八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第二百八十八話 飲みに行ってその五
「逆に損をします」
「そうなりますか」
「欲張りは嫌われますので」
「だからですか」
「はい、ですから」
それでというのだ。
「お店のものもです」
「程々がいいですか」
「そう考えています」
こう僕に話してくれた。
「お店を開いた時から」
「その時からですか」
「表の商店街が出来てからですね」
「それって相当昔ですね」
「戦前からですからね」
「そうですよね」
「一度空襲で焼けて震災もありましたが」
神戸も色々あった、特に震災が酷かった。
「ですが」
「それでもですね」
「今もです」
「ここでお店やっておられるんですね」
「それが出来ています」
今度は明るい笑顔であった、ただ。
何か妙に年季を感じさせる、そうした笑顔だった。
「有り難いことに」
「そうですか」
「今もこうして」
「お店は続けてこそですよね」
「よいのです」
「そうですよね」
「はじめることも大変ですが」
それだけでなくというのだ。
「やはりです」
「続けることもですね」
「大事で、むしろ」
「それが一番大事で」
「難しいのです」
そうだというのだ。
「これが。ですから」
「素材もですか」
「考えています。迂闊に高いと」
そうしたならず者そのものの新聞記者が言う様にそのままお店に運び込んだ天然ものを常に入れる様なことを普通のお店がするとだ。
「素材のそれがそうですと」
「値段も自然に高くなりますね」
「それで普通の居酒屋がやっていけるか」
「そうなりますね」
「例えば小龍包で」
中華料理の一つだ、小さな肉饅を思わせるその中に具だけでなく熱いスープも入っていて実に美味しい。
「作り置きするなと普通のお店で言いますと」
「採算が取れないですね」
「それを不誠実でいい加減と言うのは」
「経営がわかっていないですね」
「そうした人がお店に来て」
先程名前が出た新聞記者のことに他ならない。
「騒ぎますと」
「迷惑ですね」
「営業妨害です」
これに他ならないというのだ。
「それも暴力です」
「威力業務妨害ですね」
「普通のお客様はしません」
「そうですよね」
僕はソーセージを食べつつ言った、やっぱり美味しい素材で適度な焼き加減だけれど普通の素材なのがわかる。
「それは」
「はい、ですがマスコミの人達は」
「取材してやってるですからね」
「お客様と思っていません」
「神様とでも思ってますね」
「そうかも知れないですね」
「神様どころか」
ソーセージを食べて白ワインを飲んでから言った、グラスのそれがどんどん進んで自分でも気持ちいい位だ。
「もう街にいる」
「ならず者ですね」
「お客様は確かに神様です」
お店のものを飲んで食べてお金を払ってくれるからだ。
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