ユーノに憑依しました
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フライトしました
アリサに急かされながらも、バリアジャケットもどきを水着に設定して海鳴市の沖合いに転移した。
バリアジャケットの設定方法? 俺がデバイスを握ってスクール水着(白)にしましたが何か?
変身中はすずかとなのはに後ろから目隠しをするように言って、何やら悲鳴が聞こえたけど全力でスルー。
胸にはひらがなで名前を設定した、それと水着になってるのに寒く無いと好評だったな。
儀式魔法の応用で魔法陣の上に魔力を集めるタイプを三つ、それぞれ一メートル、五メートル、七メートルの高さまで上昇できるようにした。
「デバイスが魔力を吸ってる状態なら更に三メートルくらい上に飛べるが、そのあと墜落するんで気を付けろ」
「魔法陣の上なら大丈夫なのよね?」
「ああ、なのはにしがみ付いて遠くまで行くなよ? 長く飛べるだろうが、なのはが目を回したら墜落するぞ」
「少しなら良いのよね?」
「上に飛ぶなよ? 洒落にならん速度で落ちるからな?」
それから三人はムササビのように両手両足を広げながら自由に飛んでいた。
飛ぶと言っても高い所から飛ばした紙飛行機のように上から下へとゆっくり下降しているだけだがな。
「ユーノ君も一緒に遊ぼう!」
「空間制御で忙しいからお前らだけで楽しんでろ、俺まで遊んだら飛べなくなる」
「……そっか、今度一緒に飛ぼうね」
「なのはー、何やってるのー?」
「何でもないよー、今行くねー、じゃあ、約束だよユーノ君」
なのはがアリサ達の所に戻っていく、思えばこの時点で気付くべきだった。
三人とも一時間もすれば慣れてきたらしく、高い所まで飛んで墜落する遊びにシフトした。
「あはははははは!!」
「キャー!!」
「やー!!」
俺はと言うと儀式魔法を少しでも長く維持させる為に、如何にして手を抜くかと色々試してみた。
普通に結界隔離だと魔力を消費するだけで長時間は持たせられない。
周りから魔力を適度に吸い上げ噴水のように巡回させる。
認識阻害を掛けていないと海上自衛隊の人達に遭難者と間違われて大変な事になるから欠かせないし。
潮の流れを無理やり遮ると微妙に魔力を持って行かれるので気が付けば三人が流されてたりする。
魔法陣の位置を微妙に調節しつつ、デバイスのリミッターを少しずつ解除して安全性を考慮した出力まで開放する。
他にも最適になるように色々弄ってたが気が付くと色々おかしな事が起きていた。
さっきから魔法陣に負担が少ない、そして何かおかしいと持った時にはもう遅かった。
三人の姿がフッと消えた。
「フェイクシルエット!?」
魔法陣を消して辺りを見回すが三人の姿が何処にも無い。
日が落ちて辺りが暗くなっている、遭難でもしてたら探すのに一苦労だ。
『レイジングハート』
『《はい》』
『今何処だ?』
『《雲の上です》』
『何故そんな所にいる?』
『《夕焼けを見に行こうと言う話になってこうなりました》』
『フェイクシルエットはお願いでもされたか?』
『《はい》』
『帰りたくても帰れないとか、俺に怒られるから帰れない状態だったら呼べ』
『《現在後者の方です》』
『……わかった、迎えに行く』
レイジングハートの座標を割り出して転移する。
アリサとすずかがなのはと手を繋いで空中を漂っていた。
「夕焼けは楽しめたか?」
「ユーノ君……」
「違うの、あたしがなのはにお願いして」
「別に怒っちゃいないよ、仲間外れにされた事の方がショックだ」
「ユーノ、ごめん」
「とりあえず部屋に戻ろう、水は乾かすけど風呂に入らないと髪の毛が酷い事になるぞ」
すずかの部屋に戻ると三人は床に正座してデバイスをそれぞれ膝の前に置いた。
……何で俺が説教を始める雰囲気になってるんだよ?
別にデバイスを取り上げるつもりは無いのだが、三人の反省の表れと言うのなら下手な事を言うべきではいな。
――――レイジングハートには俺が知った全ての魔法理論を詰め込んである。
レイジングハートが『行ける』と思ったら今、この瞬間にブラスター3のエクセリオンバスターやスターライトブレイカーが撃てるように設定したのは俺自身だ。
高町なのはの魔力ランクは最初っからユーノを超えているのだ足元にも及ばない。
その俺が誰に何を説教しようと言うのだ? 俺がこれからやる事は説教なんかじゃない。
全力全開で『さじを投げる』のだ、『もうお前らが何をやっても俺は責任取らないから』ってな。
「……ユーノ怒ってる?」
「さっきも言ったが怒っちゃいない、こうなるだろうなと可能性は充分に考えられた」
「あたしが夕焼けをもっと上から見たいって言ったから、なのはがレイジングハートにお願いして抜け出したの」
「……俺に言っても反対すると思ったか?」
「……うん、上に行くなって、あたし達が魔法陣から離れたら怒ると思って」
「言ってくれればもっと安全な方法で上まで昇れたし、本当に危険ならレイジングハートも言う事を聞かなかった筈だ」
俺にバレない様にってレイジングハートにお願いすれば、レイジングハートはマスターであるなのはの言う事を聞く、分かり切っていた事だ。
「デバイスは何でも出来る訳じゃない、レイジングハートでも出来ない事がある、デバイスが動かなくなる事だってあるんだ」
「でも、レイジングハートが大丈夫だってデバイスも強くしてくれて……」
ブルームーンとネフライトの設定値を見てみると、確かに弄られていた、なのはが高速で飛べる事を前提とした数値に。
なのはの魔力を消費し続けてバリアジャケットの強化と維持、飛行操作で発生する魔力消費も格段に上げられてる。
「確かに強力にはなってる、だけどコレだと単体で起動したら五秒で魔力が切れる、なのはが居ない所ではただの宝石だ」
「でも、なのはと一緒ならまた空を飛んだりして良いんでしょ?」
「なのはと居ればな、それでな、なのは、飛んでる最中に二人の魔力が切れたらどっちを先に助ける? 一人は死ぬぞ?」
「……え?」
何を言われたのか分からないか、事故が起きるまで考えが回るはずないもんな。
「なのはの魔力が届かなくなった瞬間、二人とも墜落するぞ? この設定だと浮遊制御の魔法が発動しない。
落ちるスピードが速くて片方にしか手が届かないだろうな、助けられるのは一人だけ。 さあ、どっちを助ける?」
「……そんな事」
「決められる訳ないよな、でも二人が怪我したらなのはのせいだ、俺がデバイスを弱く設定してたのは俺一人で三人とも助けられるようにする為だ」
《その問いは前提が間違っています、マスターなら二人とも助けられます》
「確かに、なのはの魔力は凄い、飛ぶだけなら俺はもう追い付けないだろう、絶対になのはが勝つ」
アリサとすずかの飛行とバリアジャケットを補って短時間で雲の上まで飛んで見せたのだ、俺には真似出来ない。
「だから、俺はもうお前達が落ちても助けられない、怪我をしないようにな。 そのデバイスを使ってする事が良い事か悪い事かは自分達で考えろ」
「ユーノ君!!」
「どうした、なのは?」
「……また遊びに来るよね? これでお別れじゃないよね?」
何か言い方が不味かったか? 三人とも泣きそうなんだが。
夕焼けを見に行く事がそんなに悪い事か? 魔法を使って悪い事をしたと思ったからお別れだと思ってるのか?
「大丈夫だ、今日はちゃんと泊まって行くし、また遊びに来る、この程度で嫌いになったりしないよ」
「――――本当?」
「嘘を吐いてどうする? 何だ? またお前らだけで遊ぶのか? 俺は一人だけ仲間外れか?」
「そんな事ないよ! ユーノ君も一緒だよ!」
「ああ、わかったわかった、それじゃ、なのはを家まで送ってくるから二人は風呂にでも入ってろ」
なのはと一緒に転移して高町家まで戻ってきた。
「……今度一緒に空を飛んでくれる?」
「さっき約束したばかりだろ? 忘れたのか?」
「そうじゃなくて……」
「みんなで謝ったろ? アレはアレでお終い。 レイジングハートに沢山魔法を教えてあるから覚えるといい」
「……うん」
「なのは」
「……?」
「相手に笑って欲しい時は、自分も笑顔じゃないと誰も笑ってくれないぞ? な?」
なのはに笑って見せると、やっとなのはが笑顔になった。
「――――うん!」
「微笑ましい光景ですね、マスター」
高町家の玄関からドゥーエが出てきた。
「……お客さん? マスター?」
「なのは、こっちは俺の家族、ドゥーエだ」
「はじめまして、高町なのはです、なのはって呼んでください」
「ドゥーエと言います、マスターをよろしくね、なのはちゃん」
「はい」
ドゥーエがなのはの頭を撫でて微笑んでいる……こういう絵もあるんだな。
「今度翠屋で働く事になったから、翠屋にも来てね」
「はい」
「なのは、そろそろ戻らないといけないし、早く風呂に入った方が良いぞ」
「うん、またねユーノ君」
高町家を離れてドゥーエと一緒に一度拠点へ戻る、今日の捜査報告を確認する為だ。
部屋にはドゥーエ、チンク、ロッテ、そして俺がテーブルを囲んだ。
「高町家訪問は事情説明と謝罪か?」
「はい、聖王教会からの要請です、私は翠屋での護衛に回ります」
「俺は護衛対象の所に戻ってデバイスの使用説明だな、付け焼刃にもならないが」
「それと、追加報告があります」
「何だ?」
「家族が増えます」
「は?」
リビングから明かりが消えて和室にスポットライトが輝き、子供が一人――――幼女の背中が映し出された。
「お待たせしました~、クアットロちゃん、満を持して登場です!!」
振り返るクアットロと共に大量の紙吹雪とクラッカーの炸裂音、うむ、アホだコイツ。
――――ナンバーズ四番、クアットロ、こいつの特殊能力はハッキング等、センサーの目を誤魔化したり敵を多く見せる幻惑が使えたりする。
まぁ、そのせいで、五番、チンクよりも稼動が遅くなり、四番なのに五番の妹と言う――――ちょっと変な姉妹になっている。
「ワー、パチパチパチパチ(棒」
「もう! ノリが悪いですマスター、このクアットロ、マスターの為だったら世界経済くらいいくらでも麻痺させて見せますわ」
腰をくねらせながら悶えるクアットロちゃん、幼女がやると病気にしか見えんから止めろ。
「麻痺させたり破壊したりするのは簡単だろ、遊ぶのは良いが洒落にならん事はするなよ?」
「は~い、節度を持って遊びたいと思いまーす」
右手を上げて宣言するクアットロちゃん、可愛いがまったく信用できないのはデフォルトか?
「ところで、お前ら飯はどうした? 俺は外に行くが――――誰か作れる奴居るのか?」
「レーションなら大量に持ってきてありますわ」
「…………もう厄介事から開放されてるんだから、有り余る才能を料理とか趣味に全力で使えよ」
「例えば?」
…………コレってクアットロの方向性を決める大事な発言になるんじゃないだろうな? まぁ、そんな訳無いか。
「――――そうだな、理想の女性像になる為にカロリー計算を考えた料理を練習するとか、自分に合ったファッションセンスを磨くとか」
「それって完全にプライベートな話ですわ、そんな時間まで口出しするんですの?」
「まぁ、食事をレーションだけで済ましてる奴を知ってはいるが、仕事も料理も出来る女ってのは評価高いぞ?」
「料理をすれば、マスターはクアットロちゃんを見てくれます?」
「……見て欲しくて何かをするのは間違いではないが、出来れば楽しい事、面白い事、美味しかった事、つらかった事、失敗した事、相手に知って欲しいって気持ちが大切じゃないか?」
「――――マスター、クアットロちゃん感激しました、そこまでクアットロちゃんの事を考えてくれてるだなんて、理解しました! 今クアットロちゃんの全てをお見せします!!」
瞬時にクアットロの服が消えて、全身肌色のまま俺に飛び掛って抱き締めてきた。
「落ち着け! 何故そうなる!? 何で好感度MAXなんだよお前!?」
「ああ、マスターの温もりを全身で感じられてクアットロちゃん幸せです!!」
空腹の犬が餌に集る様に、俺の肌をベタベタと触り捲くっている。
「絶対おかしいって!! ドゥーエ、チンク、止めてくれ、ロッテもぉおぉお!!」
「本人が嫌がってないし良いのでは?」
「俺が困ってんだよ!?」
「ドゥーエお姉さまはクアットロちゃんの味方です!」
「チンク!」
「不束な妹だがよろしく頼む」
「チンクちゃんは理解のある姉です」
「ロッテぇえぇ!!」
「盛りのついた猫は放って置くのが一番だよ、うん」
「ロッテの言うとおり、効果抜群ですわ」
「お前の入れ知恵か!! ロッテぇえええぇええぇ!!」
取り合えず、クアットロをバインドで縛り上げて風呂に入る事にした。
しかし、クアットロの演算能力を甘く見ていた俺に、バインドを瞬時に解除したクアットロが風呂場に突撃――――第二ラウンドとなった。
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