八条学園騒動記
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第五百六十六話 アンの絵その二
「そうだったんだ」
「そうよ、ただね」
「ただ?」
「もうすぐ帰って来るわよ」
「そうなんだ」
「転送機ですぐに行ったから」
「あれお金高いよね」
瞬時に遠くへ移動出来る、それだけに使用は高価なのだ。
「使うとなると」
「けれどこの播磨星系からマレーシアのクアラルンプール星系までね」
「一瞬で行けるから」
「だからね」
それ故にというのだ。
「すぐに帰ってくるわ」
「そうなんだね」
「ええ、ただね」
「今はだね」
「いないわ」
これまで話した事情でというのだ。
「そのことはわかっておいてね」
「うん、少し待つよ」
「何かね」
菅はここでこうも言った。
「ギルバートがいないとね」
「寂しいね」
「そうだよね」
「いるとあれこれ口煩いけれど」
「何かとね」
これがというのだ。
「寂しいね」
「どうもね」
「あれで間違ったこと言わないし意地悪もしないし」
アンも言う。
「暑苦しいところはあるけれど」
「いないと寂しいね」
「どうもね」
これがというのだ。
「あの口煩さもね」
「ないとね」
「本当に寂しいわね」
「そうだよね」
「けれどもうすぐ戻ってくるから」
だからだとだ、菅は話した。
「彼は待っていよう」
「そうするべきね」
「多分落ち込んでるだろうね」
菅はギルバートのことを察しこうも言った。
「お葬式だと」
「大切な人が亡くなったなら」
それならとだ、マルティも菅の今の言葉に応えた。
「誰でもね」
「落ち込むね」
「あの感覚は忘れられないよ」
「誰もが経験することだけれど」
それでもとだ、菅は話した。
「けれどね」
「その誰もがね」
「辛いことだよ」
「大切な人とのお別れは」
「死によってのそれはね」
「私もね」
アンもこう言った、二人の今の話に。
「ずっと可愛がってくれたひいひいお祖父ちゃんがね」
「亡くなったんだ」
「去年の夏休みにね」
つまり高校一年の時にというのだ。
「そうなってね」
「その時にだね」
「凄く悲しかったわ、もう百十七歳で」
連合の平均寿命である百歳を超えていたがというのだ。
「大往生だったけれど」
「それでも大切な人に先立たれるとね」
「悲しいわ」
「そうだよね」
「それは誰でも同じね」
「うん、人間の心があるなら」
それならとだ、菅はアンに答えた。このことは人間の身体でも人間の心がある場合のことを言っているのだ。
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