八条学園騒動記
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第五百六十六話 アンの絵その十一
「シェークスピアはよかったみたいだよ」
「エリザベス一世を見ていたのかしら」
「そうかもね、それでリチャード三世も」
この人物もというのだ。
「テューダー朝から見れば敵だから」
「悪く書いていたのね」
「その可能性があるね」
「何か色々事情があるのね」
「シェークスピアの作品にもね」
「そうなのね」
「それでフォルスタッフ卿は」
この人物はというと。
「その時代の人だよ」
「テューダー朝の」
「そう、丁度シェークスピアの時代だよ」
「当時は現代を書いていたのね」
「そうなんだ」
「そういうことね」
「実はね、リチャード三世もそんな昔じゃないよ」
シェークスピアから見ればそうだというのだ。
「ヴェニスの商人だってね」
「言うなら現代劇ね」
「当時から見ればね」
シェークスピアの生きていた時代から見ると、というのだ。
「そうなるよ」
「そうなのね」
「その辺りも考えると面白いかな」
「そうだね、古典かっていうと」
今ではそうだがというのだ。
「当時はね」
「現代劇だったんだ」
「その感じだったんだ」
まさにというのだ。
「あの時代だとね」
「そう考えると確かに面白いね」
「こうしたこと創作じゃ多いね」
「発表された当時は現代を書いていた」
「そんな作品も多いんだね」
「例えば坊ちゃんも」
菅は自分の国の文学の話を例えに出した。
「当時はね」
「現代ものだったんだ」
「夏目漱石が書いたのは」
「明治の日本で」
「まさにね」
「当時であって」
「現代の小説だったんだ」
漱石が実際に生きていた時代ではというのだ。
「そうだったんだよ、漱石の他の作品もね」
「古典じゃなくて」
だからだというのだ。
「現代だったんだよ」
「当時は」
「あくまでね」
「ううん、千年後の人間と当時の人間の感覚は違う」
「そういうことだよ」
「このことを学んで」
そしてというのだ。
「ウィンザーの陽気な女房達の上演していこうね」
「わかったよ」
マルティは菅に頷いて応えた。
「是非ね」
「そういうことだね」
「まあフォルスタッフ卿みたいな人は当時も今もそうそういないでしょうね」
アンはここでこう言った。
「流石に」
「あんな滅茶苦茶な人はね」
「滅茶苦茶でいて愛嬌がある」
「そんな人はね」
それこそとだ、マルティはアンに応えた。
「いないだろうね」
「そうよね」
「普通ああした人は嫌われるけれど」
「実はそうでもないし」
「確かに懲らしめられるけれど」
夜の公園でそうされる、作品の登場人物達が力を合わせて妖精に扮してこの図々しい老騎士を懲らしめるのだ。
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