八条学園騒動記
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第五百七十六話 準備万端整ってその七
「キリスト教徒になったでしょ」
「だからか」
「そう、ユダヤ教徒じゃなくなったから」
このことが絶対でというのだ。
「それは無理よ」
「そうなるな」
「まあ今は無理矢理の改宗は認められないけれどね」
「ああした風にな」
「あれ詐欺だし」
ヴェニスの商人のそれはというのだ。
「善玉の方が」
「シャイロックは正しいからな」
「法的にはそうよね」
「そうだ、だがな」
「善玉の方はね」
「明らかに詭弁を使ってだ」
そうしてというのだ。
「問題を潰している」
「詐欺以外の何でもないわね」
「しかもだ」
ギルバートはさらに言う。
「ユダヤ教、他の宗教を否定してだ」
「改宗させているから」
「これは許されないことだ」
「そうよね」
「少なくとも今はな」
連合ではだ。
「絶対にしてはならないことだ」
「今読むとそうなのよね」
「シャイロックは意地が悪いかも知れないがな」
「あのキャラクターも差別だよな」
フックは冷静な顔で指摘した。
「考えてみれば」
「そうだな」
「ユダヤ人は強欲で意地の悪い守銭奴だってな」
「かなり強く描いているな」
「それってな」
「ユダヤ人への偏見が出たな」
まさにというのだ。
「差別表現だ」
「そう考えらえるよな」
「昔から言われている」
二十世紀には既に言われていたことだ、尚シェークスピアは問題とは思っていなかったし当時の劇を観ていた者達もだった。
「このことはな」
「やっぱりそうか」
「今ユダヤ人と言っても」
「こうした話をする位でな」
「何ともないけれど」
「あの作品はな」
「ユダヤ人差別ね、まあお芝居ってことで」
それでとだ、アンはあらためて話した。
「それでいいけれどね」
「現実じゃないからか」
「ええ、そんなこと言ったら」
ヴェニスの商人に目くじらを立てていると、というのだ。アンはギルバートとフックに真剣な顔で話した。
「ワーグナーだって聴けないしね」
「ああ、ワーグナーってな」
フックはドイツのこの作曲家の名前を聞いて言った。
「反ユダヤ主義だったな」
「そうだったのよ」
「それも根拠のないな」
「自分の作品批評されて」
創作者には付きもののことである。
「それでね」
「逆恨みしてだな」
「ユダヤ系嫌いになったのよ」
「下らない理由だな」
「ユダヤ系の批評家の人にね」
ハンスリックという人物にである。
「それで逆恨みして」
「それで作品にも出しているな」
「歌劇部の人が言っていたけれどね」
「そうだったか」
「ニュルンベルグのマイスタージンガーでね」
上演時間四時間半はある壮大な作品だ、そうそうな覚悟で聴ける作品ではないことは上演時間からだけではない。
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