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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その43

 
前書き
その42の続き。 

 
自分の中でも結論が出て。
それでもまだ不服そうなサクラに、イノは少し水を向けた。
「私はまだナルトの事そんなに知らないけど、あの子、謝ったら許してくれると思うわよ?ちょっと接しただけですぐ分るくらい、優しいもの。あの子」
「うん。そう思う。でも、心を開いてはくれない!」
その途端に返された、サクラの悲痛な声に、イノも感じたナルトからの拒絶する空気を思い返す。
いつも穏やかな空気を絶やさなかったナルトからの、サクラが引き出した、冷え冷えとしたあの冷たい空気を。
サスケからも、常に感じていたあの空気を。
だからこそ、口籠った。
けれど、死の森でイノを友と呼んで、嬉しそうに笑ったナルトを思い出す。
その笑顔に気合いが入った。
そうして、駄々を捏ねてるサクラを一喝した。
「あったりまえでしょー?ナルトは木の葉の人間に、こんな所で一人で暮らさなきゃなんない境遇押し付けられてんのよ?私達を友達にしてくれただけでも御の字って奴よ!それに、アカデミーの頃のナルトに対するあんたの行動思い返してごらんなさいよ!なのに、あんたを友達にしてくれたナルトの慈悲深さにこっちの方が驚きよ!まあ、ナルトもナルトできっちり当たりの強いこと言ってあんたを挑発してやり返してたけどー。でも、ナルトとそんな関係だったあんたが、今すぐ自分をヒナタと同じ扱いにしろとか、ナルトに言える訳もないでしょー?あんたはナルトの友達としては、マイナスからのスタートなんだってしっかり自覚しなさい!あんただって、あの頃あんたにきつく当たってた子達、今でも苦手にしてんじゃないのよ!あんたが今言って、ナルトに不満に思ってる事は、あんたがあの子達と今すぐ私みたいな関係になれって言われてるようなもんよ?そんなの無理に決まってんでしょ?仲直りはしたけど、今でもあの子達避けてるあんたにさー。なのに、どんだけナルトに高望みしてんのよ、あんたは」
「ううー。それならイノはどうなのよ!」
一喝した途端、不満げに唸ったところは昔みたいに変わらなかったが、続いた言葉は今のサクラの物だった。
友達よりも、ライバルとして対等な立場を選んだサクラの。
だからこそ、敢えてイノはサクラを挑発し、胸を張る。
イノがそうしたいし、サクラがそれを望んでいるから。
「ふっふーん!実はナルトは、小さい頃から私の家のお得意様だったもんねー!あんたとは、ナルトと接してる時間が違うのよ!それはサスケ君も見てたしねー」
「ナルトのスリーマンセル仲間は私よ!?イノには負けないんだから!」
「言ったわねー!受けて立ってやるわよ!」
結局、イノの安い挑発に乗って負けん気を見せてきたサクラと、抱き締めあいながらいつものように睨みあい、そうしている事の馬鹿馬鹿しさに気付いて同時に噴出した。
笑って笑って、笑い疲れた時、サクラがやけに真剣な声でイノを呼んだ。
「ねえ、イノ」
「何?」
「中忍試験第一試験開始前に、サスケ君達と一緒に居たカブトって人の事、覚えてる?」
思いもよらない問いかけに、イノは思わず面食らった。
そうして少し記憶を探る。
「中忍試験第一試験開始前~?」
そうして、初めてイノ達と女だけで固まって、同性として談笑していたナルトが、サスケに呼ばれて離れていった後、釣られるように一緒に移動した先で、見知らぬ年上の木の葉の忍と何かやり取りしていた事を思い出す。
眼鏡をかけた、少し陰気そうな見た目の。
「名前までは思い出せないけど、そういえば私達の知らない木の葉の忍がいたわね。それがどうしたの?」
「うん。さっき、ナルトが、自分がこんな風になる原因は四代目が作ったって言ってたことを思い出して、ふと、気付いちゃったんだけど」
「何よ。何に気付いたのよ」
問いかけたイノは、その後、自分の息が止まるような衝撃を受けた。
「あの人、木の葉に入り込んだ大蛇丸のスパイかもしれない人で」
「ちょ、ちょちょちょちょっと待って、サクラ!」
何気なくサクラが口にしてきたとんでもない情報に、イノは動転する。
「なによ」
「何よじゃないわよー!何処情報よ、それー!」
言葉を遮られて不満そうにしているサクラに、感情的に詰め寄った。
捨て置く訳にはいかない情報だった。
スパイだなんて。
木の葉は忍びの里だけれど。
イノも、そういう噂を耳にする機会は、今まで何度かあったけれども。
そんな疑いのある人間に、ニアミスするほど間近に接していたのは、初めてだ。
動揺と、焦りを滲ませて追及したサクラは、何でもないように情報源をすんなりと白状してきた。
「サスケ君とナルトがそう中りを付けてたのよ」
「そ、そうなの…」
サクラの言葉に納得しつつも、イノは少し疑問に思った。
どうしてサスケとナルトがそんな中りをつけられたのか、それこそ気になるが、ナルト達はあの木の葉の伝説の三忍と繋がりがあるようだった。
もしかしたら、その兼ね合いだったのかもしれない。
大蛇丸自身も、抜け忍とはいえ、その伝説の三忍の一人なのだし。
そんな風にイノは自分を無理やり納得させた。
触らぬ神に祟りなし。
シカマルがイノに向かって良く言う言葉だが、イノもそれは実感している。
自分の手には負えない物を、自分から抱え込まない方が断然良いのだ。
さっき改めて自覚し直した通り、イノ達は、まだまだいろんな事に対して未熟すぎるから。
少し、悔しいけれど。
悔しいから、未熟な子供のままではいないつもりだけど。
そんな風に考えを巡らせていたイノを気にした風もなく、サクラは自分の話を続けていた。
「それで、その人がナルトにあの時確かこう尋ねてたの。ナルトと四代目火影と九尾は一体どんな関係なんだって」
「あ!思い出した!そのあと確かしきりにシカマルが考え込んでいたから覚えてるわー。確かナルトは拾い主と落とし物の関係とか言って笑いだして、更にそのままあっさりと里が嫌いだとか言いだして、すごくびっくりしたから覚えてる。今となっては納得だけどー」
サクラの話を聞いて、そうサクラに返したイノは、サクラの顔色が尋常じゃないほど青ざめている事に気が付いた。
「サクラ?」
「あのね、イノ。最後まで、私の話を聞いてくれる?」
「え?いいけど…」
思いつめたような表情のサクラに圧されるように、イノは承諾する。
その途端だった。
サクラの話は更に話題が飛んだ。
「大蛇丸が二回目に私達の所に来た時、ナルトと話していた大蛇丸はこう言ったの。ナルトの見た目は母親似だけど、中身は父親に似てるって」
疑問に思いつつ、そう言われてイノも思い出す。
「そうね。そしてナルトが大蛇丸と繋がってるのはダンゾウ様だろうって問い質し始めて、そういう察しの良さは父親似だって大蛇丸が言い出して…」
そしてそのままナルトが殺されそうになった事までを思い出して、イノはぞっと背筋を凍らせて口を噤んだ。
けれど、サクラの言わんとすることはそういう事ではないようだった。
「それで、その前に、ナルトは香燐さんに、香燐さんが木の葉でどんな扱いをされやすいか、詳しく説明していたの、覚えてる?」
「え?ええ…。確か、人、柱力、に。つい、て…」
話題があちこちに移動するサクラの話に疑問を持ちながら素直に話題を考えて、イノは唐突に理解する。
サクラが何を言いたいのかに気付いて、イノも顔を青ざめさせた。
思えばナルトは、少し、詳しすぎやしないだろうか。
秘匿されているはずの、人柱力の情報と尾獣について。
もし、それが、己自身の事だったからだとしたならば。
だから、ナルトは里から爪弾きにされていたのだとしたら。
けれど。
さっきまで、初めてだろう淡い恋心に戸惑って、それでもサスケに対する精一杯の気持ちを語っていたナルトの姿を思い出す。
相手がサスケというのが、今のイノにはまだ複雑な気持ちがあるけれども、一生懸命、自分の気持ちを口にしていたナルトの姿は、自分達と何も変わらない一人の女の子の物だった。
だから。
だけど。
青い顔をしたまま、サクラが促した結論を直視したくなくて、イノは声を潜めた。
「……サクラ。自分が何言ってるのか分かってるの?間違いじゃなかったとしても、冗談でしたじゃすまないわよ」
人柱力は、その身に尾獣を宿した忌避すべき恐ろしい化け物なのだから。
そんな疑いを、仲間に向かってかけるなど!
でも、イノも分かってしまう。
それなら、ナルトのこの境遇のおかしさに説明がついてしまう。
説明が、ついてしまうのだ。
上層部がナルトを人々の悪意に晒したままにしておく意味も。
ナルトに里人の悪意が集まる意味も。
ぞわり、と。
イノの全身に鳥肌がたった。
「でも、イノ。私、思い出しちゃったの」
これ以上は怖いから聞きたくない。
それがイノの本音だ。
でも、イノの前に居るのは他でもないサクラで、話題はついさっきまで一緒に居たナルトについてだ。
イノ達が追い詰めて、倒れさせてしまったのに、むしろ、気を使わせてしまった事を申し訳なさそうにしていたナルトの話だ。
次は遊びに誘うし、ナルトも誘えと言いつけたら、嬉しそうにひまわりみたいに笑ったナルトの事なのだ。
だからつい、意地を張った。
「な、何をよ!」
そうして、縋るように、途方に暮れた表情でイノを見ていたサクラは、意を決したように、青い顔のまま鬼気迫る真剣な表情で告げた。
「木の葉の、初代人柱力」
そう言われ、イノはひゅっと息を飲んだ。
木の葉の初代人柱力。
それは、初代火影の妻の、うずまきミトだ。
ナルトと同じ、うずまき一族の。
イノの背筋に更に悪寒が走った。
人柱力かもしれないナルトに対する本能的な恐怖が浮かぶ。
しかし、今日、改めて見つめ直したナルトは、かなり好感の持てるいい子だった。
イノはナルトが好きだと断言できる。
もっと仲良くなりたい。
だが。
そして、サクラは更に青い顔で混乱するイノに縋りながらこう続けた。
「それに、四代目の奥さん。確かうずまきクシナ様って。それに、四代目って、金髪碧眼で、いつも穏やかに笑ってて、頭が良くて、優しくて。忍びとしての才能に溢れた優秀な男の人だった、って…」
サクラの言葉が進む度に、混乱したままのイノの頭の中で、混乱しているからこそ、立て続けに並べられたサクラの言葉と、ナルトと四代目夫妻との相似が素直に浮かんでいく。
うずまき一族らしい赤い髪で、意外とけんかっ早くて口が悪い一面もあるが、それでもナルトは女の子らしくて繊細で、頭の回転が速く勉強熱心で、穏やかで、優しくて。
それに、青い目をしている。
そして、九尾が襲撃してきて、四代目が死んだ日が、四代目に拾われて、四代目から木の葉に託されたナルトの誕生日だ。
立て続けに並べ立てられた情報の巨大さに、くらりと眩暈を覚えつつ、サクラの言葉に呆けていたイノは、ふいに何故、ナルトがイノ達の身を案じ、きつく戒めたのかを悟った。
ナルトのこの環境は、上層部の意向とナルトは言っていた。
里の上層部はそれを知っているのだ。
そうして、ナルトの三代目に対する信頼と、三代目と対立する存在と、大蛇丸の前で出されたダンゾウの名。
確か、それは、先程も話題に出した、シカマルが気にしていた『根』に、深い関わりのある人間の名ではなかっただろうか?
イノの背筋に、ざっと冷たいものが走り抜けた。
「サ、サクラ!それ以上、言っちゃだめよ!口に、出さない方が、良いわ。それに、きっと、気のせいよ。だから、『勝手に動いちゃダメ』!」
イノのきつい制止の声に、不満げに眉を寄せたサクラに、イノは少し苛立って声を荒げた。
「何のためにナルトが私達を気遣って、なるべく情報を渡さないようにしてくれてたと思うのよ!まずは、情報収集よ!」
「情報収集って、どうやって…」
イノの指摘にはっとしたように目を見開いたサクラは、おずおずと疑問を口にした。
その疑問に、きっぱりとした態度で逆に問いかける。
イノ達も下忍とはいえ、忍の端くれなのだから、これくらい、自分でたどり着けなければならない。
「私達の身近に居て、ナルトの情報独り占めにしてるのは誰?」
「あ!」
現に、サクラは促せば気付いた。
そうしてイノは、もう一つ、気付く。
「それに、ナルトも言ってたじゃない!死の森で!自分の事はサスケ君に聞けって」
なるほどそれは有効だ。
秘密を持っているのならば尚更に。
あの時は、二人の仲を見せつけられているようで、ただただ面白くなかっただけだったが、こうしてナルトやサスケの事情の一端を掴んで、それぞれの事情を探ろうとし始めた今は、ナルトとサスケの周到さに閉口する。
そうしてナルトが、イノとサクラにうちは一族について、少しだけでも言及してくれた理由も分かった。
イノ達に相談するのに必要だったからだけじゃない。
既にサスケから、ナルトの判断で、サスケと、ひいてはうちはについて、話していいとの言質を取っていたからだ!!!!
あの時のやりとりはこういう事か!
シカマルの激高も無理はない。
狡猾と言い換えて良い、冷徹な忍の思考をイノはそこに感じ取る。
忍として、仲間の情報ほど、口が重くなるものはない。
相手を大切に思うならば猶更だ。
それに結局、ナルトはサスケにとっての肝心な部分は何も話していない。
イノ達でも調べれば分かる範囲の事しか言っていないと宣言していた。
ナルトが忍に向いてないなんて、とんでもない!
怖いくらいに、これはもう忍そのものではないか!
穏やかに微笑む普段のナルトとのあまりの落差に、イノはぞっと背筋を凍らせた。
サスケがナルトに目をかける理由の一つをそこにも見つける。
そうして、力不足を痛いほどに痛感した。
これは、イノとサクラの二人で当たるには厄介すぎる。
何せ、相手はタッグを組んでるナルトとあのサスケなのだから。
少し考え、イノはあっさりと決断した。
「時期的には悪いと思うけど、シカマルとチョウジにも協力してもらいましょ!どーせあいつ、本選出場なんてめんどうがって碌に修行もしてないに決まってんだから!私もパパにちょっと探りを入れておくわー」
とんでもないものを、引き当ててしまったかもしれないと、イノは思う。
もしも。
もしもそれが本当なら。
何故うちは一族はナルトを引き取ろうとして、皆殺しにされて。
なぜナルトはサスケと仲良くしていて。
そして、サスケがナルトに執着するのかに、全部全部筋が通って理由が付く。
ナルトが、自分の気持ちも、サスケの気持ちも、目を逸らして出来る限り見ようともしない事もだ。
でも、サスケの気持ちの変化だけは、きっとサスケにとっても予想外な事なのだろう。
ナルトの話から垣間見えるサスケの不器用すぎる行動からは、サスケの戸惑いが見えていたから。
でなければ、全ては策略だ。
ナルトを、うちはである自分に、サスケが縛り付ける為の。
そうではないと、イノは肌で感じているけれど。
だって、死の森での姿も。
その前の、ナルトの付き添いで、イノの家に客として訪れていた時も。
サスケはナルトを大切にしていた。
そして。
イノは今まで目を逸らしていた事実を、諦めと共に受け入れた。
そんな訳はないと。
同じ木の葉に住む仲間だからと、ずっと目を瞑って、逸らして来ていたけれど。
サスケも。
ナルトも。
二人とも、きっと里の人間が嫌いだ。
『木の葉』を、本気で疎んでいる。
それを認めざるを得ない。
クーデター。
そんな単語がイノの脳裏を過る。
でも、こうやって、ナルトの側から、ナルト達の話を聞いてしまった今となったら。
「嫌われてても、仕方ないのよ。私も、あんたも。木の葉の人間も。そういう事をずっとして来てたのよ。当たり前だからって。サスケ君と、ナルトに」
「うん。そうね」
同じものを、サクラもきっと感じている。
イノの言葉に頷くサクラの声には、沈んだ色が乗っている。
でも。
だけれど、なのだ。
「でも、ナルトは私達を友達だって言って、嬉しそうに笑ってた。サスケ君の死の森でのあの様子を見るに、サスケ君だって、ナルトが笑わなくなるような事は考えないし、ナルトにもさせないと思うわ」
「うん。そうよね。私もそう思う」
まだ少し胸に痛い事実を、自分の胸の痛みを無視して堂々と掲げる。
イノの抱える痛みと似た表情で、サクラがイノに同意した。
だからこそ、強気ないつもと同じように断言した。
「だから調べましょ!正直、どうしてナルトがあんなにちぐはぐな所があるのが疑問だったけど、こんな変な環境に置かれ続けてたら、そりゃおかしくもなるし、当然だわ!それと、サクラ。あんた、自分の言葉には本当に気をつけなさいよ。あんたちょっと人の気持ちを考えない無神経な所があるから、ナルトみたいな複雑な事情抱えてる繊細な子とは相性悪いわ。ナルトと本当に友達になりたいなら、重々気をつけなさい?今のあんた達の関係は、ナルトからの気遣いとの譲歩で成り立ってると、そう思うわよー?こんな大変な立場に置かれているナルトに、これ以上私達に気を遣わせてどうすんのよ!」
「うん……」
落ち込むサクラに、イノもちょっと言い過ぎたと反省する。
しかし、それは事実だ。
そして前回も今回も、サクラが人と揉めた原因はそういう所だ。
イノも、ナルトへの接し方は重々気を付けようと胸に刻む。
サクラのした失敗は、イノもしてしまう事なのかもしれないのだから。
それに。
「サスケ君への失敗を生かして、せめてナルトとは本当に友達になるのよ!ヒナタには負けちゃうかもしれないけど、ヒナタと同じくらい、ナルトにとって大事な友達にね!それくらいできなきゃ、サスケ君の事が好きなのに、何にも気付こうとも知ろうともしないで、せっせとサスケ君に嫌われるような事ばっかりしてきてた私達の恋心が可哀想でしょー?」
「うん。そうよね。うん、そうだわ。ナルトは、私の友達よ。あの子といると、楽しいもの」
そう言って、やっと笑ったサクラに、イノはほっと胸を撫で下ろす。
イノも、本当は、恐れを感じていない訳じゃない。
人柱力は化け物だと、そう教わって来たのだから。
イノとしては、見た目的にもあからさまになにか人と違う所が現れてしまって、それで一目で化け物と認定されて恐れられる事になるのだろうと、そう考えていたのだけれど。
でも。
仲良くなってみたナルトからは、全然嫌な物を感じない。
素直だし、健気だし、一生懸命人の気持ちを考えられる真面目な子だし、好感しか湧かなかった。
少し幼い情緒面も、この境遇と環境を思えば当然だと思うし、何より、そこから現れる仕草も行動も、素直に見てて微笑ましかったし、可愛いと思う。
それに、だって、サクラが気付いたことが本当なら。
ナルトの出自がそういう事なら。
きっと、ナルトの性格は、人格者だったという四代目火影に、ナルトは多分似ているのだろう。
そして忍としての才能も。
そう断じる理由が敵の言葉に因るのは癪だが、四代目候補だった大蛇丸が、ナルトの中身は父親似と判断した。
そうして、だからきっと、殺そうとした。
だって、四代目は、あんなに凄い威圧を放っていた大蛇丸を差し置き、火影になった、木の葉の英雄なのだ。
それに似ているナルトを恐れて、子供の内に消そうとしても、きっと全然おかしくない。
ならば、人柱力だのなんだのは、きっと関係なくならなくちゃいけないのだ。
そして、里を九尾から守ってくれた四代目の事を思うなら、その子供かもしれないナルトの事を、こんな目に合わせ続けていてはいけないのだ。
四代目に守られた木の葉の里の人間達は。
そして、その為には。
話の区切りがついた今がそろそろ頃合いと立ち上がりつつ、サクラに話しかけた。
今すぐには無理だけれど、ナルトを取り巻くこのおかしな環境を変える為の第一歩として。
「あ!そうだ、サクラ。今日、ナルトと甘栗甘に行ったときに思ったんだけどさー」
「え!!い、イノ。あんた、ナルトを甘栗甘に連れてっちゃったの!?」
「ふっふーん!こういうものは早い者勝ちよ~?」
驚愕としてやられたという表情を浮かべて座り込んでいるサクラに向かって手を差し伸べながら、イノは勝ち誇る。
「そうだけど。ヒナタならともかく、イノに先を越されるのはなんか釈然としないわ。で?なによ」
イノの手を借りて立ち上がりつつ、サクラが不満な気持ちを隠さず不平を述べてくる。
そうしてそれが、サクラの性格だ。
爪弾きにされ始めた頃からの。
イノは今更気にもならない。
それがサクラだと知っているから。
サスケを巡る突然のライバル宣言後のサクラの態度の豹変には、確かに驚かされはしたけれど。
でも、思い返せばサクラはもともとこうだった。
いじめられるようになって、委縮して、大人しくなって、イノの背中に隠れていたけれど。
ふっと小さく笑いながら、イノは確信する。
わりと性格の悪いサクラと仲良くなれたイノが、境遇の割には断然性格の良いナルトと仲良くなれない訳がない。
そして、サクラのフォローをイノがしてやれば、サクラだってナルトと仲良くなれるに決まっている。
それにサクラだって、あの頃よりは断然人の気持ちを察することが出来る様になっているし。
例え、ナルトが人柱力だったとしてもだ。
ナルトは人の気持ちが分からない子ではないし、大人しいヒナタと気難しいサスケとも仲良くやれている実績がある。
なら、イノが仲良くなれない理由はどこにもない。
「その時聞いちゃったんだけどさー。あの子、お菓子作りも趣味っぽいのよねー」
「え、そうなの?」
得られた確信を支えに、一歩抜きん出た優越感を隠しもせず、戸惑うサクラに嬉々として思い付いた腹案を打ち明けた。
「そうみたいなのよー。だからさー、中忍試験が終わったら、私達で手作りスイーツ持ち寄って、女子会しましょ-よ!死の森で振舞って貰えた料理の味からすると、ナルトの作るお菓子も相当期待できると思うのよねー」
イノの提案に、ぱちぱちと目を瞬いていたサクラは、直ぐに表情を明るくして乗ってきた。
「良いわね、それ!」
「でっしょー!?でも、私達がそんなナルトの作ったお菓子に劣る物を持ち寄るのは悔しいからさ、ナルトが中忍試験で手一杯な今のうちにお菓子作りの特訓しましょ!」
「そうね!」
にっこりと、出てきた結論に満足して笑いあって、くだらないおしゃべりを続けながら、イノはサクラと山を下って行った。
イノとサクラの家のある、木の葉の里に帰るために。 
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