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【完結】RE: ハイスクール D×D +夜天の書(TS転生オリ主最強、アンチもあるよ?)

作者:羽田京
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第3章 奪われし聖なる剣
  第15話 悲劇の誕生

「本当に助かったわ。持つべきものは良き隣人、良き幼馴染ね」
「感謝する。もはや、物乞いをするしかないと思っていたのだ」


 目の前には、白いローブを着た教会関係者と一目でわかる少女二人。
 ボクたちは、現在、洒落たイタリアンレストラン――少し前、クラスメイトに教えてもらってから、行きつけにしている店だ――にいる。
 既に、食事を終えて、ゆっくりとコーヒーを楽しんでいる。
 街角で、紫藤イリナに声をかけられ、幼馴染だという衝撃の事実を告げられた。
 その後、しばらく会話が続きそうだったので、別れようとしたところで――


『私たちに食事を恵んでもらえませんか?』


 ――と、言われた。なんとなく、断るのも気が引けたので、今に至る。
 へんてこな絵を買わされて、有り金をはたいてしまったのだとか。


(文無しになって物乞いをしていたところを、兵藤一誠たちが発見。ファミレスで会話することになったのだっけ)


 ファミレスの会話で、兵藤一誠が、聖剣エクスカリバーの破壊を共同で行うことを提案。食事代を盾に、共闘関係を結ぶ――のが本来の歴史だったはずだ。
 ただし、既に原作の流れは、破たんしている。なぜならば――


「この地の悪魔――リアス・グレモリーとソーナ・シトリーとは、協定を結んでいるんだろう?しかも、兵藤くんは、紫藤さんの幼馴染では?そちらを頼れば良かったと思うのだが」


――――そう。悪魔陣営と天使陣営は、聖剣エクスカリバーの破壊で手を結んでいる。
 

 かの聖剣が奪われたとの報を受けてから、木場祐斗の様子がおかしくなった。
 彼は、戸惑う兵藤一誠やアーシア・アルジェントに説明した。
 聖剣の担い手を人工的に作り出そうとして、非道な実験を受けた過去があることを。その実験で、同胞たちが死に絶えたことを。
 だからこそ、何としても聖剣を破壊したいのだと、胸の内を述べていた。


「イッセーくんは、ねえ。私もそれを考えたんだけど――」
「悪魔に頼るなど論外だ。しかも、あの木場祐斗とかいう奴と仲間ならば、なおさらだ」


 紫藤イリナが、苦笑しつつ答えようとして、ゼノヴィアに遮られる。
 ゼノヴィアは、木場祐斗と勝負し――敗北した。
 彼は、どうしても、自身を苦しめ、そして同胞を死に追いやった聖剣を破壊したかった。
 だからこそ、聖剣が盗まれたと聞いた日から、一人焦り追い込まれる――はずだった。
 しかし、剣の師を務めるシグナムが、そんな甘ったれた根性を許すはずがない。


『おのれの意思を貫きとおしたいのなら、力をつけろ。力なき意思など、虚言とかわらん』


 と、言って、徹底的にしごいた。彼の復讐心が貪欲なまでの力への渇望に吐きだされることで、木場祐斗自身も、理性を保つことに成功したようだ。
 おかげで、原作よりも数段上の実力をつけた木場祐斗は、ゼノヴィアに勝利したのだ。


(本来の歴史なら、木場祐斗は、敗れて暴走する定めだった。原作との乖離を一度、整理する必要がありそうだ)


 オカルト研究部の部室に挨拶にきた二人は、任務の説明と同時に、不干渉を要求した。
 それだけなら、よかった。
 紫藤イリナとゼノヴィアは、アーシア・アルジェントの話を知っており、『悪魔のような聖女は、とうとう悪魔になったのか』などと侮辱した。


「ゼノヴィアも落ち着きなさい。私たちの非礼が発端だったのは事実よ。
 それに、彼らとの協力は、本部からも許可を受けているわ」
「わかっている。わかっているが――あいつは、『わたしたちの聖剣を破壊した』のだぞ!?」


 グレモリー眷属は、怒りをあらわにし、険悪な雰囲気になったところで、『相応しい実力があるのか見せてみろ』と、たまたま同席していたシグナムが挑発。
 運動場で、戦闘が行われ――目出度く、木場祐斗が勝利した。
 ボクは、面倒事を避けるため、その場にいなかった。
 そのため、詳しい経緯は、シグナムから聞いている。


 しかしながら、自信満々に勝負を挑み、なすすべもなく彼にやられたゼノヴィアは、へそを曲げてしまったらしい。
 紫藤イリナも、兵藤一誠と戦い、禁手化すらしていない彼に敗れていた。が、こちらは冷静に受け止めている。


「ゼノヴィアを倒した剣士はすごかったわ。けれど、イッセーくんにまで負けるなんて……」


 ここで、重要な差異がある。兵頭一誠は、洋服崩壊(ドレス・ブレイク)を開発していない。
 なぜなら、十分な実力があるために、開発する必要がなかったからだ。
 聖剣の使い手である紫藤イリナに、純粋な実力で上回って見せたのだ。


「ねえ。イッセーくんは、つい最近、神器に目覚めたばかりって本当なの?」
「本当さ。彼は、堕天使に殺されかけて、神器に目覚めたと同時に、転生悪魔になったそうだ」


 本来の歴史ならば、ライザー・フェニックスに敗れ、彼は結婚式に乱入していた。
 不利な状況で、彼は腕一本を犠牲にして、「はじめて」禁手化に成功する。
 結果的に、花嫁泥棒に成功し、リアス・グレモリーとの仲が深まる――はずだった。 


(リアス・グレモリーは、もっと彼に積極的にモーションをかけると思っていたのだが。
 いや、お互い意識しているのは、確かだ。と、なるとボクたちの介入の結果だろうな)


「素人が短期間であそこまで、強くなれるというのか?木場とは別の意味で脅威だな。
 それとも、赤龍帝は、あれが普通なのだろうか」
「うう、ショックだわ。長い間鍛錬を積み上げて、聖剣に選ばれたのに」

「彼も努力したからね。正直、ボクも驚いている。
 戦闘になると、日頃の変態ぶりが、ウソみたいに切り替わるのだからね。
 戦闘モードの彼は、もはや別人といっていいだろう」

 
 アーシア救出作戦で、ドライグと対話し、力を引き出して見せた。
 あそこが、兵頭一誠の分岐点だったのだと、今ならわかる。


(偽物のアーシアが無残に殺された姿。あの光景が、トラウマになったのだろうな。
 原作の彼と比べれば、信じられないほど真剣に実力を身につけようとしている)


 木場祐斗と兵頭一誠との戦いで、彼らの力量を認めた彼女たちは、素直に非礼を詫びた。
 だが、戦闘の後が、問題だった。
 なんと、木場祐斗は、敗北した彼女たちに近寄り、聖剣をへし折ったのだから。
 おかげで、鉄くずになった聖剣は、使用不可能な状態になっている。


(使い手として授かった聖剣を破壊された――たしかに、へそを曲げても仕方ないか)


 当然、大問題になった。
 上の方が協議したうえで、奪われた聖剣3本を取り返すことを条件に、互いが協力することになった。
 破片さえあればよいらしく、聖剣の破壊自体はあまり問題にならなかったらしい。


『おまえのせいで、派遣した聖剣使いが使い物にならなくなった。
 だから、奪われた3本を取り戻せ』


 非常に単純な取引である。
 たとえ、2本の聖剣が破壊されようと、残りの3本の聖剣を取り逃がす方が、よほど問題だったようだ。


 2本の聖剣を破壊し、さらにあと3本の破壊許可を得た木場祐斗は、張り切るどころか、冷静だった。
 おのれの実力に自信をもてたことで、却って冷静になれたのだろう。
 慢心はシグナムによって、捨てさせられた――鍛練でボコボコにするという形でだが。


(いずれにせよ、主犯は、堕天使陣営の幹部コカビエル、か。
 戦力調査にはもってこいの相手だ――悪いが、獲物はとらせてもらうよ)


――――このときボクは、コカビエルで新技を試す予定だった





「――丈夫ですか!マスターどうかされましたか!?」


 リインフォースの前には、顔面を蒼白にした主――八神はやての姿があった。
 ふらりとリビングに現れると、ソファーに座り、ぼおっと、宙をみつめている。
 先ほどから、リインフォーフォースの必死な呼びかけにも反応を示さない。
 肩を揺さぶることで、ようやくこちらに気付いたかのように、顔を向ける。


「ああ、大丈夫。大丈夫だ。ボクは、大丈夫だから。少し、休ませてくれないか。今日は疲れた」
「どこが、大丈夫なものですか。明らかにお加減が悪いようですね――もしかして、紫藤イリナたちとの間に何かありましたか?」


 紫藤イリナとゼノヴィアと昼食を共にした――代金は、すべてはやてが支払った――後、彼女は帰宅してきた。
 このときリインフォースは、彼女に会い、軽く情報交換をしている。


(帰宅したときは、特におかしな様子はみられなかったはず――どういうことだ?)


 突然の出来事に混乱しながらも、リインフォースは、主の反応を待つ。
 しばらく沈黙したあと、はやては、のろのろと言葉をつむぐ。


「――――彼女たちと直接なにかあったわけではないよ。ただ、思い当たる節があってね。
 念のために調べてみたら、面白いことがわかった」
「面白いこと、ですか?」

「あとで、話す。とても大切なことだから、皆の前で話そうと思う。
 ただ、いまだ混乱していてね。説明する前に、内容を整理しておきたい」
「わかりました。外出中の守護騎士たちを直ちに呼び戻します」

「ああ、頼んだよ――悪いは、今日の夕食はリインフォースがつくってくれないか?」
「ええ、かまいません」

「ありがとう。たぶん、長くなるし、要領を得ない点も多いと思う。
 だから、食事のあとで、詳しく話そう」


 一通り言い終えると、はやては、二階の自室へよろよろと向かっていった。
 不安そうに見送るリインフォースに気付いた様子もない。
 いや、たとえ気づいていたところで、取り繕う余裕はなかっただろう。
 彼女が、ここまで憔悴した姿は、長く傍にいたリインフォースでさえ、初めてみる。


 心ここにあらずといった主を心配しつつも、直ぐに守護騎士たち――ヴォルケンリッターに連絡をとる。
 彼女の必死な様子に、ヴォルケンリッターの4人は、かつてないほど動揺した。
 ヴィータなど、露見することを承知で、転移魔法をつかって帰ろうとしていたほどだ。


 勇み足になる彼女たちをリインフォースは、何とかなだめようとする。
 努力の結果、事態を外部に漏らさぬよう、何食わぬ顔での帰宅を促すことに成功した。
 ヴォルケンリッターが、狼狽したのは、冷静さを欠いた状態で念話を繋いでしまった彼女にも非はある。
 もう間もなく家族全員が集合することだろう。


「マスターの身にいったい何があったのですか。二階で何かしていたようですが。
 あのような状態にまで、マスターを追い詰めるほどの何かがあったのでしょうか」


 あれこれとつぶやきながら、考えても、何も思い当たらない。
 この家は、はやてと初めてあったときから、ずっと住み続けてきたのだ。
 いまさら何があるというのだろうか。秘密などどこにも――あった。


(――もしかして、あそこだろうか。マスターの両親が殺された寝室なら、あるいは……)


 はぐれ悪魔が押し入ったあの日――そして、夜天の書の騎士たちが、主と出会った日。
 父母とともに、はやては、寝室のベッドで寝ていた。
 事件の後始末がひと段落ついたあとになっても、彼女は、寝室を使おうとしなかった。


 使おうとしないにも関わらず、彼女は毎日のように、忘れずに掃除をしている。
 たとえ、家族でも、決して入ることを許さない。
 今に至るまで、リインフォースたちは一度も入室したことはなかった。
 当然、部屋の中の様子を知る由もない。


(たしかあの部屋は、正確には寝室も兼ねた書斎だったはず。だとすれば、過去に関することで、何かをみつけたと考えるべきだろうな)


 ただし、一度も入室したことがないというのは、語弊がある。
 主の危機に反応して、はぐれ悪魔から守ったときから、後片付けをするまで。
 その間は、彼女たちも寝室に出入りしていた。
 あのころ、無言のまま、部屋の中でたたずむ主の姿をよく見かけていた。


 ふと思い出すのは――両親の遺体を前に、嗚咽していた少女の姿。
 忘れることのない最初の出会い。原初の風景。主の大切な人を守れなかった罪の証。
 いかに断片的とはいえ前世の記憶とやらを持ちえたとしても、9歳を迎えたばかりの少女には、あまりにも酷な試練。


(そうだった。あのときもマスターは顔を蒼白にしながらも、気丈に振る舞っていた)


 虫食いだらけの前世の記憶。転生。魂の性別。異世界。復元された夜天の書。原作知識。膨大な魔力。悪魔に対する異常な敵愾心。


 「八神はやて」にまつわる謎は多い。
 これまでに明らかになった断片的なキーワードを、結び付ける何かが存在するはずだ。
 その何かを見つけたのではないだろうか。
 以前から感じていた胸騒ぎが、止まらない。
 きっと、この先には、試練が待っている。理由はないが、確信がある。


(マスターがどのような存在で、どのような道を選ぼうとも、私だけは――私たちだけは、付き従います。たとえ、その先に破滅しかなかったとしても)


 本当なら諌めるべきだろう。だが、彼女は自らの主の頑固さを知っている。
 止めようものなら、一人だけで先へ進むだろう。
 いや、悪ければ、「家族を巻き込みたくない」一心で、一人で突っ走るかもしれない。だから――――。


――――この日、八神家の家族全員が、原作を破壊し、独自の道を歩むことを決意した
 
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