| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

その44

 
前書き
アカデミー生活だってばよ!4後~5前
 

 
ミコトさんに呼ばれて夕飯を一緒にして、そのままお泊りしない時は、うちは家の人の送迎が、ミコトさんの言い付けで恒例になった頃でした。
フガクさんだと、もう殴られることは無いと思うけれど、緊張が取れずに警戒してしまうけれど、イタチさんの時はちょっと嬉しくて楽しみでした。
サスケ君が一緒の時もあったので。
で。
今日はイタチさんの日で、サスケ君は居ない日でした。
そういう日は、一言二言アカデミーでのサスケ君の様子を尋ねられ、私がそれに答えて、満足げなイタチさんと穏やかな時間を過ごすのが常態になってました。
今日も、言葉少なにサスケ君の様子を尋ねられ、いつものように腕白で天真爛漫なサスケ君の振る舞いを機嫌良く教えてあげていた時。
知らない人のチャクラの匂いがして、思わず口を噤んで警戒する。
けれど、チャクラの匂いからすると、うちはの人のようですし、ちょうど里とうちは一族の領域外に差し掛かって、後は山を登るだけなので、少し考えてイタチさんに申し出ました。
「イタチさん。どなたか一族の方がイタチさんに用があるみたいです。今日はここで別れましょう?送ってくれてありがとうございました」
いつものようにぺこりと頭を下げてお礼を言った時でした。
「まいったな。気配は完全に断っていた筈だったんだが…」
隠れて私達の様子を窺っていた人が、敵意の無い事を示すように、わざわざ物音を立てて瞬身してきた。
顔を出して困ったように小さく頬を掻く癖毛の男の人に、イタチさんが珍しくサスケ君のような声で名前を呼びました。
「シスイさん!」
思わずそんなイタチさんの様子と呼ばれた名前に目を瞬かせ、ついつい眼球の有無を確認してしまった。
その途端、ばっちりと、正面からうちはシスイと視線が合って、驚いて、思わず慌ててイタチさんの影に隠れた。
ついついイタチさんの服の裾に縋りつつ、ダンゾウに右目を奪われて殺される前の、生きて、無事でいるうちはシスイをじっと観察する。
その時だった。
じっと私を見つめたまま、うちはシスイはイタチさんに確認してきた。
「その子がうずまきナルトか」
「ええ」
あっさりと打ち解けた様子でイタチさんが肯定する。
面白そうに含み笑いながら、うちはシスイは大変複雑で微妙な評価を私に下してくれた。
「お前の弟に似ているな」
お前の弟。
この場に弟の居る人間はイタチさん一人。
つまり、イタチさんの弟に似ていると。
イタチさんの弟のサスケ君に。
この私が。
以前も下された覚えのある評価に、なんとも微妙な表情になっちゃうのは止められません。
「シスイさんもそう思いますか」
「ああ」
自分と同意見を貰えた事に、喜色と甘えを滲ませるイタチさんは、本当にまるでサスケ君のようで可愛らしい。
なので、ついつい黙っていられずに嘴を挟んでしまった。
「サスケ君に似てるのは、今のイタチさんだと思いますよ。いっつも可愛いサスケ君そっくりで、すっごく可愛いです。兄弟なんだなって実感しました」
その途端、その場には痛い程の沈黙が落ちた。
そして。
「ぶははははは!そうか、そうか。君の目にはそう見えるのか!わははははは!」
「ナルト君…」
シスイさんがお腹を抱えて大爆笑し、イタチさんが掌に顔を埋めて撃沈した。
そうして。
笑い過ぎて涙を滲ませながら、うちはシスイはこちらの心臓が止まる一言をあっさりと放ってきてくれました。
私の頭に手を伸ばしながら。
「お前の弟に似ていても、やっぱり女の子だな!良く見ている」
言い放たれた言葉の内容と、初対面の人間にくしゃくしゃと頭を撫でられる二重の衝撃に、思わず思考も体も硬直する。
その時だった。
「気付かれてましたか」
「まあな」
さらりと再び告げられたイタチさんの肯定に、思わずばっとイタチさんを凝視する。
そんな私に、うっすらと照れを滲ませたままのイタチさんが、ばつが悪そうに申告してきた。
「よく隠しているとは思うが、君の動きは女の子の物だ。何より、君は母さんの手伝いをする方が、俺やサスケと修行をするより好きだろう?俺もサスケも、母さんの手伝いよりも、修行の方が好きだ」
ぐうの音もでない理由で見抜かれた原因を告げられた私は、動揺して沈黙した。
ミコトさんだけじゃなく、イタチさんにも見抜かれちゃってるんだとしたら、そうしたら、サスケ君にも?
そんな動揺が顔に出ていたんだろう。
二人きりの時、ごく偶にしてくれるように、ふんわりと、優しく頭を撫でて、ほっと安心できる一言をイタチさんは告げてくれた。
「安心していい。サスケはまだ、君の事には気付いていない」
食い入る様に見つめ続ける私に、イタチさんは頷いてくれた。
だから、ちょっと、おじいちゃんやミコトさんにするみたいに甘えてみた。
「ナルトでいいです」
「え?」
「イタチさんも、僕の事、サスケ君みたいに呼んでくれてもいいかなって」
ぎゅっと服の裾を掴んで、上目遣いで顔色を窺ってみる。
その途端だった。
「シスイさん」
何故かイタチさんがうちはシスイを呼んだ。
「ん?」
にやにやと成り行きを見守るうちはシスイがイタチさんに応えた瞬間だった。
「助けてください」
うちはシスイに、イタチさんが助けを求めた。
途方にくれたイタチさんの声に、うちはシスイが何か答える前に、化け物の私が、調子に乗ってしまった事に気付いて、イタチさんから離れてすぐさまおねだりを取り下げた。
「ダメなら諦めます。無理を言ってごめんなさい」
でも、ちょっぴり悲しくて、じんわりと涙が滲みかける。
イタチさんと過ごすうちに、ちょっとだけ私のお兄ちゃんみたいだなとちょっと思っちゃってたので、調子に乗ってイタチさんに拒絶されたつけは大きかった。
困らせてしまうと分かっていても、涙を堪える事はかなり厳しかった。
じわじわと涙が込み上げて、決壊しそうになる。
「いやっ、無理じゃない!そうではなくて…」
「呼んでやれよ。イタチ『お兄ちゃん』。その子も望んでいる」
「シスイさん…」
必死に涙を堪えていると、イタチさんがうちはシスイとのやり取りの末に、意を決するように息を整えて、恐る恐る私の名前を呼んでくれた。
「ナル、ト」
はっとして顔をあげると、戸惑いと照れくささに顔を赤らめたイタチさんが確認してきてくれました。
「オレは、きっと、君の為に何もしてやることは出来ない。それでも、構わないだろうか?」
イタチさんの迷いと悩みと躊躇いが混じった問いかけに、ふんわりと笑みが零れてしまった。
イタチさんの私を気遣ってくれる優しい心が、私を笑顔にしてくれていた。
イタチさんはもう十分、私の為になる事をしてくれているのに。
「イタチさんは、もう、ちゃんと僕の為になる事、してくれてますよ。サスケ君と一緒に僕と遊んでくれるし、時々二人っきりでこうしてサスケ君の事を話す僕のお話聞いてくれるんです!ミコトさんと同じ!」
にこ、とイタチさんに笑いかけた瞬間だった。
「シスイさん」
再びイタチさんがうちはシスイを呼んだ。
「どうした、イタチ」
おもしろそうなうちはシスイがイタチさんに応える。
その途端だった。
「オレは、妹の可愛さも知ることが出来るようです」
じっと私を見つめたまま、イタチさんがそんな事を言ってくれた。
驚いて、びっくりして、同じようにイタチさんを見つめ返す。
うちはシスイのおもしろそうな同意の声が聞こえてきた。
「そのようだな」
私はうちは一族じゃないし、本当にイタチさんの妹でもないし、妹になれることもないけれど、そう言ってくれたイタチさんと、それを肯定してくれたうちはシスイの気持ちが嬉しかった。
そんなやりとりがとても嬉しくて、だから私は、二人の前で満面の笑みを浮かべてしまった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧