八条学園騒動記
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第五百七十四話 文化祭前日その三
「そりゃ自分でも駄目だと思ったかも知れないけれどな」
「それでもだね」
「ああ、若し自分がいいって思ったらな」
その場合はというのだ。
「一度や二度の失敗で諦めないで他の人の意見も聞いて」
「作曲していくべきなんだ」
「そう思うけれどな」
「色々事情があったかも知れないけれどね」
マルコはこう返した。
「それでね」
「ずっと喜劇作曲しなかったのかよ」
「依頼とか生活とかね」
「悲劇ばかり依頼されてか」
「それが売れてたなら」
実際にヴェルディの作品はシリアスな悲劇、とはいっても誰かが死のうとも全体としてハッピーエンドが多い。
「その路線でいったのかもね」
「そうか」
「うん、ただね」
「ただ?」
「ファルスタッフはハッピーエンドだけれど」
「他の作品はか」
「完全にそれは少ないね」
マルコもこの認識でこう言った。
「誰かが死んだりして」
「それでか」
「全体としてこれでいいっていうね」
「そんなハッピーエンドが多いか」
「そうじゃないかな」
「そういえばアイーダも二人共死ぬな」
洪童はこの作品のことを思い出した。
「一緒に死ねて幸せでな」
「ハッピーエンドといえばそうだね」
「ああ、けれどな」
「二人共死ぬからね」
「ヒロインも主人公もな」
「一緒にだけれど」
それでもというのだ。
「死んで結ばれるにしても」
「死ぬからな」
「完全なハッピーエンドじゃないね」
「どうしてもな」
「他の作品もね、マクベスも」
「暴君死んで万歳じゃないよな」
「何でそうなったか考えると」
どうしてもとだ、マルコは話した。
「やっぱりね」
「マクベスが野心家になって悪事を繰り返す」
「王様になっていってね」
「それを考えるとな」
「やっぱり完全なハッピーエンドじゃないよ」
「そうだよな」
これは原作でも同じである。
「万々歳で終わってもな」
「引っ掛かるよね」
「悪い奴が死んで終わりか」
暴君にして僭主であるマクベスがだ。
「そうはいかないな」
「そうだよね」
「同じシェークスピア原作でオテロもな」
「最後奥さんの潔白知るけれど」
「二人共死ぬしな」
「オテロも奥さんもね」
「やっぱり悲しいな」
真相は明らかになってもというのだ。
「ハッピーエンドと見られてもな」
「完全じゃないね」
「そうだよな」
「けれど音楽は劇的で」
「悲劇でもそうした救いのある結末だからか」
「ヴェルディの作品は人気があって」
作曲家の生前からだ。
「それでね」
「そうした作品の依頼ばかり来てか」
「物凄く売れて」
それでというのだ。
「そればかりになっていたかも知れないよ」
「そうなんだな」
「それでずっと喜劇は依頼もね」
これがなくては仕事にはならないがだ。
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