夢幻水滸伝
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第百四十七話 巨獣その六
その中の大きなヒラメのムニエルを食べてだ、島崎は言った。
「タレーランのヒラメの話はな」
「面白い話やが」
坪内もそのムニエルを食べている、フォ―クとナイフを使って実に上品に。
「最初のヒラメが勿体ないな」
「そこが気になるな」
「どうしてもな」
「それな」
田山もそこはと話に入った。
「ええヒラメが二匹手に入ったら」
「どっちも料理する」
「そうなるな」
「それは今の日本人の発想ですね」
横溝もムニエルを食べている、そうしつつ話した。
「最初のヒラメを落として食べられなくすることが勿体ないというのは」
「タレーランは貴族でな」
「はい、しかもかなり裕福でした」
「名門の出でな」
「ですからああした発想もです」
横溝は島崎に微笑みつつ話した。
「出来ましたし」
「美食の為ならか」
「勿体ないともです」
「思わんか」
「そうかと」
「そういえばタレーランは極悪人やったな」
田山は彼のそのことを否定した。
「謀略家で不倫をして賄賂も取る」
「ナポレオンも勝てんかったな」
島崎はタレーランが使えたその英雄の名前を出した。
「フーシェと一緒にナポレオン追い落としを企んでな」
「見事に足を引っ張られたな」
「とんでもない話やな」
「フーシェも酷い奴やったが」
坪内も言うことだった。
「タレーランもな」
「どちらも恐ろしい悪辣な謀略家でしたね」
横溝はこのことを何なく話した。
「政治的倫理観が全くない」
「そんな政治家滅多におらんな」
ここで小泉も言ってきた。
「流石に」
「人はやはり良心が存在します」
「それ自体はええな」
「はい、ですが」
「あの二人は少なくとも政治家としてはな」
タレーランだけでなくフーシェもというのだ。
「それがなかったな」
「見事なまでに」
「何の躊躇もなく謀略使って人を陥れてたな」
「政敵をギロチン台に送るなぞです」
そうしたこともというのだ。
「眉一つ動かさず」
「冤罪被せてやな」
「普通でした」
「正真正銘の悪人やったな」
「まさに」
「しかしその連中もな」
ここで坪内はこう言った。
「私人としては評価悪くなかったな」
「政治家としては極悪非道でも」
それでもとだ、島崎も言った。
「私人としてはか」
「タレーランは友人多くてフーシェは立派な教師やったとな」
「言われてたな」
「そうやったらしいな」
「まあ政治家としては極悪過ぎて」
坪内も言うことだった。
「絶対に近寄りたくないな」
「ほんまにな、こっちの世界でもおらんしな」
小泉はまた言った。
「星のモンに」
「そやからあそこまで良心のない政治家がおるか」
坪内はその小泉に問うた。
「世界史でもそうそう」
「いません」
横溝は断言した。
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