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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第二百七十話 神戸に戻ってその六

「神戸もですね」
「暦でもそろそろです」
「冬に入りますね」
「十二月ですね」
 十二月に入るともう冬だ、それまではあちこちを飛んで地面にもいた昆虫達もいなくなっていく。普通は十二月十日になれば虫は完全にいなくなる。若し十二月終わりで虫がいればかなりの暖冬である。
「いよいよ」
「そうなりますね」
「早いですね」
 僕は時間の流れの速さについても思った。
「もうですか」
「そうですね、八条荘に入られてですね」
「皆が集まってきて」
 それが春のことでだ。
「夏休みがあって」
「秋にもなり」
「それで、ですからね」
 気付けばだ。
「もう冬ですか」
「光陰矢の如しといいますが」
 畑中さんはこの言葉も出してお話してくれた。
「その通りですね」
「あっという間に春から冬ですからね」
「あの戦争からです」
 畑中さんはここでご自身のこともお話してくれた。
「もうです」
「今ですか」
「戦争に参加してです」
 第二次世界大戦、この戦争にというのだ。
「七十年が過ぎました」
「その間ですか」
「あっという間でした」
「それで、ですか」
「余計に思います」
「光陰矢の如しですか」
「あの時は日本も私もどうなるかと思いました」 
 遠い目をしてのお言葉だった、きっと今の畑中さんには終戦直後の荒廃した日本の姿が映っているのだと思った。
「果たして」
「それで、ですか」
「復興から発展に至り繁栄を迎え」
「今に至りますか」
「はい、その間は一瞬のことでした」
「それだけのこともですか」
「まさに。気付けば私も歳を取りました」 
 今度はご自身のお歳のことだった。
「九十を超えました、この歳まで働けるとは」
「思いませんでしたか」
「戦争では多くの人が死にましたし」 
「それで、ですか」
「私も何時死ぬかわかりませんでした」
 戦争に出ていると当然のことだ、日本も大勢の人が命を落とした
「先日お話した方が戦死された」
「そうしたこともですか」
「よくありました、そして当時は戦争がなくとも」 
 それでもというのだ。
「今以上に死が身近にありました」
「医学が進歩していなくてですね」
「そうです、結核に罹れば」
 それでというのだ。
「終わりでしたし梅毒でも」
「終わりでしたね」
「そうでした、子供もです」
「今以上にですね」
「すぐに死にました」
「そうした時代でしたね」
「シャボン玉の歌がありますね」 
 あの有名な歌の話もしてくれた。
「あれは子供を歌ったもので」
「風邪をひいたらですね」
「それで、です」
 もうそれでだった、戦前までは。
「終わりということがよくありました」
「はしかでもでしたね」
「よく亡くなりました」
「そうした時代だったんですね」
「ですから私もです」
「何時どうなるか、ですか」
「わかったものではなかったです、ですが」
 それでもというのだ。 
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