八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第二百七十五話 小野さんのお話その六
「そうした人は」
「どの人も闇が深いです」
「やっぱりそうですよね」
「そして苦しんでいます」
「身体の傷よりも、下手をしたら」
僕はここで親父の言葉をまた思い出して言った。
「身体の傷も治りにくいものがありますが」
「後遺症ですね」
「それがありますね」
「はい、ですが」
「心の傷は」
「下手をすればです」
「その身体の傷より残って」
僕は後遺症とか身体に残る傷跡を思い出しつつ話した。
「そのうえで」
「いつもその人を責め苛みます」
そうれが心の傷、トラウマだというのだ。
「外見には残らないですが」
「心には残りますね」
「そうしたものを人に与えることは」
「本当に残酷ですね」
「若しです」
「若し?」
「私の娘が他の人にそんなことをすれば」
その時はというのだ。
「娘を張り倒します」
「そこまでされますか」
「手をあげることは駄目ですが」
それでもというのだ。
「しかしです」
「それでもですね」
「そうした行いは許せません」
「人の心に土足で踏み込みそうして踏み躙る様な行為は」
「極めて残酷なことなので、言葉は時として人を殺します」
小野さんは僕に沈痛な声で話した。
「心を」
「それは何か」
僕はここでは親父の言葉以外のことから思い出すことがあった、それはというと。
「学園の歌劇場でリゴレットを観ましたが」
「歌劇ですか」
「主人公が自分は言葉で人を殺すと言っていました」
知り合いの殺し屋と話をした後でだ。
「そうしたことを」
「それは事実です」
「やっぱりそうですね」
「はい、実際にです」
「言葉で人の心を殺すこともありますね」
「わざわざ下校する相手を待ち伏せして集団で聞こえる様に陰口を言われると」
「相当心の強い人、覚悟している人でないと堪えますね」
僕だと絶対に無理だ、心が折れる。
「そうなりますね」
「それも落ち込んでいる相手にです」
「追い打ちですか」
「さらに追い詰める為に」
「余計に酷いですね」
「娘がそこまで残酷なことをすれば」
その時はというのだ。
「許せないですから」
「殴られますか」
「拳が出るかも知れません」
そこまでのものだというのだ。
「最早」
「そうですか、拳ですか」
「その時は」
「そこまでのものですか」
「私はそう思います」
「あの教会の娘さんが言われるには」
奈良の大学に通っておられてこちらにはあまりいない、十九歳なので一回生になる。小柄で随分可愛らしい外見の人で駅前の喫茶店のマスターさんと知り合いとのことだ。
「そのことをした娘さんの先輩は」
「凄くいい人だとのことですね」
「娘さんに三年前言われました」
丁度夏休みでこちらに帰っていた時だ、そこで夏に教会に親父と一緒に来た僕にお話してくれたのだ。
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