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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第二百七十五話 小野さんのお話その七

「寮の同じ部屋の先輩が凄くいい人で」
「私もそう聞きました」
「小野さんもですか」
「優しくてしっかりとしていて」
「しかもかなりの美人さんで」
「よく出来た人とですね」
「言っておられました」
 もう満面の笑顔で話してずっと先輩のことばかりお話していた、その時は。
「本当に」
「おそらくそれは事実です」
「凄くいい人ですか」
「ですが世の中罪を犯すのは善人も同じです」
「悪人だけが罪を犯す訳じゃないですね」
「これは悪人正機説とは違います」
 浄土真宗、親鸞さんが開いた仏教のこの宗派の考えではないというのだ。
「また別のものです」
「あれは善人は罪を自覚していなくて悪人は自覚していますね」
「人は誰もが罪を犯すという考えで」
「それで何故悪人が救われないのか」
「そうした考えですね」
「私が今言うのは善人も悪人も文字通りです」
 まさにというのだ。
「それは」
「本当にそうした意味ですね」
「はい、そして
 僕にさらに話してくれた。
「悪人が罪を確信犯で犯すこともあれば」
「善人が意識せずにですか」
「悪人の確信犯の行いよりも惨いことをする」
「そうしたこともあるんですね」
「はい、そしてです」
「人を傷付けますか」
「そうしたこともあります、その人はいい人でしょうが」
 それは事実だが、というのだ。
「許さないだけの残酷な行いもしています」
「そうでもあるんですね」
「そこが人間の難しいところでもあります」
「人は善人も罪を犯すこともあり」
「それが非常に残酷な場合もです」
「あって」
「人の心を。人格が変わるまで傷付ける」
 そうしたことがというのだ。
「あるのです」
「難しいことですね」
「それだけのことをすれば反省しても遅いのです」
 厳しい言葉だった、僕にはそう聞こえた。
「最早」
「そうですよね」
「例え相手が肉親でも」
「それでもですか」
「ある娘さんを知っていますが」
 小野さんは微妙な顔になった、そして僕にあるお話をしてくれた。そのお話はとても悲しいものだった。
「反抗期でお父さんを嫌って」
「それはよくある話ですね」
「汚いから家の風呂に入るな、選択するな、触るな見るなと言って」
「それはまた酷いですね」 
 反抗期にしてもだ、僕も聞いて思った。
「そこまでいくと」
「それでもうお父さんが耐えられなくなって離婚しました」
「娘さんにそこまで言われて」
「奥さんも一緒になって言って、そして」
「離婚ですか」
「そして別れて、いなくなってわかったのです」
 小野さんは今度は悲しい顔になって話してくれた。
「その存在に。稼ぎ手でしたし逆に暴言で精神的苦痛を味わったと慰謝料を請求されて」
「ああ、お金もなくなって」
「そして何よりも家族が一人いなくなって」
 そうなってというのだ。 
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