かよ子はこの言葉が杉山に聞こえているのか解らないが、兎に角そう訴えた。
「・・・かよちゃん、行こう」
「・・・うん、ごめんね、結局喧嘩させちゃって」
「そんな事ないわよ。でも、夏休みに会った頃からホント自分勝手よね」
 かよ子はりえが杉山を批判していながらもどこかで寂しく感じているように思えた。やはり自分と同じように杉山の事が好きだからか。そして変わり果ててしまった杉山に元に戻って欲しいと渇望しているのだろうか。
「そうだ、他の友達とも会っておきたいわ」
「うん、いいよ」
 かよ子はりえを自分の家に連れて行き、まる子やたまえを電話で呼んだ。

 一方、杉山は扉を閉めた後、かよ子の訴える声はきっちり聞いていた。
《杉山君は異世界に行くよね。私は、来てくれるって信じてるよ!》
(俺は山田やりえの為に何ができるんだよ・・・。この日常が戻せたって大野の転校がなくなるわけでも、仲直り出来るわけでもねえ・・・。大野は俺といたくねえんだ。親友だって思ってたのは俺だけだったんだ・・・)
 その時、姉が現れた。
「さとし、何よ、乱暴にドア閉めて」
「それはその・・・」
「それに相手はかよちゃんみたいじゃない。あんな態度でいいの?」
「いいよ、別に。向こうが勝手に来たんだからよ・・・」
 杉山は自室へと行ってしまった。 
 

 
後書き
次回は・・・
「共闘の約束」
 かよ子は大野やまる子、たまえ、長山らを家に呼び寄せ、りえと談笑する事を決める。そんな時、冬田がかよ子の家に向かう大野の姿を見て、大野が気になってしまう。そんな時、長山と遭遇した冬田はかよ子の家に上がり、りえと相対するが・・・!? 
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