八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第二百七十話 神戸に戻ってその七
「今こうしてです」
「九十過ぎまで、ですか」
「行きています、まるで嘘の様です」
「昔は七十歳で、でしたね」
「古稀と言われました」
古来稀、もう七十歳でそうだったのだ。
「これが九十過ぎになりますと」
「凄いことで」
「私はそこまで生きられているので」
それでというのだ。
「非常に嬉しく思っています」
「そうなんですね」
「心から。妻も九十を過ぎています」
「奥さんもですね」
「あとどれだけ生きられるかわかりませんが」
それでもとだ、畑中さんは僕にお話してくれた。
「ですが」
「それでもですね」
「出来るだけ長く生かしてもらいたいものです」
「そう考えられていますか」
「魂はその生を全力で生きるべきです」
「死ぬまで、ですね」
「はい、それまでは」
まさにというのだ。
「ですから」
「それで、ですか」
「私も最後のその時まで」
「生きられるのですね」
「必死に、そう考えています。間違っても」
ここで畑中さんは苦いお顔になった、そうして僕にこう話してくれた。
「自殺はです」
「してはいけないですね」
「これまで多くの人を見てきました」
「自殺した人を」
「友人にも親しい人にも」
「自殺した人がいましたか」
「そうでした、敗戦の時も」
この時もというのだ。
「腹を切られた上官の方がおられました」
「国難に殉じて」
「そのことを聞いて私もと思いましたが」
「生きられたんですね」
「生きてあえて復興に生きようと」
「そう思われてですか」
「渡社生きる道を選びました」
そうされたというのだ。
「そして日本に戻り八条家に再びお仕えして」
「そうしてですか」
「今に至ります、また人が自殺すると残った人はどう思うか」
畑中さんは僕にこうしたお話もしてくれた。
「そのことも考えるべきです」
「残された家族や友達の人達がですね」
「これ以上無念なこともそうはないです」
「どうして自殺したか」
「それを止められなかったのか」
「そう思って」
「無念に思います」
これ以上はないまでにというのだ。
「私も機会があれば」
「自殺をですか」
「止めればと思いましたし自決しようとする方も」
「軍のですね」
「今思う時があります」
「止められたのか」
「その時はあまりにも強い決意を見てです」
それでというのだ。
「止められませんでしたが」
「それでもですか」
「後悔と共に思います」
「止められたら」
「あの方は何かを出来たのではないか」
「その様にですか」
「思います、ですがこうも思います」
終戦時自決して国難に殉じたその方についてというのだ。
「あの時その方だけでなく多くの方が国難に殉じました」
「敗戦と共に自決されましたね」
「その方々は死してです」
そうしてというのだ。
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