魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep18過労死って言葉を知っているか?~to recieve training~
†††Sideルシリオン†††
“闇の書事件”を経て、俺とシャルは時空管理局に勤めることを決めた。そして俺、それにシャルとフェイトとなのはは、ミッドの陸士訓練学校で3ヵ月の速成コースを済ませ、彼女たちはそれぞれの希望のために学業と嘱託魔導師の仕事を頑張っている。
ちなみに俺は、海外での大学を卒業しているという設定を“界律”から受けているため、シャルと同じように学校に通うことなく、嘱託ではなく正式な局員として入局を果たしたわけだが・・・。
「お邪魔します」
「あぁ、よく来てくれたな。入ってくれ」
朝早くに一応の上司に当たるクロノの待つハラオウン邸へとやってきた俺はリビングに通されて、「リンディ艦長、おはようございます」と、ソファに座って寛いでいたリンディさんにも挨拶をする。
「おはよう、ルシリオン君。ゆっくり・・・とはいかないのよね?」
「はい、母さん。今日はミッド地上部隊への研修です」
俺の代わりにクロノがそう答えていると、ダイニングの方に居たエイミィが「大丈夫? ちゃんと休めてる?」お茶が注がれたコップを手に俺の体調を気遣いつつ、「どうぞ」コップを渡してくれた。
「ありがとう。体の方はまぁそこそこ。でもまさか、いろんな部署に研修として連れ回されるとは思いもしなかったよ」
俺の希望配属先は無限書庫の司書。しかし、司書は局員どころか一般人でもなれるということで、俺はクロノの薦めで本局のいろんな部署に研修という形で務め続けた。本局捜査部を始め、犯罪者などと魔法戦を繰り広げることが多い部署を、1ヵ所1ヵ月で回ってきた。というわけで、まだどの部署にも属していないことで、半年経って今なお候補生だ。
「地上本部・・・。大丈夫なの?」
コップに口を付けてお茶を飲んでいると、エイミィが不安そうにクロノにそう聞いた。俺はまだ本局にしか行ったことがないため、地上本部と聞いて不安がるエイミィ言葉に首を傾げる。リンディさんも心なしか困っているような気がして、俺は「何か問題でも?」と聞く。
「えっと、本局とミッド地上本部はあまり仲が良くないの。海――次元航行部は、担当する事件の頻度や危険性の高さを笠に着て優秀な魔導師を吸い上げていて、陸――地上の平和を蔑ろにしているというのが、ミッド地上本部の主張なの・・・」
「それで目の仇にされているんだ。だが、そう思っている者もいれば、その逆も居るというわけだ。今回、ルシルを研修として受け入れてくれる部隊の責任者は、その逆の局員らしい」
「らしい? クロノの知り合いじゃないのか?」
「いや。地上部隊の知人からの紹介だ。首都防衛隊第5隊、通称ゼスト隊。ルシル、君と同じ魔導師ランクS+の騎士であるゼスト・グランガイツ一等空尉が隊長を務める隊だ。首都防衛隊の中でも優秀な隊と聞く。先方もルシル、君の研修を歓迎している」
「歓迎されているなら心配は無いな」
マイナス、シングル、プラスの3つから成るSランクを有する魔導師の数はかなり少ないらしい。だからクロノも、俺を出来るだけ前線に置きたいようだが、俺だって少しは戦いから離れた生活を送りたい。
「(適材適所だということは理解できるが・・・)ところでクロノ。今後の俺の研修先は決まっていたりするのか?」
「ん? ああ。首都防衛隊の航空隊、それに地方の陸士隊などなど。君の本局での活躍は地上部隊にも伝わっているようだ、引く手数多だぞ」
「クロノ、過労死って言葉を知っているか? 俺、まだ10歳なんだが・・・」
「すまない。判ってはいるが、正直に言うと君の戦力は魅力的すぎるんだ。管理局は万年人手不足でね」
「ごめんなさいね、ルシリオン君。出来るだけあなたの希望を聞くけど、可能な限りいろんな部署で経験を積んでほしいの。まだまだ子供のあなたに酷な事をさせているとは判っているのだけど・・・」
「ルシル君、局内でどんな風に評価されてるか知ってる? 最年少の天才魔導師、だよ」
この半年で研修してきた部署での評価からそんな風に言われているそうだ。まぁ天才と言われるのは悪くない気分だ。そこで驕っては単なる愚か者だが、そんな失態を犯すほど俺も若くない。
「お喋りもそろそろ切り上げだな。ルシル、陸士隊の制服に着替えてくれ」
「ああ、判った」
「ルシリオン君、こっちの部屋で着替えてきて」
リンディさんに案内されたのは、リンディさんの部屋だった。化粧品の香りが薄っすらとだがする。そこで俺は制服に着替えて、「お待たせです」リビングに戻った。
「では母さん、エイミィ、いってきます」
「いってきます」
「「いってらっしゃい!」」
そういうわけで、俺の今月の研修先はミッドチルダの首都クラナガンの平和を護る首都防衛隊となり、早速クロノと共にハラオウン邸のトランスポートからアースラ経由で本局のトランスポートホールへと転移した。
「さて。首都中央次元港行きの船が停泊する乗り場が合流場所だ。こっちだ、付いて来てくれ」
クロノの案内で本局とミッドを繋ぐ民間次元港へと向かうんだが、「っ!?」ぞわっと悪寒が奔ったから足を止める。クロノが数歩先を行った後、俺に振り返って「どうした?」と聞いてきたが、それに答えている余裕が俺には無かった。
(来る。・・・この感じ、彼女が・・・来る!)
タッタッタ!と廊下を走る音がフェードインしてきた。音の出所の方へと目を、顔を、体を向けていく中、視界に1人の少女の姿を入れる。灰色のセミロングの髪を結うことなく流し、翠色の瞳は真っ直ぐ俺を見ていた。
「ルシル~~~~♪」
「セレス・カローラ執務官・・・!」
そう、彼女こそが俺の天敵。顔を合わせるたびに俺をハグしてこようとする。それは今回も同じことのようで、すでに両腕を広げてハグの体勢に入っていた。ああもう、避けるには遅すぎる突進力。俺は成す術なく「ぐぇ!」飛び付きからのハグを食らった。そして間髪いれずに上半身を撫で、頬に頬ずりしてきた。
「~~~~っ!!?」
変な声を出しそうになって慌てて口を両手で塞ぐ。セレス執務官はそんな俺の様子が面白い用で、「陸士隊服姿も可愛いな~♪」と頭まで撫で始めた。ちくしょう、なんて力だ、抜け出せない。
「カローラ執務官!」
「やあ、ハラオウン執務官、こんにちは。ルシルを連れて来てくれてありがとう♪」
「いえ、別にあなたのために連れて来たわけでは・・・。と、とにかく、僕とルシルは待ち合わせがあるので、失礼します」
クロノの言葉に俺は何度も強く頷いた。するとセレス執務官は「あ、そうなんだ。それは失敬」と俺から離れてくれて、俺はそそくさとクロノを盾にするべく背後に隠れる。
「では、そういうわけで僕たちはこれで」
俺とクロノはセレス執務官に小さく頭を下げてから次元港へと改めて向かうんだが、後ろから彼女が付いて来た。ジーっと見つめられてるのが判る。怖い・・・。
「陸士隊の制服ということは、今回の研修は地上部隊なのね・・・?」
「ええ、まあ。首都防衛隊に1ヵ月です」
セレス執務官はどこで聞きつけるのか、本局内にある部署での研修の時には必ずと言っていいほどに俺に会いに来ていた。だからシャルやフェイトやなのは、はやてら八神家とも知り合いになってしまっている。
「そっか~。・・・ねえ、ルシルぅ? あなた、あたしの執務官補佐にならない? あなたほどの逸材なんていないもの。それに・・・」
最後はボソボソと呟き声で、しかも俺たち背後に居るということで口の動きは見えなかったが、俺にはこう聞こえた。
――この灰色の世界に、ちょっとでも色を添えたいですし――
灰色とは何を指しているのかは判らないが、どこか物悲しそうな声色だった。だから俺はチラッと振り向いて見たんだが、セレス執務官に表情に陰りは無く、ニヤニヤと今まさに俺を抱き締めようとしていた。
「「・・・・」」
俺に向かって両腕を伸ばそうとしていたセレス執務官は、俺のジトっとした目を見て「えへへ。今日はこれで退散! またね♪」と大手を振って、彼女は走り去っていった。そんな彼女を見送った俺は、「疲れた・・・」強張っていた体を弛緩させた。
「悪い人ではないんだが・・・、ルシルにとっては天敵か」
「ああ。少し苦手だ」
2人して苦笑いしつつ、ようやく次元港に到着。俺はグランガイツ一尉の姿を知らないため、クロノが頼りになるんだが、クロノが誰がそうなのかを言う前に俺はすぐに一尉を見つけることが出来た。かなりの大男で、佇まいだけで強いと判るレベル。あの人じゃなかったらビックリだ。
「グランガイツ一尉、お待たせしました。次元航行部所属、クロノ・ハラオウン執務官です」
「ルシリオン・セインテスト・フォン・フライハイト候補生です。お世話になります!」
「ミッドチルダ地上本部首都防衛隊所属、ゼスト・グランガイツ一等空尉だ。・・・フライハイトでいいか?」
一尉と敬礼し合って自己紹介したんだが、俺の呼び方について迷っているようだから「セインテストでお願いします」と答えた。シュゼルヴァロードではなくフライハイトのなったのも、もう半年も前だ。ちなみにセインテスト呼びを推したのは、シャルと被らないためだ。
「判った、セインテスト。ではハラオウン執務官、これから1ヵ月間、セインテストをお預かりします」
「はい、お願いします。ルシル、頑張ってきてくれ」
「ああ。いってくる」
ここでクロノと別れて、俺は一尉と共に次元船に乗り込む。1ヵ月の間、ミッドの局員宿舎で寝泊りすることになっているため、着替えや貴重品などを入れたスポーツバッグを座席の上にある収納棚に入れようとするんだが、思いのほか身長が低い所為で入れられない。恨めしい、この低身長。
「貸しなさい。俺が入れよう」
「ありがとうございます」
さて。一尉とは隣同士の席なんだが、会話が無いからとても静か。だから俺も一尉に倣ってイヤホンを使ってニュースを観る。そんな無言な時間が1時間半と続き、ようやくミッドの次元港に到着。一尉にスポーツバッグを降ろしてもらい、それを肩に提げてから一尉の後に付いて船を降り、
「エントランスに俺の部下が迎えに来ている。そのまま宿舎に行きたいのだが、すまんがこれから警邏の仕事なのだ。荷物はそのままで1度地上本部へ行き、そこから仕事に参加してもらいたい」
「あ、はい、判りました。自分はそれで構いません」
中央次元港の第2エントランスの大きなロビーまで来ると、女性の声で「隊長!」と発せられた。一尉の向かう先には2人の女性が敬礼して待っていた。
「ああ、待たせたな。セインテスト、この2人が第5隊の分隊長を務める・・・」
「クイント・ナカジマ准陸尉です」
「同じく、メガーヌ・アルピーノ准陸尉です」
「お世話になります。候補生、ルシリオン・セインテスト・フォン・フライハイトです!」
俺への自己紹介と敬礼に、こちらも自己紹介と敬礼を返した。それにしてもナカジマ。日本風な苗字だな。そんな疑問を頭の片隅に残しつつ、挨拶もそこそこに俺たちは次元港を出、陸士隊に制式採用されているという公用車(ランドクルーザーみたいなSUV車だな)の前にまで移動した。
「セインテスト君。トランクに入れるから荷物を貸してくれる?」
「あ、お願いします、ナカジマ准尉」
ナカジマ准尉にバッグを預け、運転席にアルピーノ准尉、助手席にナカジマ准尉、後部座席に俺と一尉が乗り込む。本局の住宅街からして察してはいたが、ミッドの町並みも日本の都会と似たようなものだった。ハッキリとした違いと言えば、日本のビルより高い建物があるくらいか。
「ところで隊長。セインテスト君、どの分隊に置きますか? 決めてなかったらうちの分隊にください」
「あ、ずるい、クイント! 隊長、私の分隊にください! セインテスト君の魔法と、私のブースト魔法を合わせれば、それはもうきっと・・・すごいことになると思うので!」
「近接の私に中遠距離のセインテスト君! 綺麗な布陣! よくない?」
「ううん、私と組んだ方がいいと思う!」
アルピーノ准尉とナカジマ准尉が、俺を自分の分隊に入れたいと言い合う。そんな2人に一尉が「落ち着け。1ヵ月あるんだ、ちゃんと各分隊に回すつもりだ」と言った。
「セインテスト。第5隊は4つの分隊からなっている。俺の第1分隊、ナカジマの第2分隊、アルピーノの第3分隊、本部で待機しているビリー・スタッグ准陸尉の第4分隊。各分隊を1週間。それで1ヵ月だ。それで構わんか?」
「はい、それで問題ないです」
一尉にそう返すと、今度は「最初はどこの分隊ですか?」という話に。赤信号で停車した車で、運転席のアルピーノ准尉と助手席のナカジマ准尉がじーっと睨み合う。一尉も一尉で「そうだな・・・」2人を止めることなく思考に耽る。
信号が青に変わり車が再発進したところで、通信が入ったことを知らせるコール音が車内で鳴り響いた。ナカジマ准尉が「はい。こちらナカジマ」と応じた。
『こちら地上本部、スタッグです。うちの管轄区にて強盗傷害事件が3件、大手銀行立てこもりが1件と発生です』
1度にそういった連絡を聞くと呆けてしまうということが判った。だが、一尉たちはそれが日常だとでも言うように無言。スタッグ准尉から送られてきた資料をモニターで確認した一尉は、「よし」と一言。
「スタッグ分隊はA5区、ナカジマ分隊はC13区、アルピーノはD10の強盗犯を追え。俺の分隊はB2区の銀行立てこもりに対処する。セインテスト、最初と最後の週でちょうど7日、俺の分隊で研修をしてもらう」
「「『了解!』」」
「了解です、お世話になります!」
そういうわけで俺は一尉の分隊に同行することになり、立てこもりが起きているというB2区へと向かうことになった。立てこもりの現場は中央次元港に近いということもあり、俺と一尉はすぐに現場入りをすることが出来た。現場はすでに地域警邏隊や、万が一に備えての救急隊が待機状態だった。
「隊長!」
「状況は?」
現場には武装隊の制式バリアジャケットを着用している局員3人が、一尉と俺の元に集まった。彼らが第1分隊員のようだ。そんな3人に一尉が俺のことを紹介し、俺も名前だけの自己紹介をした。
「銀行強盗。目的は金か?」
「場所は銀行ですが、目的はそうではないようです。店内の防犯カメラが破壊される前に容疑者たちを確認できました。広域指名手配を受けているウッチェッロ・ミグラトーレファミリアの構成員が1名、あとは前科者が4名の計5名です」
「あの渡り鳥か。管理外世界を拠点にしている連中が、管理世界、しかもミッド首都で堂々と立てこもり。珍しいを通り越して異常だな」
「はい。それで、人質は職員と客を合わせて13名。強盗犯はデバイスと質量兵器で武装している模様です。すでにカメラで店内を確認できないので、今の状況がどうなっているか判りません」
一尉たちの話を聞きながら、俺は銀行強盗という犯罪にちょっとしたガッカリ感を覚えていた。魔法文明が発達した管理世界に、銀行強盗とか前時代的な犯罪が起こるとは思いたくなかったのかもしれない。発生しても魔法技術でこんな大事にならないものだと・・・。まぁ俺個人のつまらない期待だったわけだ。
「連中の要求は?」
「お決まりのものですよ。人質の安全と引き換えに、自分たちが逃げるための車両と時間を用意しろ、です」
「そして、こちらが本命でしょうが、以前逮捕されたウッチェッロ・ミグラトーレファミリアの構成員の釈放です」
「狙撃しようにもシャッターが閉められてしまっていることで出来ませんし」
「店内の様子だけでも確認できれば、突入できるんですが」
「交渉人の方に説得してもらっていますが、連中は聞く耳を持ちません」
「30分ごとに人質を殺すとも言っています。その20分まであと5分もありません」
「急がなければ」
あくまで研修の身である俺は口を出さずに黙って銀行を見つめる。だが、解決策が見つからず、その間にマスコミや野次馬などが現場に現れ始めた。これで店内の立てこもり犯に、外の様子が見られてしまう可能性が増えたわけだ。店内にもテレビモニターくらいはあるだろうしな。生放送が放送されているはずだ。
「せめて店内の様子だけでも判ればいいんだが・・・」
「一尉。自分の魔法の中にサーチャーがあります。ステルス性能もあるので気付かれずに店内に潜入できるかと・・・」
これ以上の時間の浪費は出来ないと判断して、俺からそう提案する。一尉たちの視線が俺に集まる。一尉は即「判った、頼む」と言ってくれた。候補生だから口出しするなとかの文句より先に、そう判断してくれたのは助かる。
「了解。マスコミのカメラに映らない場所で発動させます」
一尉たちの元から少し離れてカメラに映らない場所で、魔力を雷撃系に変換。
「発見せよ汝の聖眼」
小指の第一関節ほどの大きさな魔力球を7基と生成。360度カメラという機能を持ち、映像を俺の頭の中に送ることが出来る。手の平の上でクルクルと円を作って回っているサーチャーを「ジャッジメント」解き放つ。
「お待たせしました。映像、モニターに出します」
一尉たちと合流した俺は、外部表示することも出来るようにしておいたサーチャーの映像をモニターに映し出した。一尉が「割と鮮明に映るのだな」と感心してくれた。モニターには、店内のドアや窓の前に人質を並べて、突入し辛くしている様子が映し出されている。
「面倒な配置ですね。どうしても人質の安全を確保できません」
「セインテスト。何か手はあるか?」
「あ、はい。許可を頂ければ、連中を今すぐにでも制圧できます」
「「「えっ!?」」」
「ほう。その手段は?」
サーチャーを雷撃系の魔力で発動した理由を伝える。術式を解除して魔力へと戻る際、放電が行われる。それで相手をスタンさせてしまえばいい。驚きの顔を見せる一尉たちだが、モニターの中では驚いていられない状況が起きていた。立てこもり犯が拳銃を人質に向け始めたのだ。
「やれ、セインテスト!」
「了解!」
サーチャーを解除すると同時に魔力が放電しながら霧散し、立てこもり犯5人が声にならない悲鳴を上げながら感電、床に倒れた。連中はビクンビクンと痙攣している。いいザマだ。
「これ、大丈夫なのか?」
「軽めのスタンガンほどの電圧なので死にはしませんよ」
この半年で、俺は前々から試行錯誤していた魔術と魔法の切り替えを習得できた。もうシャルみたいに魔術を魔法の術式に変換する必要はなくなったわけだ。だからその方法をシャルにも伝えたんだが・・・。
――私はこのままでいいよ。界律の守護神になったら魔術なんて使わないだろうし。今の私は魔術師じゃなくて魔導師だもんね――
ま、そういうわけで、今の一撃は魔術でありながら魔法と同じように非殺傷設定になっていることで殺してはいない。
残りのサーチャーで立てこもり犯の制圧を終えたことを確認したことで、一尉が「よし、突入!」指示を出したことで俺と分隊員は、一尉に続いて出入り口のシャッターをこじ開ける。
「と、突入です! 首都防衛隊が突入しました!」
レポーターの声を背に、店内に突入した俺たちは気絶している立てこもり犯を確保。そして人質を順次店の外へと送っていく。立てこもり犯や人質全員が無傷で解決したこの銀行立てこもり事件は、その日のニュースで有名になった。
こうして俺の首都防衛隊第5隊での研修、その初日の事件は終わったわけだが・・・。
「おい、クロノ! 宿舎に俺の部屋が用意されていないんだが!?」
『なに? いやそんなまさか・・・』
地上本部の首都防衛隊オフィスで、今回の事件の報告書を書いているところでナカジマ准尉から聞かれた、今日はどこに泊まるの?という質問に、宿舎だと答えた俺は部屋の確認をした。そこで判明した予約が取れていないという事実。
『エイミィ。ちゃんと1ヵ月予約で部屋を取っておいてくれたよな?』
『え、私? えーっと・・・あー・・・う~~ん・・・』
『いや、もういい。・・・すまない、ルシル。どこかに空きの宿舎がないかを調べてみる』
ミッドから海鳴市への通勤は、最速で1時間半くらいか。世の中にはもっと長い時間を掛けて通学・通勤をする人もいるから、それくらいで文句を垂れるわけにはいかないが・・・。
「あ、待って待って。そういうことならセインテスト君、うちに来ない?」
「『え?』」
まさかのナカジマ准尉からの提案に、俺とクロノは同時に呆けた。
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