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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その42

 
前書き
木の葉の準備期間だってばよイノ視点。 

 
中忍試験をきっかけに距離を詰めたナルトが、自分を頼り訪ねて来て、元から思う所のあったイノは直ぐにピンときた。
きっとサスケとの間で何かあったのだと。
死の森での様子を見るに、サスケはナルトの事を好きなのだろうとしか思えないし、だから、イノは、サスケの事を諦めようと思っていた。
だって、あれほど楽し気にナルトに無遠慮に触れて、親しげな様子を隠しもせずにナルトを構う、今までにないサスケの姿を見せられてしまっては、もう、どうしようもないではないか。
今すぐに気持ちを切り替えるのは無理だけど。
だって、初恋だったのだ。
何だかんだ言っても、イノだって本当にサスケの事が好きだったのだ。
だから、ナルトに頼られたのは、気持ちに区切りをつけるいいきっかけになると思った。
ただ、ナルトとは長い付き合いとはいえ、親しくなり始めたばかりだったし、男として過ごしていたナルトの機微はまだ良く掴めていなかったから、本題に入る前の様子見として甘栗甘に連れ出して観察してみた。
その結果分かった事は、思ったよりもナルトは大人しく、従順で繊細な女らしい内面なのかもしれないという事だった。
そして人を良く見ていて、情に篤い。
穏やかで寛容なのも振りではないみたいだし、何より、涙もろい。
そんなナルトからすれば、イノやサクラのようなはっきりとした人間は苦手なのではないかとイノの脳裏を過った。
何せ、ナルトの親友は、あの内気で引っ込み思案でおどおどしがちなヒナタなのだし。
波長が合うなら似たところを持ってはいるのだろうと察しはした。
けれど、ナルトの話の内容が、ナルトのサスケに対する気持ちに言及する事になるのなら、問答無用でサクラと合流し、ナルトの話を二人で聞くと決めていた。
だって、失恋する気持ちを一人で何度も味わうのはイノだって嫌だ。
サスケの気持ちがナルトにあると分かっていても、目の前で、サスケとのあれこれを語られるのは辛い。
サスケと両想いだと報せるような内容ならばなおさらだ。
それに、どうせイノを頼ったのは、イノの親友でライバルで恋敵だった、ナルトと同じスリーマンセル仲間でもあるサクラとの仲立ちを頼みたいのだろうと当たりをつけていたし。
だから、ナルトの動揺にその臭いを見つけるや否や、問答無用でサクラと合流し、話し合いの場をナルトの家に移したのは後悔していないし、そしてそれで正解だった。
サクラの存在に委縮して怯えているように見えたナルトが、曲がりなりにもここまで深い事情を丁寧にイノとサクラに開襟してくれたのは、ここがナルトの家で、他人の目がないナルトのテリトリーだからこそだろう。
だから、戸惑うナルトをせっついて、里の外れのこの山のナルトの家に案内させたことに後悔はない。
後悔は、ないのだが。
「あー!もう!疲れた!どうしてナルトはこんな山の中に一人で住んでるのよ!里の中じゃなくて!信じらんないわ!あの子だって女の子なのに!」
里への道程への道のりの長さに、不満が過るのは否めない。
思わずイノの憤懣が口を吐いた時、今日初めて知った詳しいナルトの事情と境遇を思い出し、その理由すら悟ってしまってイノは口を噤んだ。
そんな事は決まっている。
里の大人たちの悪意から、寄る辺ない身の上の女であるナルトの身を護る為だ。
男とされていた事も、こうして人里離れた辺鄙な所に住んでいる事も。
悟ってしまったイノの胸に、苦いものが込み上げる。
代々続く忍の家に生まれた娘として、くノ一が被る、女としての危険を口を酸っぱくして諭され続けてきたイノには判る。
ナルトの置かれて居る環境は、異常だ。
それに、あからさまな里の上層部の悪意が透かし見える。
それと同時に、その上層部の決定と意向に、素直に従っている里の人間達の歪みもだ。
ナルトの境遇に色濃く纏いつく、今までちっとも見えていなかった、里の人間達の悪意をこんなにもはっきりと目の当たりにして、イノは気が狂いそうだった。
人間の身勝手さと醜さを、否でも直視させられて、吐き気がする。
今までなんだかんだと、ナルトとは長い付き合いだったというのに。
イノはそれに気付きもせず、気付こうともしていなかった。
なのにナルトはそれを怒りもせず、当然のように受け止めて、その上でなお、イノとサクラを友として遇し、二人の身を案じもしてくれていた。
そんなの、イノ達が勝てる訳もないとそう思う。
サクラの引き出した、ナルトが良くアカデミーでも浮かべていた皮肉気な表情の、悪意に塗れた、幸せな人間という形容が重く圧し掛かっていた。
そこを否定する余地は、こんなにもまざまざとナルトの境遇を見せつけられては、少しもない。
そうして、だからこそ、サスケは自分達を見ないと言ったナルトの言葉の正しさに、納得しか覚えられない。
サスケも、かつてはイノ達と同じ所に居た。
そこからサスケは転落したのも同じなのだ。
サスケだって人間だ。
当然、負の感情だって持っている。
イノ達の敗因は、そんな当たり前の事にも気付かず、サスケの前で無邪気に振舞えていた幼さだ。
同い年とは到底思えないほどの達観した落ち着きと視点の広さと思慮の深さと、そんな落ち着きを身につけざるを得なかっただろうナルトの境遇に気圧されてしまって言葉も出ない。
納得。
そう、納得しか出てこない。
そんなナルトの、堰を切ったように溢れ出してきたサスケの事だけを案じる言葉の数々に、サスケがナルトを選んだ本当の理由をイノは悟った。
辛い状況にある人間が、あそこまで親身に気遣われて、心が動かないなんてことは、絶対にない。
そうして、サスケの環境や境遇を良く知るナルトだからこその、細やかな気遣いを肌で感じていたサスケは、だからこそイノ達とナルトとの違いを、しみじみと感じていたに違いないのだ。
そうなれば、もう、後は坂を下り、転がるように、だ。
サスケが家族を失くし、一人になった時点で、イノ達の方がサスケにとっての対象外になったも同じような物だったのだ。
それに気付かず、サスケの傍に、サスケを慮り、細やかに気遣うナルトが居たのにも拘らず、サスケに強引に迫り続けた時点で敗北は決していた。
もう、お手上げ、だ。
完敗。
それしかない。
だって、イノ達の両親は、ちゃんと生きて傍に居て、今もイノ達をいろんな形で守ってくれているのだし、そんな事に気付かずにいられる『当たり前』を手にしているのだから。
しみじみと、ナルトが中忍試験第二試験終了前に、中忍の心得を記した掛け軸の前で呟いていた言葉がイノの身に染みた。
当たり前は壊れやすい。
上忍である父を持つイノにも、サスケやナルトの孤独な境遇は、明日の我が身だ。
けれど、仮にイノがそうなったと仮定しても、サスケやナルトの境遇にはまだ及ばない。
だって、父を失くしても、イノにはまだ母や一族の大人たちがいる。
ナルトの言うような、恵まれた立場に立ち続けてしまうだろう。
そうして、持てる者が持たざる者に行動を起こすには、慎重に接しないといけないのだ。
対象からの反感と、反発を、招くから。
忍としての授業の一環で教わった事が、今頃実感として身に染みる。
こんなこと、出来るならばこういう事で知りたくなどなかった。
けれど、知ってしまえば知らなかった頃には戻れない。
「あー。もう。納得するしかないわ。完敗よ」
言わずもがなな事に腹を立ててしまったイノは、そんなばつの悪さを誤魔化すように呟いた。
その時だった。
「そうね…」
イノの隣を歩いていたサクラから、酷く気落ちした声が漏れた。
照れからか、素直にサスケへの自分の気持ちを認めようとしないナルトを追い詰めすぎて、倒れかけさせてしまった事をきっかけに、イノとサクラはナルトの家を辞す事にした。
頑なに認めようとせず、緊張のあまりに気を遠くしたナルトの反応が気がかりと言えば気がかりだが、これだけ異常な環境下に置かれていては、ナルトの精神に深い影響を与えているのは想像に難くない。
イノが感じて忌避していたナルトの歪さも当然だ。
ナルトはそうやって自分の心を守っているのだろう。
そうして、甘栗甘でイノが感じ取ったように、ナルトは情の深い優しい人間だった。
優しすぎると言っていい。
忍には向いていない。
ヒナタにもチョウジにも感じた事を、イノはナルトにもそう感じた。
死の森で、イノ達の前でサスケが言い放った言葉に納得を覚えもした。
が、だ。
今は、イノが何もしてやれないだろうナルトよりも、隣を暗い面持ちで歩いているサクラへのフォローが先決だろう。
何を思ってかは知らないが、ナルトがイノ達を気遣って、必死に見せないようにしてくれていたナルトの気遣いを、無にさせる様な真似もしていた事だし。
あれもきっと、ナルトの心には負担だったに違いない。
イノは深い溜息を吐いて、存外強情なサクラに水を向けた。
「ねえ、サクラ。なんであんた、ナルトに喧嘩を売るようなあんなことを言ったの?」
サクラがつっかかって、そしてナルトが隠していた本音を引き出せたことは良かったとは思う。
けど、あれは、あんな風にナルトから無理やり引き出すようにしなくてもいい類のものだった。
だって。
冷静に考えたら解っていて当然の事で、イノだって今はきちんとそれを考えて行動するようになっていた事だったのだから。
むしろ、あんなことをナルトの口から言わせてしまった事を恥じるべきだ。
イノはそう思う。
その時だった。
「…悔しかったのよ」
「え?」
「私、波の国の任務に就く前に、ナルトに木の葉の人間は嫌いだから、基本的に仲良くする気はないって、はっきりそう言われたことがあるの」
「は!?」
サクラの語る事と、それでもサクラがナルトに友と遇されている事が繋がらなくて、疑問に思った。
「その前も散々手厳しい事言われ続けてたし、アカデミーの頃からあからさまに敵対するような態度取られてたし、そういう不満があったのは認めるわ」
詳しい事情を知らないイノには、ただ、サクラの話に耳を傾ける事しかできない。
「正直、サスケ君と仲の良いナルトにやっかみを感じてたし、アカデミーに居た頃は素直にそれをナルトにぶつけてた。だって、そうして良いと思ってたの。皆ナルトにそうしてたから!」
そう言って涙を零し始めたサクラに、イノは悟る。
サクラは、一時期里の女の子達に吊るし上げられ、爪弾きにされていた事がある。
それは、サクラは気付いていなかったけれど、サクラの性格的なものが原因だった。
サクラは一人っ子故に基本的に両親に甘やかされていたらしく、時に頭のいい自分を鼻にかけて人を格付けするような、酷くわがままで我の強い一面を、最悪のタイミングで皆の前で覗かせ続けて反感を買ってしまったのだ。
空気を察するとか、相手の機微を読む事を苦手としていただけとも言えるし、それは別にサクラだけが悪い訳ではない。
イノだって、自分がサクラと同じように我が強く、わがままな事は自覚している。
けれど、基本的に自分に素直なサクラは、自分の思った事やしたことを、相手がどう思うかを考えず、言ってしまったり行動に移してしまうような所があるし、確かにアカデミーに居た頃からサクラのナルトに対する態度は褒められたものではなかった。
ナルトにさり気なく手を貸されても、礼も言わずにナルトに対して罵倒をぶつけていたし。
見かねて何度かイノもサクラに苦言を呈したこともある。
けれど、サクラからそういう態度を取られる度に、本心の見えない綺麗な笑顔で、なかなか辛辣な言葉を、ナルトもサクラにぶつけていたので、結局、どっちもどっちと放置する事にしたのだけれど。
ナルトの場合、その辛辣な言葉も、よく考えればごく当たり前のまともな内容ばかりだったし。
サクラには良い薬だろうと思った事もある。
正直イノは、そんなサクラとナルトが同じ班で、あまつさえサスケがそこに居る事に不安を感じても居たのだ。
だって、ナルトとサスケは仲が良かった。
少なくとも、ナルトはサスケにとても懐いていたし、サスケもナルトを尊重して、特別に扱っていた。
だから、そんな二人に挟まれて、サクラがまた疎外感や引け目を感じてしまう事になるのではないかと少し心配していたのだ。
サクラは我の強さ故に負けず嫌いでもあったから。
同時に、吊るし上げられていた昔みたいにはならないだろうとも思っていた。
だって、その時は二人とも男だと思っていたし。
その事に安堵もしていた。
サクラは、本質的に同性とはあまり馬の合わない気の強い性格をしているし、付き合えるのはイノのようにサクラと似たタイプか、懐の深い人間くらいだろう。
だから、サクラの班に同性がいない事を安心もしたのだが。
イノの予感的中と言ったところか。
仲の良いサスケやナルトに、常々疎外感や引け目を感じていて、尚且つ、無意識に自分の下に見ていたナルトに、もともと敵愾心を抱いてもいたのだろう。
それが波の国で同性と知り、親近感で近づいたものの、ナルトを認めきれずに不満が爆発した。
そんな所だろう。
ナルトの話からイノが察したことも、ナルトのあの言葉の数々を引き出して聞くまで、サクラは感じていなかったし、気付いていなかった。
そして、自分の言葉で、ナルトが気を遠くするほど追い詰めてしまう事になるとは、夢にも思ってもみなかった。
それなのに、そんな風にナルトを通して、自分の嫌な部分をまざまざと見せつけられる結果になって、傷ついている。
イノにはそのように感じられた。
そしてイノの懸念は的中する。
「なのにナルトはサスケ君と仲が良くて。サスケ君は私を相手にしてくれないのに、ナルトにはそうでもなくて。波の国で過ごして少しは二人の仲間になれたと思ったし、ナルトとは友達にもなれたから、これで対等だと思ってた。ナルトは全然サスケ君の気持ちになんて気付いていなかったから、だから私が二人の力になってあげようって決めてたのに、ナルトはサスケ君への気持ちを自覚した癖に、肝心のサスケ君の気持ちには気付いてなくて。なのに、サスケ君は別の子を選ぶべきだとか言ってるナルトが腹立たしくて!そのくらいの気持ちなんだったら私がサスケ君を奪ってやるってそう思って!!」
「サクラ。あんた…」
泣きながら心境を吐露するサクラに、イノは思わず苦笑した。
あの頃から何度もサクラにかけた言葉を、立ち止まってしまって泣いているサクラを抱きしめながら送った。
「バッカねー。あんた、頭は良いんだから、ちゃんと人の話を聞いて、そう言った人の気持ちを考えなさいよ。それでナルトに正論で返り討ちにされてたら世話ないわよ?」
「だって!だって!!そんな事、ちっとも考えた事なんてなかったっ!私の気持ちが迷惑で、私の存在がサスケ君を傷つけちゃう事になるかもなんて、ちっとも思わなかった!ナルトが言った事なんて、今まで全然、これっぽっちも気づいてなかったし、考えてもみなかったの!だって!私っ!サスケ君が好きなだけでっ!私、別にっ、悪い事なんて何もしてないのに!サスケ君を好きだっただけなのに!なのに、なんで!なんでなのよおお!」
サクラの慟哭に、イノも胸が痛くなる。
そういう気持ちはイノにもある。
けど、サクラには見えないものが、まだ感じられない物が、代々忍の一族の家に生まれたイノには判るから。
「お腹が空いてて、食べ物を持ってない人にさ、目の前でこれ見よがしに両手いっぱいの食べ物を見せつけながら、飴玉一つだけなら分けてあげるーとかやったら、チョウジじゃなくても、誰だって頭に来て怒るでしょー?私やあんたや里の女の子たちは、皆、サスケ君にそういう事を気付かないうちに普段からしちゃってたのよ。サスケ君が好きだから。サスケ君に自分を好きになって欲しくて。なのにナルトは、サスケ君と同じかそれ以上にお腹が空いてておかしくないのに、サスケ君にも自分の分を分けてあげてたの!」
ナルトの、サスケに対する気遣いと接し方は、そういうことだ。
イノだって、少しはそれを感じないではなかった。
けれど、失ったものを見つめて思い詰めるより、未来に目を向けた方が断然良いと短絡的にそう考えて、イノが最初にサスケに纏わりつき始めたのだ。
本当は、そうし始めたあの時、複雑な表情をしたナルトから、イノは忠告を受けていた。
今は止めろ、と。
イノの行動は、サスケの為にはならないから、と。
それでもイノは自分の考えは間違っていないと思っていたし、ナルト自身、イノの言い分をある程度認めてくれてもいたようだった。
そうして最後に、複雑そうにしながら、それならせめて、サスケの反応をきちんと見ろと諭されて、ある日突然、イノもナルトが言うように、本気でサスケがイノを嫌がっていることに気付いたけれど、今更もう後には引けなかったし、他の女の子達もイノに便乗して、サスケに纏わりつくようになってしまっていた。
ナルトのあの様子では、イノ以外の子達にも、一人一人に行動を自粛して自重するように促してみては居たのだろう。
サスケと、一応はサスケを好きなイノ達の為に。
ナルトが溜め込んでいたあの鬱憤からすると、どれも実は結ばなかったようだが。
イノがサスケの反応に気付いてから、もの言いたげな、複雑そうな表情でサスケを囲む女子達を見つめているナルトにも気付いて、イノは忠告の礼と、現状のきっかけになった行動の反省と詫びを入れて、謝った事があった。
その時、ナルトはとても優しい表情で微笑んで、それはサスケに言えと促され、恥を忍んでサスケに謝り、行動を少しだけ是正した。
全部はイノには無理だから、本当に、少しだけ。
でも、イノの謝罪と反省と決意を黙って聞いてくれたサスケは、それから少しだけイノに対する当たりが柔らかくなったように感じられて、それでますますサスケにのめり込んでいったのだけど。
今思えば、そういえばその頃からナルトに当たりのきつい女子が増えていたし、サクラがナルトを面と向かって罵倒するようになったのも確かその頃だ。
今となっては後悔しかない。
イノが失恋するのも当然だろう。
でも、イノは今、決して一人ではないから。
「サスケ君がどっちに恩を感じるかなんて、そんなの考えなくても決まってるでしょー?あんたも私も、サスケ君みたいな人を好きになって、サスケ君から好きになってもらうには、全然子供過ぎたのよ。だって、あんたも私も、お父さんもお母さんも居なくなっちゃってるサスケ君の気持ちをちっとも判ってあげられないし、サスケ君をそんな風にした人を自分が必ず殺さなきゃならないって考えて、だから強くなろうとする気持ちなんて、ぜんぜんちっとも分かんないでしょう?それに、それを解る為に、自分のパパとママを誰かに殺してもらう事を願う事なんか、出来っこないでしょー?いい加減にそれを理解しなさいよ、デコリン!あんたの取柄は無駄に優秀なその頭の中身だけでしょーが?」
きつくサクラを抱きしめながら、イノは自分も涙を零しつつサクラを罵倒する。
いつものように、サクラが言い返してくるのを待ちながら。
「うるさいわよ、イノブタ!分かってるわよ、そんなこと!でも、どうしよう、イノ。私、ナルトを傷つけた。あの子、本当は、すっごく優しい良い子なの!なのに、私!ずっとずっとナルトの事傷付け続けてた!アカデミーの頃からずーっと!どうしよう!どうしよういのぉ~」
途方に暮れた子供のように大泣きしながら縋ってきたサクラの言葉に、もう一つイノは悟った。
何だかんだ言いつつも、サクラはナルトを気に入っているらしい。
分からなくもないと、イノも思う。
頭の回転が速く、しっかりと自己主張し、それでいて基本的に穏やかなナルトとは、サクラも気負わずに接する事ができるのだろう。
事情が事情だったからイライラもしたし、ヤキモキもしたが、イノだってナルトともっといろんな話をしたいと思った。
甘栗甘だけじゃなく、ナルトとするなら、誰かの家にお互いの手作りスイーツを持ち寄っての女子会なんかもいいかもしれない。
その時は、きっとナルトはヒナタに声をかけるだろうし、これを機にヒナタともっと誼を結ぶのもいいかもしれない。
お互い木の葉で名家とされる代々続く忍の家に生まれていても、木の葉の名家の中でも有数の権勢を誇る日向宗家のお嬢様で、大人しく、口数の少ない自己主張の薄いヒナタを、イノは苦手に感じなくはなかったのだけれど。
ナルトと過ごした時間を心地よく感じられたのなら、きっと、ヒナタともこれからはもっと仲良くできる。
そう思った。
それが叶うかどうかは中忍試験本選の結果次第ではあるけれど。
でも。
今は。
「…だから、人の忠告は素直に聞いとくべきなのよ!私の忠告無視したあんたの自業自得よ!これに懲りたら、人の話に耳を貸そうとしないあんたの強情さを少しは矯正しなさいよね!そこがあんたの良い所でもあるけどさ-」
「うん。うん!」
お互いに、山道の途中で縋り付き合いながらしゃがみ込み、初恋が叶わなかった悔しさと悲しさと、友達の力になれない悲哀を吐き出し続ける。
今はまだ、イノ達は子供だから。
誰からの物だろうと、忠告は、きちんと耳を傾けて聞くべきだ。
そこにはきちんと理由があるのだから。
サクラに向けていった言葉を、イノも自分の胸にもう一度刻む。
イノにも、身につまされるところが無いでもないから。
勿論、このままで終わるつもりは更々無い。
どんな結果になろうと、イノやサクラの思う事を否定される謂れはどこにもないのだから。
それだけは、確かで、唯一の結論だと、泣き崩れるサクラを抱き締めながら、イノは思った。 
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