【完結】RE: ハイスクール D×D +夜天の書(TS転生オリ主最強、アンチもあるよ?)
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第3章 奪われし聖なる剣
第16話 善悪の彼岸
――――これは、とあるシスターとエクソシストの話である。
シスターは、病魔を癒す神器持ちだった。
彼女は、多くの人々を救い、聖女として敬われていた。
エクソシストは、名うての悪魔払いだった。
彼は、多くの人々を守り、守護者として畏怖されていた。
二人は出会い、やがて恋に落ちる。
しかし、敬虔な信徒である二人は、節度を弁えていた。
恋人ではなく、お互いが尊敬し合う同僚として接するよう心掛けていた。
ある日、天使長が、彼らの勤める教会を訪れた。
シスターは、天使長に問うた。
『神は既にいないのではありませんか』
彼女の質問に驚いた天使長は、根拠を問い返す。
彼女は言い放つ。
いまの貴女の表情が全てを物語っています、と。
次の日、シスターは異端として破門された。
エクソシストは、すぐさま彼女と駆け落ちする。
天使たちの追手を避けるため、堕天使たちに保護を求めた。
堕天使の総督は、優秀な彼らを喜んで歓迎する。
シスターの仕事は変わらない。
病魔に苦しむ人々を癒し続けた。
エクソシストの仕事は変わらない。
悪魔に苦しむ人々を救い続けた。
時は流れ、二人は娘をもうけた。
娘のために、願い出る。
市井に降りて、暮らしていきたい、と。
堕天使の総督は、答える。
娘のために、働け。
優秀な駒を逃すわけにはいかない、と。
シスターは、働き続ける。
娘の将来を救うために。
エクソシストは、働き続ける。
娘の未来を守るために。
月日は流れ、娘は成長する。
二人は申し出た。
娘は日常を過ごして欲しい。
娘は平穏に暮らして欲しい。
堕天使の総督は、答える。
彼女は我々のために働いてもらう。
彼女は優秀な駒になるだろう、と。
シスターは、苦しむ。
母として、娘に自由を与えてやりたいから。
エクソシストは、苦しむ。
父として、娘の未来を守ってやりたいから。
だから、二人は隠れることにした。
天使たちは頼れない。
シスターを殺そうとするだろう。
堕天使たちは頼れない。
娘を人質にとるだろう。
悪魔たちは頼れない。
エクソシストは恨みを買いすぎた。
二人は必死に考える。
天使たちは、二人を追っている。
堕天使たちは、二人を探している――――けれども。
悪魔たちだけが、二人に関心がなかった。
二人は、ある悪魔の領地で暮らし始める。
娘とともに、日常を過ごそうと、決意した。
娘のために、平穏に暮らそうと、決断した。
二人の望みは、小さな幸せ。ただ家族と暮らすこと。
二人の願いは、娘の幸せ。ただ日常と平穏を得ること。
――――そんな、どこにでもいる家族の話だった。
◆
――――ヴィータは、八神はやてを知っている。
「――というわけさ。まあ、ありがちな物語だね。
最後は、はぐれ悪魔が、『偶然』やってきて殺されたわけだ。
『何故か』エクソシストに気づかれることなく、ね」
無表情で、はやては語り続けた。
発端は、紫藤イリナとの出会いらしい。
面識のないはずの彼女から、親しげに話しかけられた。
しかし、彼女と過ごした記憶はない。
疑問を感じて、過去を振り返ってみれば、あたしたちと会うまえの記憶が酷くあいまいでおぼろげだ。
――――ヴィータの知る八神はやては、優しく慈愛に溢れていた。
「奇跡的に一人娘だけは、助かることが出来た。
だが、それは誰かが起こした奇跡だった。
その奇跡を起こしたのは、とある少女だった。
彼女の願いが――」
不安を感じたはやては、帰宅した後、両親の寝室を兼ねた書斎を調べた。
その部屋は、様々な想いが詰まっており、長らく掃除だけして保存してあった。
手紙やアルバムに書籍と、雑多なものが置いてある。
その中に、父の手記を見つけた。
どうやら、日記らしく、ずいぶんと古ぼけていたが、使いこまれていることが見て取れた。
――――ヴィータの知る八神はやては、凛々しく毅然と振る舞っていた。
「つまり、ボクの正体は――」
日記には、父と母について、色々なことが書かれていた。
二人が、いつどこで出会い、どうしてここで暮らし、どうやって今まで生活してきたのか。
二人が、何をして、何を思い、何を願ったか。
二人が、どれだけ娘を愛していたか。
――――ヴィータの知る八神はやては、家族を愛し守ろうとする強い少女だった。
「――――これが、ボクの正体だ。
まだ、推測の部分が多いが、おおむね合っていると思う。
なにせ『思い出した』からね」
あたしは、はやての両親を知らない。
起動したときには、二人は既に殺されていて、主を守ることで精いっぱいだったから。
けれども、父と母の亡骸にすがり、すすり泣いていた姿から、分からないはずがない。
はやては、間違いなく父母を愛していたし、両親もまた彼女を愛していた。
――――ヴィータの知る八神はやては、泣き虫で傷つきやすい幼子だった。
「――『転生か、憑依か、現実か』ってね。
いままで疑問に思いつつも、答えはでなかった。
やっと解明できて、すっきりした気分だよ」
一緒に暮らしているからわかる。
はやては、誰よりも、何よりも家族を大切にしている。
些細なことでも笑い、泣き、喜び、悲しむ。
はやてが居るからこそ、あたしたちは今のような生活を手に入れた。
みんなで家族はつくるもの、と彼女はいつも言っている。
けれども、はやての存在が、ずっと家族の中心となり、支えになっていたと思う。
他の皆も同じように思っているだろう。
――――ヴィータの知る八神はやては、明るく快活な子どもだった。
「――ボクは、願いを叶えなければならない。
心情的にもそうだし、他に手段がないのも理由だ」
はやてがあたしに与えてくれたものは多い。
いつだったろうか。
なぜ家族をそこまで大事にするのか、と尋ねたことがある。
まだ出会ってから日が浅く、戸惑うことが多かった頃の話だ。
彼女は、不思議そうな顔をしたあとで、にっこりと笑って教えてくれた。
『家族がいればね。
嬉しいことがあれば、一緒に喜べる。
喜びを分かち合うことで、何倍にも大きくなるんだ。
悲しいことがあれば、一緒に悲しめる。
悲しみを分け合うことで、何倍にも小さくなるんだ』
彼女は、なおも嬉しそうに言葉を紡ぐ。
『寂しければ、側にいる。
辛いことがあれば、頼ることが出来る。
困ったことがあれば、相談できる』
そして、最後に苦笑しながら、締めくくる。
『まあ、あくまでボクが理想とする家族を語っただけなのだけれどね。
けれども、皆と一緒なら、きっと素敵な家族になれると思うんだ。
だから――』
(――いっしょに家族をつくっていこう、ヴィータ姉、か。そういえば、このとき初めて姉って呼ばれたんだっけか)
――――ヴィータの知る八神はやては、大人びているがどこか抜けている妹分だった。
「――以上だ。ボクの進むべき道は、初めから決まっていた。
気づくのがずいぶんと遅れてしまったけれどね。
だから、これからのどうするべきか。
みんなの意見を聞きたい」
はやてと会ってから、もう7年以上経つ。
楽しいこと、苦しいこと、嬉しいこと、悲しいこと。
いろいろあったが、全てひっくるめて、とても大切で、素晴らしい思い出だった。
父母の過去と、自らの秘密について、語り終えたはやては、今もなお無表情だ。
けれども。
姉貴分の眼はごまかせない。
「それよりも、はやてはどうしたいんだ?
自分の答えはもうでている、って顔しているぜ。
素直に白状しろよ――――あたしたちは家族だろ?」
驚いた顔をして、こちらを見るはやてを見返して、苦笑してしまう。
なんとなく、はやてのやりたいことは分かる。
そのやりたいことが、いまの日常や平穏を壊す結果になることも。
だが。
それがどうしたというのだろう。
「ヴィータの言う通りだ。我々は、主はやてにつき従う騎士だ。
しかし、それ以上に家族として大切に思っている」
「水くさいこと言ってはだめよ、はやてちゃん。家族の前ですら話せないなんて。
わたしたちは、そんなに頼りないのかしら」
「共に悩み、共に歩む。主よ、われら家族の絆は、それほどまでに脆いとお考えか」
「ええ。マスターも仰っていたではありませんか。
『家族の間で隠し事はしないように』と。忘れたとは言わせませんよ」
口ぐちに言葉を投げかける。
それは。
家族たちの思いの代弁であり。
頼ってくれない悲しみであり。
主を想う優しさであり。
背中を押そうとする励ましだった。
「え……皆。でもボクは、ボクの願いは。僕が願ったことは――」
「ほら。まずは、あたしたちに全て話せ。
どうするかは、あたしたちが決めることだ。
はやての責任だとか言うなよ?
あたしたちの意思を軽んじる発言だぜ?」
――――ヴィータは、八神はやてを知っていた。
「ありが、とう。
この道は、『八神はやて』の望んだもの。
きっと、誰もかれもが立ちふさがることになる。
みんなも巻き込まれれば、不幸になるかもしれない――いや、きっとなる。
でも、それでもっ、力を貸してくれますか……?」
幼子のように不安に揺らぐ瞳を向ける少女。
そんな少女に、家族のだれもが力強く賛成した。
張り詰めていた空気を弛緩させ、涙をこぼす妹分を見ながら思う。
はやては、自分たちにとって守るべき主であると同時に、大事な家族だ。
一家の大黒柱である彼女の立場を表現するのは難しい。
それは――
主であったり。
娘であったり。
妹であったり。
父であったり。
母であったり。
――とても、一言で言い表すことはできないだろう。
けれど、ヴィータにとって、はやての存在は――
(もしも、あたしに「お母さん」がいるとしたら。はやてみたいな存在をいうんだろうな)
――恥ずかしくてとても人前では言えない、ヴィータの本音だった。
◆
木場祐斗と兵藤一誠は、3人のエクソシストと戦っていた。
敵は全員が聖剣で武装している。
まず間違いなく教会から奪ったエクスカリバーだろう。
本当は、新たに武装を容易した紫藤イリナとゼノヴィアも一緒に行動するはずだった。
しかし。
「イリナたちは、聖剣の破片を奪った犯人を捜索中で来られない、か」
目の前のエクソシストをドラゴンショット――射撃魔法のようなものある――で、吹き飛ばしながら愚痴を吐く。
木場祐斗に破壊された2本のエクスカリバーの破片は、イリナとゼノヴィアが厳重に保管しているはずだった。
だが、現実として、破片は奪われ、犯人は明らかになっていない。
堕天使陣営だと、推測しているが。
「僕としても、破片を奪った犯人は警戒すべきだと思う。
彼女たちが部屋にいるにも関わらず、破片がなくなっていたんだ。
何らかの神器である可能性が高い」
「事前の情報にないってところが、厄介だな」
木場と戦っていた一人は地に伏し、最後の一人もたったいま一誠が殴り飛ばした。
「な、んだと……!?聖剣持ちを3人も相手に回して、なぜ余裕なんだ!?」
それぞれが7分の1の力しかないとはいえ、エクスカリバーは伝説級の聖剣である。
それを、三本も同時に敵にして、普通は圧勝できるはずがない。
だが。
「武器が強かろうと、扱う人間がヘボなら脅威じゃない」
「木場の言う通りだな」
シグナムという師を得て、飛躍的な成長を遂げた木場にとって、並の使い手では相手にならない。
一誠にしても、禁手化という切り札を使わずとも、悪魔の力と通常の倍加で、うまく戦う術を心得ていた。
彼らの努力の成果でもあり、シグナムやはやてたちの教え方がうまかった証左でもある。
特に、一誠の成長は目覚ましい。
もはや、原作の彼とは比較することすらおこがましいだろう。
彼の努力もあっただろう。
だが、それ以上に、八神はやての行った秘策の成果でもあった。
『少し前まで素人に過ぎなかった相棒が言うと皮肉にしか聞こえんな』
「まあ。そうかもな。八神さんのアレは、反則だよな」
アレとは、夜天の書に蓄積されたデータを元に、彼女が作ったオリジナル魔法『ファンタズマゴリア』――名前は直感で決めたらしい――である。
この魔法は、相手を幻想世界に誘い込み、精神のみでの活動を可能にするというものだ。
一誠たちは、幻想世界内で、八神家の面々とひたすら特訓に明け暮れた。
幻想世界では、どんなに長時間過ごしても、現実世界では、ほんの数瞬にすぎない。
これが、グレモリー眷属が急激に実力を上昇させた秘密だった。
「さて、君たちの聖剣は、破壊させてもらうよ」
木場は、逸る気持ちを抑えて、聖剣へと向かう。
一応、奇襲などを警戒はしておく。
しかし。
情報によれば、コカビエルが主犯だったはずだ。
けれども、彼はこの場に現れない。
いや、正確には、「現れることができない」
「向こうも部長たちがうまく抑え込んでいるみたいだな。作戦成功」
一誠が安堵の息とともに、声を出す。
リアスたちが、コカビエルを挑発している間に、聖剣を破壊するという作戦だ。
彼女たちは、どうやら足止めに成功したらしい。
別働隊の木場と一誠が、本命の聖剣使いを撃破したというわけだ。
作戦を立案し、実行したリアスの手腕は、褒められてしかるべきだろう。
――と、そのときだった。
突如、何かが飛来し、轟音とともに、一誠たちとエクソシストの間を土煙が舞う。
「何だと!?」
辺りが晴れると、そこには――誰もいなかった。
「くそっ。逃したか。部長たちが失敗した様子はない。と、すると――新手がいるな」
◆
「やあ。聖剣とエクソシストたちを返しに来たよ」
凛とした空気に似合う言葉づかいをした少女が、ふらりと現れて言う。
「お前は……何のつもりだ?」
「なに。お近づきの印に手土産を、と思ってね。」
警戒しつつも見やると、確かに、失ったと思っていたエクスカリバーで間違いない。
「何が目的だ」
「取引をしたいのだよ――――ボクの父と母について教えてほしいんだ」
――――堕天使たちとの宴は、まだ終わらない。
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