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カーク・ターナーの憂鬱

作者:ノーマン
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第8話 雇用主と宇宙

 
前書き
     【原作年表】
宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校 
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件 
宇宙暦728 フォルセティ会戦    
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業  
宇宙暦738 ファイアザード会戦   
宇宙暦742 ドラゴニア会戦     
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦  
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生

※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています 

 
宇宙暦723年 帝国暦414年 6月末
惑星シロン 静止軌道 エンブレム号
カーク・ターナー

「やっと会えたな、ターナー君。キャプテン佐三だ。エンブレム号への乗船を歓迎する」
「キャプテン佐三、カーク・ターナーです。諸々のご手配ありがとうございます」

ジャスパーに見送られてシャトルに乗り込んだ俺は、静止軌道上に打ち上げられ、待機していたエンブレム号に乗り込んでいた。航海士見習いとなる俺の雇い主、キャプテン佐三と涙の......。という訳ではないが、対面を果たしている。彼の氏名は井上オーナー同様、姓が先に来るE式だ。前世で言うと、彼のフルネームは出光佐三、乗船するのはエンブレム号、これも和訳の仕方によっては日章号だ。

井上オーナーがつないでくれた縁だが、少なくとも名前だけなら成功につながる気がする。船長は某巨大石油会社の創業者、乗船するのも日章丸とほぼ同じ名前。別にキャプテン佐三が大儲けしてもボーナスがもらえる位だろう。ただ、どんな組織であれ、大きな成果を出せれば組織全体が前向きに進むし、ポジションも増える。航海士見習いとして歩みを始めるには、良い職場に当たったのかもしれなかった。井上オーナー、感謝です。

「エンブレム号には、首都星系産の機械部品とシロン産の嗜好品を積み込んだ。これからフェザーンへ向かう。亡命関連の案件があるかは、行ってみないと分からない。ただ、貴族子弟の対応は君に任せることになる。大丈夫そうか?」

「はい。短期間ですが学費を出していただきました。マナーに関しては『優』評価を頂きました。皇族でもなければ無難に対応できるだろうと、評価も頂いております」

「それは何より。この船の亡命案件の主任ってとこだね。井上からも学習意欲が高いって聞いてる。君を雇ったのはあくまで亡命子弟の対応のためだ。航海士としてもキャリアを積めるように、しっかり励むようにな」

俺の肩をポンポンっと叩きながら、キャプテン佐三が笑顔を向けてくる。そんなこと言われるまでもない。一日も早く航海士になって、仕送りを増やすのが俺の直近の目標だからね。割り当てられた部屋は、思った以上に良い部屋だった。
自動化が進んだこの時代の商船は少人数での運用が可能だ。亡命案件の対応もするからエンブレム号も客室を用意しているが、わざわざ航海士見習いの為に、航海士用からグレードを落とした部屋を用意する方がむしろ無駄だ。そういう訳で分不相応な航海士用の部屋を俺も貰えるという訳だ。

「まあ、まずは機関部門からだな」

割り当てられた部屋の衣装棚にカバンに納まっていた私服をしまいながら俺はつぶやいた。航宙分野に関しては艦橋に船長・副長・航海長がいる以上、俺の出る幕はない。一方で機関部門は自動化が進んでいるとはいえ、メンテナンスを含めて必要な作業はそれなりにある。
経済を支える商船乗りが徴兵される可能性は低い。ただ、万が一徴兵されたとしても、機関士としての知識があれば、最前線の陸戦隊に配属されるリスクは低くなる。まあ、処世術の一環だな。

全く予想外の展開だったが、航海士見習いの中でもホワイトカラー志向が強いのか、艦橋勤務の業務を学びたがる奴が多いらしい。初めに機関業務を希望する航海士見習いは皆無に近いらしく、そんな中で機関士一筋30年の機関長は、機関業務を第一希望にした俺を、それだけでかなり気にいってくれたようだ。
俺は経験したことがないが、希望者の少ない部活ほど、入部希望者がかわいいような感覚なのだろうか。とにかく、航海士見習いとしての俺のキャリアは、思った以上に良い環境でスタートした。仕送りもちゃんと出来るし、この好待遇に応えるべく、俺はしっかり務めるだけだ。


宇宙暦723年 帝国暦414年 7月末
惑星ウルヴァシー 静止軌道上 エンブレム号 
キャプテン佐三

「素人の私から見ても、この惑星はかなり有望そうですが、開発計画は無かったのでしょうか?」

「計画自体はあったそうだが、艦隊拡張予算の為に予算を取られて計画は白紙になったそうだ。あとは有望すぎるってものあるかもな。水資源も豊富だし、フェザーンからも近い。本当は亡命系が入植したがったそうだが、ここはバーラト星系とフェザーンの主要航路を押さえる星系でもある。亡命系に任せるには惜しいしリスクもある。とは言え、艦隊拡張の為に予算も割けない。結果放置されたままってわけだな」

「そうなんですね。私の出身地のエコニアよりもかなり環境が良さそうですし、放置されているなんて勿体ないと思いまして」

そう言いながら、首都星ハイネセン並に青い惑星ウルヴァシーが映るモニターに視線を向ける新入りのターナー。井上も良い人材を紹介してくれた。ビジネスの場で身を立てて来た俺から見ても、将来が楽しみな奴だ。

「機関長から話は聞いてる。素の話し方をしても良いんだぜ?」

「さすがに雇い主との関係はちゃんとしておきませんと......」

少し困った表情をしながらターナーは答えた。確かに同僚と言えなくもない機関長と同じように気安く接するにはまだ接した時間が少ないか。機関長がつきっきりで機関業務を叩き込んでいるから、ターナーは艦橋にいる時間が少ないんだよな。商船乗りは万が一の時は命を預けあう仲だ。本当なら艦橋詰めの連中とももう少し絆を深めてもらいたいと所だが......。

「では、機関室に戻ります」

ターナーが一礼すると、艦橋から退出していった。そのタイミングでモニターから着信音が響く。通話ボタンを押すと機関長がモニターに映った。

「艦長、補給完了だ。悔しいとこだが、フェザーン系は質も良いし価格も良心的。本国にももう少し考えてもらいたいですぜ」

「そういうな。エネルギー系は生活必需品だ。多少課税しても売れ行きが鈍らないからな。だがそのせいで俺達もだが、なるべくフェザーン系で補給する流れが出来てる。軍を除けば商船はエネルギー系の最大消費者だ。俺達に負担を押し付けるような政策は、本来悪手なんだがなあ」

「例の噂、本当なんでしょうね。情報交通委員会と経済開発委員会にフェザーン系から賄賂が流れてるってやつ。奴らの懐に入る金額の何百倍も同盟からフェザーンに資本流出してるってのに」

「政界の中心はバーラト系の中でも政治家の家系の独壇場だからな。同盟全体の利益より、自派の利益優先になっちまってるんだろうな。もっとも、それを理解しつつもそれに乗っかって経費削減してる俺達も同じ穴のムジナなんだろうが」

示し合わせたかのように俺と機関長が同時にため息をつく。視線を向けると航海長もやれやれと言った表情だ。まあ、政治家を敵に回したら同盟で商売をするのは難しくなる。俺たちにできるのは与えられた環境で精いっぱい儲けるだけだ。

「それとな、ターナーを気に入ったのはわかるが、あいつが一人前の航海士になるには、艦橋業務も覚えねえといけねえんだ。抱え込むのもほどほどにな」

「分かってまさぁ。ただ、ほとんどの見習いは機関業務なんて触り位しか学ばねえんだ。なかなかある事じゃねえんだから、多少は大目にみてくれよ」

逃げるように機関長が通信を切る。まあ、もうしばらくはそっとしておくか。惑星ウルヴァシーに関しては、俺は別の事情もあると考えている。惑星自体の資源の有望性に留まらず、銀河の資本の中心になりつつあるフェザーンにも近すぎるのだ。今は良いかもしれないが、いずれ経済成長が進めばバーラト系に匹敵する可能性がある。同盟の中心はあくまでバーラト系で良い。自分たちに成り代わる存在など認める訳もない。

モニターには静止軌道上にある宇宙ステーションが映る。建設したのはフェザーン系の資本だ。最新の施設で運営効率も高い。その上、補給物資の質も高く、価格も安い。このままフェザーン資本の流入が続けば、同盟のエネルギー業界はフェザーンに牛耳られる。そうなれば宇宙のこっち側の商船は、フェザーンの意向を無視できなくなっちまうんだが。

「そうしてフェザーンが肥太るわけか。全くどうしたもんかね。商船一隻の駆け出し零細資本じゃ、わかってたって出来ることはほとんどないんだよな。んでわかっちゃいても資本蓄積の為にはフェザーンに行かない訳にもいかないというね」

ぼやきながら最終チェックの開始を始める。個人的に面識があるフェザーン系の独立商人達は、腹黒な所を除けば良いやつなんだがなあ。なにより亡命業務は美味しいし、エンブレム号が業界で認められるためにも外せないビジネスだ。零細資本でビジネスを立ち上げたばかりの俺達に儲け話を無視する余裕はない。

「んで、それなりに成功したらしたで、お偉いさんに絡めとられちまうんかね」

艦橋を出ていったターナーの年頃では、いつか自分の商船を持つんだって夢に向けて、俺はただただ前を向いていた。ただ、あの時の夢をかなえた時、その先にあるものがどんよりとした物だったとはな。とは言えやっとかなえた夢の続きだ。後悔しないように歩みを進めるしかない。

「よし、フェザーンへ向けて出発しよう」

暗い方へ進んだ思考を止める様に、俺は出発の指示を出しだ。願わくば、このもやもやを拭うほどの儲け話に出会えることを望むぜ。そんなことを、小さくなっていく惑星ウルヴァシーをモニター越しに眺めながら俺はそんなことを考えていた。
 
 

 
後書き
暁さんでは13話までの公開とさせていただきます。毎日投稿はハーメルンさんで予定しています。感想欄もハーメルンでログインなしで書き込めますので、お気軽にお願いできれば嬉しいです。 
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