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八条学園騒動記

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第五百六十二話 劇の題目その二

「あいつは」
「愚かなのは事実だな」  
 ダンも否定しなかった。
「リア王もそうだが」
「そうだよな」
「自分の奥さんを信じられなかった」
「というかヤーゴの嘘にどんどん騙されてな」
「奥さんを疑って罵ってな」
「最後は殺したんだからな」
「奥さんを本当に愛していたが」
 ダンは暗い顔になって述べた。
「しかしだ」
「疑って憎んでな」
「そして殺した」
「それで殺した後に真相を知ったよな」
「そして自殺したな」
「本当に馬鹿だよ」
 洪童は心から嫌そうな顔であった、その顔で言うのだった。見ればダンも今は彼と同じ顔になっている。
「あんな馬鹿な奴いないだろ」
「愚か故の悲劇だな」
「一番愛する奥さんを信じられなかったんだからな」
「そうだな、だが愚かだからこそだ」
「いいのかよ」
「人間は皆愚かだ」
 ダンは洪童に俯いた顔で言った。
「疑って憎む」
「騙されてな」
「そうして愚かな行いに及ぶ」
「それは確かにあるな」
 今度は洪童が否定しなかった。
「本当に」
「そうだな」
「そしてか」
「それが人間だからな」
「お前はオセローを推すんだな」
「シェークスピアの悲劇の中でも名作だ」
 こう言い切った。
「だからだ」
「名作でもな」
 洪童もこのことは認めた。
 だがそれでもだった、彼はこうも言った。
「けれどな」
「あまりにも悲惨か」
「俺あの作品を読んだり観たりしていつも思うんだよ」
「オセローは愚かか」
「こいつ何でこんなに馬鹿なんだってな」
「誰もがそう思うな」
「奥さんを最後まで信じろってな、黒人とかな」 
 オセローはムーア人つまり黒人だ、この作品において何よりも重要なストーリーの要素の一つである。
「関係あるか」
「当時はかなり関係あったじゃない」
 洪童にパレアナが言う。
「そうでしょ」
「今と違ってか」
「今は皆混血してるけれど」
 パレアナは連合の話をした。
「昔はね」
「違ったな」
「だからね」
「黒人であることがか」
「差別の要因だったでしょ」
「皆混血していたら関係ないけれどな」
「だって黒人の血を引いて黒人を差別したら」
 これは黒人だけに限らないがパレアナはオセローが黒人であるのでそれで今はこう言っているのである。
「何なのよってなるから」
「そうだよな」
「けれど昔はね」
「混血も進んでいなくてか」
「オセローも差別されていたし」 
 それでというのだ。
「そのことからもね」
「奥さんを信じられなかったんだな」
「黒人の自分を愛する筈がないってね」
 心の底からだ。 
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