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カーク・ターナーの憂鬱

作者:ノーマン
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第9話 商売の都

 
前書き
     【原作年表】
宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校 
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件 
宇宙暦728 フォルセティ会戦    
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業  
宇宙暦738 ファイアザード会戦   
宇宙暦742 ドラゴニア会戦     
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦  
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生

※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています 

 
宇宙暦723年 帝国暦414年 8月末
惑星フェザーン 軌道エレベーター 駐船区画
カーク・ターナー

「前世でもそうだったが、金ってのはある所にはあるもんだなぁ」

うろ覚えな前世の記憶の中でも、地球と言う惑星を飛び出した宇宙船からの映像も見たことがあった。それに最寄りとは言え、月面着陸の記憶もある。同盟で経験した出来事は、星間国家と言う前世でいう未来世界でありながらも、ある意味、想像の延長にある光景だった。

「軌道エレベーターなんて、小説の世界だろ。まさか自分の目で見れるとはなぁ。エコニアにいたら映像で見れたかどうかの光景だな」

肉体に引っ張られているのか?軌道エレベーターの巨大さに引きずられているのが?妙にワクワクしている自分がいた。総工費っていくらぐらいなんだろうか?列島改造論で考えた高速道路と新幹線の総工費なんて比にならない金額になるだろう。ただ、星間国家なら資源は前世の数千倍のスケールで用意できる。案外、俺が考えるよりは安上がりなのかもしれなかった。

「おーいターナー。ちゃんと下船準備してるか?」

俺が浮かれ半分で思考していると船内通信でキャプテン佐三が声をかけて来た。俺が乗船しているエンブレム号はフェザーン本星に到着し、軌道エレベーターの一区画に入港した所だ。本来なら航海士見習いは下船しないで乗船待機する。ただ、亡命業務を担当するので、フェザーンでは下船する人員に含まれていた。

「船長、もちろん準備できてます。もともと荷物も少ないですから」

取りつくろう様に俺は応答する。わざわざ船長が俺に声をかけてきたのも、おそらく亡命案件があるからだろう。フェザーンに近づいた段階で、積み荷の売却先はシステム上で決めているはずだ。すでに船倉からの搬出作業は始まっている。積み荷の代金の入金が確認できた時点で、事前に予約していた発注を確定し、今度は搬入作業が始まるだろう。実務だけならわざわざ下船する必要もないんだが、馴染みの独立商人との顔つなぎや情報収集の為に地上に降りるわけだ。

「初めてのフェザーンだ。浮かれるのも分かるが、地上には帝国人もいるからな。浮かれすぎないように気をつけろよ?」

ニヤニヤしながら船長が注意点を伝えてくる。今更のようにも思うが、航海士はそこそこ高給取りの部類だし、航路によっては数ヵ月船内で過ごすことになる。初めてのフェザーンで羽目を外しすぎてしまい、数か月分の給与を使い果たして文無しになる航海士の話は、同盟系の商船ではよく聞く話だった。

「笑い話の先例をなぞる趣味はありませんよ。仕送りを減らすわけにもいきませんからね。今日の自由行動では、帝国弁務官府とフェザーン自治領主府、あとは商科大を見て回るつもりです。明日は船長に同行するんですよね?」

「ああ、状況によっては亡命案件の話になるし、そうでなくても酒場ドラクールに新人を連れていくのが、船長の流儀みたいになっていてな。お前が行く予定の商科大を作ったのはオヒギンス氏だが、彼の生涯の盟友だったのがバランタイン・カウフ氏だ。そのカウフ氏が起死回生の商機を掴んだのが酒場ドラクールなんだ。縁起を担いで新人を船長がドラクールに連れて行くのが、流儀みたいになっているのさ」

「同盟系の私たちはそもそも候補じゃないですが、『今年のシンドバット賞』を何度も受賞した方ですよね?縁起の良い酒場に連れてって頂けるなんて嬉しいです。船長、ご馳走様です!」

「ご馳走様の時だけは二段階くらい良い挨拶になるな。まぁ、年相応で結構だ。俺も新人の時に船長にご馳走して貰ったんだ。俺が独立して最初にドラクールに連れていくのがターナーだからな。まぁ、期待してくれ」

そう言って船長は通信を終えた。下船して軌道エレベーターで地上に降りるまでは、一緒に行動する予定だから確認の意味もあったんだろう。カウフ氏とオヒギンス氏に関しては、好みが別れる部分かもしれない。前世で言う西郷さんと大久保さんの関係だろうか?

バランタイン・カウフは連帯保証人になっていたオヒギンス氏を破産から救うために保険金目的の自殺を考えるまで追い詰められた後、酒場ドラクールで掴んだ商機をきっかけに商売の面では大成功を収めた。だが、現在では商才までは引き継がなかった子孫たちが喰い潰してしまいカウフ財閥は実質一代で泡沫のように消えつつある。

一方で、終生カウフの理解者であり、支援者でもあったオヒギンス氏は、カウフのお陰で手に入った予想外の収入で、フェザーン商科大を設立した。商業立国のフェザーンに必要な独立商人・経済学者・経済官僚を今でも輩出し続けていることを考えれば、俺はカウフよりオヒギンス氏にあやかりたい。もっとも時間があれば商科大の図書館に行きたいのが本音だ。ただ、大して時間もない以上、商科大にあるというオヒギンス氏の肖像画くらいは見ておきたかった。

それに、そんな内心を上機嫌でご馳走するつもりでいる雇い主に漏らす程、俺は世間知らずじゃない。カウフ氏の成功に彩られた半生は、確かに商船乗りとって輝かしいものだ。カウフ氏に習って、後進達が成功しますように!という想いを込めて先輩方がドラクールに連れていく以上、そこには善意しかないんだからわざわざ水を差す様なことを言う方が、むしろ野暮ってものさ。

フェザーンの名所マップをタブレットにダウンロードし終えたのを確認して、俺は割り当てられた自室を後にした。シロンでは勉学重視の日々だったし、自由に観光できるのはこれが初めてだ。そういえばジャスパーは元気だろうか?亡命系では水の代わりにワインを飲むらしいが、飲んだくれていれば士官学校への合格はさすがに厳しいだろう。丁度良い。オヒギンス氏の肖像画の写真を添えて、一報入れてやるか。

俺はそんなことを考えながら、下船タラップを降りはじめる。静止軌道上から高速で下るエレベーターから見える光景に心を奪われるのだが、それはまた別の話だ。


宇宙暦723年 帝国暦414年 8月末
フェザーン商科大付近の路地
クリスティン・フォン・ウーラント

「姉さま、もう足が疲れたよ。少し休もうよ」
「わかったわユルゲン。でもあんまりのんびりできないわよ?もうすぐ日暮れだもの」
「うん」

座り込む弟のユルゲンを横目に、夕方の様相をしつつある空を見ながら私は途方に暮れていた。事の始まりは、帝国騎士であるウーラント家が政争に巻き込まれ、親族の支援をうけてフェザーンに亡命した事に始まる。政争に敗れたというより巻き込まれた形のウーラント家に、帝国政府も同情したのか、それなりの資産を持ち出せたし、親族から同盟では資産価値が高いらしい絵画なども渡されていた。

フェザーンに到着して2週間。当主であるお父様は、方針を定めるべく連日のように出かけていたが、情報が錯綜しているのか?お悩みのご様子だった。そしてさすがに2週間もホテルの一室に閉じこもっているのは、私はともかく弟のユルゲンには堪える物だった。
お母さまが幼少のみぎりに亡くなって以来。ユルゲンの母親代わりを自認していた私は、気晴らしになればと、弟と一緒に部屋から抜け出し、フェザーンの散策に乗り出した。その結果が今の状況だ。

「ホテルの周りを少し見て回るだけのつもりだったのに」

ため息とともに本音が漏れる。帝国とは違った街並みが珍しかった事と、ホテルに閉じこもっていた反動もあったのか?私たちは興味が惹かれるままにフェザーンの街をうろうろし、結果として道に迷ってしまった。そうして右往左往するうちに、10歳の弟ユルゲンの体力が限界に達してしまったのだ。

「治安維持組織に身分を明かしたらどうなるかわからないし......」

座り込んでしまったユルゲンを横目に、どうしたものかと考える。これが帝国なら、警察官に声をかければホテルまでエスコートしてもらえただろう。ただ、ここはフェザーンだ。対外的には帝国の自治領である以上、亡命したばかりのウーラント家の者が名乗れば、不測の事態になるかもしれない。

「よう!お困りごとかい?」

そんなことを考えていたら、帝国語で声をかけられた。視線を向けると私と同年代のオレンジ色の髪の少年がこちらを見ている。悪印象はないが、状況が状況なので正直警戒した。

「あ~。困ってないなら俺は消えるよ。ただ、オルテンブルク家が後援されているイーセンブルク校でお世話になったんだ。亡命者が困っているなら無視するのも気分が悪いからな。声をかけたまでだ」

そう言いながら敵意がないことを示すようにオレンジの髪の少年は両手を上げた。なんとなくだが、信じても良いように感じた。

「道に迷ったの。ホテル・シャングリラまで戻りたいのです。私は......」

「あ~。名乗らなくてよいよ。俺は同盟人だから、名前を聞いちゃうとそれはそれで厄介な事になるかもしれないからな。ホテル・シャングリラか、少し距離があるな」

そう言いながら手元のタブレットを操作する少年。すると私たちがいた路地に、自動運転タクシーが停車した。

「君はともかく、弟君が歩くには少し距離があるからね。乗った乗った」

そういうと私たちを後部座席に乗せ、彼は運転席に乗り込んだ。

「出身は同盟の中でもド田舎でね。自動運転システムがなかったから、運転席に乗らないと落ち着かないんだ」

そんな会話をしているうちにタクシーが動き出す。その後も、フェザーンか同盟で生活するなら情報端末が必須になると教えながら、彼のタブレットを渡してくれた。

「画面の中心が現在地、そして赤い矢印がホテル・シャングリラだよ。他にもいろんな機能があるけど、情報端末があれば、道に迷うことなんてなかった。フェザーンで過ごすか同盟で過ごすかでメーカーが代わるからね。そういう事が決まったら、購入することをお勧めするよ」

そんな話をしているうちにホテル・シャングリラに到着した。

「ありがとうございます。助かりました」

「良いんだ。亡命系には多少の恩があるからね。それよりも弟君。亡命して色々大変だろうけど、帝国でも同盟でも、男性は女性を守れって習う。ご両親からそういうことは言われない?」

「うん。お母さまは亡くなっちゃったけど、お父様からはそう言われるよ。今日はできなかったけど」

お母さまの事があったから会話を遮ろうと思ったけど、ユルゲンは素直に答えていた。

「そうか、だったら尚更、お姉さんを守れるようにならないとな。約束の挨拶だ」

そういってオレンジの髪の少年が拳を差し出す。戸惑うユルゲンに

「同じように拳をだしてぶつけて。同盟流の挨拶だよ」

そう言われたユルゲンが恐る恐る拳をぶつけると、オレンジの髪の少年は『男同士の約束だ』と言いながら笑顔でユルゲンの頭を撫でた。どこかユルゲンも嬉しげだった。

「んじゃ、またどこかで」

そう言い残すと少年はタクシーに乗り込み走り去ってしまった。何だろう。変に胸がドキドキする。

「姉さま、お腹すいたよ」

そんなユルゲンの声で現実にもどり、私たちはホテル・シャングリラのロビーに向かった。部屋を抜け出していた私たちを探していたお父様に、大目玉を食らうのも、ユルゲンと毎晩していたお休みの挨拶が、この日から頭を撫でるのでは無く、拳を合わせる同盟流の挨拶?になるのはまた別の話だ。

そして一緒に過ごした時間は一時間も無いのに、やけに強い印象を残したオレンジの髪の少年との再会は、意外なほどすぐ訪れることとなる。 
 

 
後書き
暁さんでは13話までの公開とさせていただきます。毎日投稿はハーメルンさんで予定しています。感想欄もハーメルンでログインなしで書き込めますので、お気軽にお願いできれば嬉しいです。 
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