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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第二百九十二話 行く場所その十

「しません」
「そうですね」
「ですから警察に殺された運動家はです」
「いないですね」
「ですが」
 それでもというのだ。
「彼等はお互いにです」
「殺し合ってですね」
「その犠牲者がです」
「運動の犠牲者ですね」
「革命に犠牲は付きものと彼等は言いましたが」
 それがというのだ。
「その現実はです」
「自分達で殺し合ってですね」
「犠牲を作りました」
「本末転倒ですね」
「全くです」
 畑中さんの今の返事は普段の畑中さんらしくなかった、一切の情を見せないで冷徹に語るものだった。
「それでは」
「本当にそうですね」
「まことに愚かでした」
「愚かにも程がある」
「そうしたものでした」
「そうですね、何も残しませんでしたね」
 肯定的なものはだ。
「本当に暴れただけの」
「愚かなものでした」
「それが四十年代にあって」
「三十年代よりもです」
 それこそというのだ。
「不愉快な時代でした」
「そうだったんですね」
「私にとっては」
「学生運動のせいで」
「暴力で何かをしようなぞ」
「あってはならないことですか」
「確かにあまりにも非道な相手とは戦う必要があり」
 畑中さんはそうしたことは否定しない、絶対平和論者かというとそうでもない。ただこれは武力だと言うのだ。
 そしてその武力について今話してくれた。
「武力はです」
「あるべきですね」
「そうです、暴力と武力は違います」
「武力には理性がありますね」
「そうです、武は矛を止めるです」
 よく言われている言葉だ。
「そこはです」
「理性がある」
「こうした力はいいのです」
「あっても」
「そして使ってもいいです」
「それ以外ない時はですね」
「日清日露の時もでしたし」 
 この二つの戦争でもというのだ。
「まさに」
「それで、ですね」
「武力はいいのです」
「けれど暴力はですね」
「理性のないものなぞです」
「駄目ですね」
「暴力は時として自分より力や地位が弱い相手に振るいますね」
「ですね」
 嫌な話だ、これは。
「家庭内暴力でもそうですね」
「学校でもですね」
「教師や先輩の暴力、いじめもですね」
「自分より弱いからです」
「振るうんですね」
「左様です、この様な力はです」
 それこそというのだ。
「最悪の力です」
「そうですよね」
「理性がなく」
 そしてというのだ。
「しかも自分より弱い相手にだけ振るう」
「それが暴力で」
「こんなものは肯定してはいけません」
 畑中さんは僕に話してくれた。 
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