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真・恋姫†無双 劉ヨウ伝

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第105話 難楼討伐 中編

現在、私達は難楼達の集落を五万八千の兵で包囲しています。

既に、拠点としてきた陣は引き払っています。

私の配下の騎兵にはこの日の為に用意した馬具の着用を許可しました。

何が起こるかわかりませんから、万全を期します。

私は冥琳と相談し、風を使者に立て難楼の元に向かっています。

彼女の器量なら難楼を説得できると考えてのことです。

彼女は私の従事中郎であり、身分上はこの私の側近です。

難楼達も彼女の言葉が私の意思であることが理解できると思います。

そして、彼女に一度何かあれば、彼らに待っているのは我が軍による無慈悲な一方的な殺戮です。





風は予想した刻限になっても戻ってきませんでした。

風の身に何か起こったのでないかと、私は嫌な予感がしました。

そのことに白蓮以下、彼女の配下が浮き足だち、私の元に何度も現れ難楼達の封殺命令を何度も願いでてきました。

私も痺れが切れそうになった時、風が無事に戻ってきました。

「風、それで難楼達は何と言っていた」

風は表情を変えず、一度私に拱手をして報告を始めました。

「結論から言うと、難楼は降伏を拒否しました。少々、彼らを追い込み過ぎたかもしれませんね~」

私は風から気分が重くなる報告を受けました。

「どうしてだ? 罪に服すなら、家族の身の安全を保証すると言ったはずだ」

「確かに正宗様のご処置は寛大と思うのです~。でも、彼らは正宗様を信じることはできないのでしょう」

「何故、私が信じられない」

私は風の言葉に納得ができず聞き返しました。

「正宗様・・・・・・、あなた様が彼らに出した条件はこの時点では甘過ぎなのです。彼らに幾ら大義があれ、漢室に弓を引き、民から略奪の限りを行った。これだけで一族封滅でもおかしくありません。彼らは漢人ではなく、夷狄なのですから」

「この私にとって漢人でないことなど関係ない」

「それは正宗様だからです。普通の漢人の官僚はそう思いません」

風は厳しい表情で言いました。

「正宗様は大軍を有するにも関わらず、一気に難楼達を潰そうとするのではなく。用心深く着実に難楼達の包囲網を固められた。これだけで難楼達はあなた様が忍耐強く、慎重な性格であると考えていることでしょう」

風が何を言いたいのかわかりました。

難楼達は私を生粋の漢人官僚と考えていると言いたいのでしょう。

私が劉姓であり、朝廷の要職にあることを知れば、そう思うのが妥当です。

しかも、私は力押しではなく、用心深い用兵を行ってきました。

私が自軍の損耗を嫌い、難楼達に降伏を促した。

古今東西の歴史で手負いの追い込まれた軍が一番危険なのは常識です。

勝利してもこちらの被害はそれなりのものになるでしょう。

「難楼達の中で私は降伏を認める気などなく、彼らの降伏と同時に虐殺を行うと思っているのか」

異民族を蛮族と一蹴する一般的な漢人官僚ならやりそうです。

この私も彼らにしてみれば同類と言うことです。

「ご明察です~。そう思って違いないでしょう。ただし、私を無事に返したということは自棄になっていないと思うのですよ」

風はアメを舐めながら応えました。

「それに正宗様は失念されています。彼らに労役を課せば、彼らの家族は男手を失った状態で生きていかなければいけません。そうなれば、彼らにとって守るべき存在が危険に晒されるということです~。ですが、彼らにそのことを望む資格はないですけどね」

風はしみじみと言いました。

「風、お前なら、この状態を如何に打開する」

「ふふ~、この私の意見でよろしいのですか~」

風は私を茶化すように言いました。

「構わない。だが、難楼達は非道を行った。無罪放免とはいかない」

「私も依存はありません。彼らが正宗様の要求を飲むにはあなた様が尤もらしい条件を突きつければいいのですよ~」

「尤もらしい条件?」

私は要領が得ませんでした。

「正宗様、勝者が敗者に要求するものは何ですか~?」

「戦利品か?」

「ええ、正宗様は彼らの集落より、美しい女を最低十人奴隷として差し出せば、この条件で許してやると仰ればいいのです。なかなか良い案じゃないですか~。悪徳官僚が力にものを言わせ、過弱き女を手篭めにする訳です」

風は真剣な表情で語っていましたが、後半から少々戯けて言いました。

「そんな真似が出来るか! 私はそんな卑劣な真似はしない」

私は風の言葉に激昂しました。

「だから、善いのです。 圧倒的な力を持つ者が絶対的敗者に突きつける条件としては至極尤もなことです」

風は私の怒りなど気にせず自論を話しました。

「正宗様。この条件が付加されれば、あなた様の降伏条件に真実みが出ます。如何に慈悲を示そうと、当人が信じることができなければ意味はないと思うのです~」

風はアメを舐めながら言った。

「今更、そんなことを言えぬだろう」

「そんなことはないのですよ~。一度、降伏条件を拒否された後にこの話を持ち込めば、この話に真実みを持たせられるのですよ」

「私が色欲の強い男で、使者であるお前の報告を受け、難楼達の美女に興味を持ったという筋書きか? だが、それなら躊躇わず、総攻撃をすればいいだろう」

「それでは美女を捕獲できるとは限らないではないです。乱戦となればどうなるかわからない。それに、正宗様に献上する女は奴隷とはいえ、寵愛を受けること叶えば、自分達の身の安全にもなると考えるでしょう」

「何故、私がそのような恥さらしをせねばならない」

私は片手で顔を覆いました。

「これは正宗様が名を捨て、難楼達を救うという実を取る覚悟がおありかということです。間違い無く我が軍と白蓮殿達には軽蔑されるでしょうね」

「わかりきったことを言うな」

みんなのことより麗羽のことが恐ろしい。

間違い無く刺される。

「さっきのは冗談です。白蓮殿達はともかく、我らはあなた様がどのような方か理解しています。ですが、お決めになるのは正宗様なのです~」

風はアメを舐めるのを止めると、私に真剣な表情で言いました。





私が誹りを受けるだけで、救える命があるというなら・・・・・・。

「白蓮達は私が抑えておく。風、お前は今から急いで難楼達の元に行け!」

「御意! この程昱、この役目必ずや纏めてみせます」

「頼んだぞ。それより風・・・・・・、お前の名前は程立ではなかったか?」

「今日から私は程昱なのですよ~。それでは失礼いたします」

程立が程昱の名前に変えるのは史実では曹操に使えるときだったはずです。

風は私に仕えることを覚悟してくれたのでしょうか?
 
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