八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第二百八十八話 飲みに行ってその二
「前以てです」
「注意しておいてですね」
「行かれて下さい」
「そんなに不思議な人なんですね」
「そうなのです」
「そうですか、では」
「はい、行かれて下さい」
畑中さんにこう言ってもらってだった、僕は商店街の裏通りにあるそのお店に行った。そのお店にはすぐに行くことが出来て。
暖簾を潜った、すると僕はお店の人を見た。そのお店の人は。
男の人に見えた、だがすぐに女の人に見えて。
若くとも年老いても見える、和風のお店のレジの向こう側の厨房の中にその人が立っていて僕に挨拶してくれた。
「いらっしゃいませ」
「はい」
僕は応えた、声は奇麗な男の人のものだった。テノールのそれだった。
そしてカウンターの席に座った、お店にはもう十人位いて飲んで食べているけれど皆静かに飲んで食べている。
そのことも見ながら注文した。
「お酒は白ワインをボトルでお願いします」
「どれにしますか?」
その白ワインをというのだ。
「それで」
「和食頂きたいんで」
こう前置きして答えた。
「和食に合うのをお願い出来ますか」
「わかりました」
「それでお料理は」
和食のそれをお品書きを見つつ答えた。
「お刺身の五種盛り合わせと」
「それですか」
「枝豆、冷奴に出し巻玉子にどんぐりに」
それにだった。
「天婦羅の盛り合わせと焼き鳥、ホッケにししゃもとソーセージを」
「ソーセージもですね」
「お願いします」
和食じゃないけれど居酒屋ではこれは外せなかった。
「それと焼きそば、たこわさに烏賊げそもお願いします」
「わかりました」
「また後で注文させてもらうかも知れません」
少なくともデザートはそうしたかった。
「とりあえずはこれだけで」
「はい」
お店の人は応えてくれた、そしてだった。
その顔を見た、すると。
性別も年齢もよくわからないお顔は狐に似ていた、その狐に見えるお顔に黒髪を伸ばしている。そのうえでだ。
手際よく調理をしていく、その横から。
二十代前半のやはり狐に似た感じの人、この人ははっきりと女の人とわかるがこの人がお酒を持ってきてくれた。
「どうぞ」
「有り難うございます」
グラスとボトルだ、ボトルはもう空いている。
すぐにワインを入れてくれた、白ワイン独特の透明感がある。そのワインを見ながら料理を待っていると。
枝豆が来たのでそれを食べると。
とても美味しくてこう言った。
「これは」
「どうですか?」
厨房の中からその人が聞いてきた。
「うちの枝豆は」
「美味しいです」
その人に素直に答えた。
「いい茹で加減です」
「それは何よりです」
「素材もいいですね」
「普通のお店で売っている様なものですよ」
「普通のものですか」
「そうです」
お店の人は僕に笑顔で話してくれた。
「別にです」
「特別なものじゃないですか」
「そうですよ」
この枝豆はというのだ。
「これといって」
「そうなんですね」
「ですが美味しい様にはです」
「作ってくれていますか」
「値段だけのものは」
値段も普通だ、居酒屋のそれだ。
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