夢幻水滸伝
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第百五十八話 敵を待ちその十二
「ベッドだからな」
「干すことないからな」
「そうだな、しかしだ」
「こっちの世界では布団でい」
「それならばだ」
その場合はというのだ。
「やはりだ」
「時折干さないとな」
さもなければというのだ。
「駄目だよな」
「その通りだ、そしていつも思うことだが」
「あれだろ、おいらにとっちゃな」
「永井君はかけがえのない存在だ」
その麻友を横目で、サングラス越しに見つつ述べた。
「大事にする様にな」
「わかってらあ、そしてお前さんもな」
「私もか」
「そうした人見付けろよ」
「うむ、実は許嫁がいる」
日毬は頬を赤くさせて答えた。
「学業を終えてだ」
「就職してからか」
「二十五歳になればだ」
その時にというのだ。
「結婚することになっている」
「そうだったのかよ」
「うむ、だからだ」
それでというのだ。
「私はその人とな」
「幸せになってか」
「一生添い遂げるつもりだ」
「死ぬまでだな」
「幼少の頃から何度もお会いしているが」
「どんな人でい、一体」
「当家と同じく三河以来の家でな」
「旗本かよ」
「二千五百石の家でだ」
それでというのだ。
「維新からは代々国鉄に奉職していてだ」
「国鉄か」
「今は八条大学に在籍しておられてだ」
そしてというのだ。
「卒業後は八条鉄道に就職されるお考えだ」
「代々鉄道か」
「そうした家の方でな」
「そこに嫁いでか」
「うむ、幸福を手に入れる様に努力する」
「頑張れよ、幸せってのはあれだよな」
幸田は蕎麦を食べつつ言う、見れば。
蕎麦はつゆにあまり漬けない、さっと食べてそうして喉ごしで味わっているまさに江戸っ子の食べ方である。
その食べ方をしつつこう言うのだった。
「自分でな」
「努力してだな」
「掴むものだよな」
「私もそう思う、そしてだ」
「おいらもだよな」
「永井君を大事にしてだ」
そのうえでというのだ。
「幸せになるのだ」
「麻友っちと一緒に、だよな」
「その通りだ、絶対にそうするのだ」
「それじゃあな」
「今回のこともだ」
その布団を干すこともというのだ。
「永井君がいてこそだったしな」
「そうだよな」
「貴殿の幸せになる為の努力はだ」
「麻友っちを大事にすることか」
「間違いなくまたとない良妻となる」
だからだというのだ。
「貴殿にとってな」
「だからだよな」
「大事にすることだ、浮気なぞだ」
そうしたことはというと。
「何があってもだ」
「したらいけねえよ」
幸田は自分から言った。
「本当にな」
「わかっているのならいい、もっとも貴殿はな」
「そんな奴じゃねえってか」
「私は確信している、では生涯だ」
「おう、麻友っちとだな」
「添い遂げることだ」
「そのつもりだぜ、葛飾に帰ったらな」
学業を終えて故郷に戻ってもというのだ。
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