魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep17管理局に入ろうよ~Those girls wish~
†††Sideなのは†††
“闇の書”事件解決から1週間後の1月1日――元日。私たちはみんなで初詣に来てます。メンバーは私、フェイトちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんの4人。アルフさんはフェイトちゃん家のお手伝いで居なくて、はやてちゃん達は本局で検査や面接などがあるということで、今日は来られなかった。すごく残念。
「遅いな~。シャルちゃんとルシル君。何してるんだろ・・・?」
あとはシャルちゃんと、シャルちゃんが無理矢理にでも連れてくるって言ってたルシル君の2人なんだけど、約束の時間になっても姿を見せない。携帯電話で時刻を確認しても、やっぱり15分の遅刻だった。
「ちょっと騒がしいわね。何かあったのかしら?」
「何か・・・可愛い、とか聞こえてるね」
アリサちゃんとすずかちゃんが向いている場所に私たちも目を向ける。そこに広がっている人だかりは、なんだかすごいかも。まるで芸能人の出待ちみたい。モデルさんとか女優さんとか来てるのかな・・・。
「あ、いたいた! ごめ~ん! ルシルの準備に手間取って遅くなっちゃったよ!」
人だかりの壁を掻き分けて現れたのはシャルちゃん。そんなシャルちゃんが連れてるのは、すごく可愛い女の子。
「(ん、あれ? 銀髪? 蒼い目と紅い目? ちょっと待って。いやいやいや、もしかして・・・)ルシル君・・・?」
「お待たせ! どう? これ見ての感想は?」
「くっそ。こんな屈辱・・・久しぶりだ・・・」
今のルシル君の格好を見たら、10人中10人が女の子だって言うと思う。その綺麗な長い銀髪は、真紅のリボンで結ったツーサイドアップで、歩くたびに揺れてる。体を包んでいるのは、膝下まである黒いケープ付のコートだ。
「「「か、可愛い❤」」」
「プ、フフフ、アハハハハハハ! ちょっ、アハハハ、似合いすぎでしょ!?」
私とフェイトちゃんとすずかちゃんは、ルシル君のその可愛い格好に惚れ惚れ中。アリサちゃんはツボに嵌ったのか、お腹を押さえながら笑い続けている。
「だから! こうなることが嫌だったから、契約を切ろうとしたんだ!!」
「は~い、ルシルちゃん。今はそんな言葉遣いは禁止~」
ルシル君の頭を撫でながら微笑むシャルちゃん。何か今のルシル君を見てると、「男の子に・・・負けた」妙な敗北感でいっぱいになった。でもルシル君は男の子だから、やっぱり可愛いなんて言われたくないよね。以前男の子は、格好いい、という言葉の方が嬉しいって誰かに聞いたから、きっとルシル君もそのはずだ。はずなんだけど・・・。ごめん、やっぱり可愛いよ、ルシル君。
「いや~、いい仕事したわね、シャル。でも今度は黒じゃなくて白でも攻めて行きたいわ♪」
「え? う~ん、ルシルの銀髪って黒だから栄えるんだけど。白か・・・よし!」
「よし! じゃ・・・なぁぁぁ~~~~~い!!」
神社に轟くルシル君の絶叫。あぁごめんね、ルシル君。やっぱり私じゃ止められないよ。
「ル、ルシルっ。その・・・可愛いよ、すごく!」
「っ!!」
「うわぁっ、ダメだよ、フェイトちゃん!」
「むぐ・・・?」
私は急いでフェイトちゃんの口を塞ぐけど、もう完全に今の聞こえているかも。ルシル君は俯いて震えているし。フェイトちゃんもフェイトちゃんで首を傾げてるし。どうしよう・・・。
「・・・フェイト。男にとって、可愛いとは褒め言葉じゃないんだ」
「え? そうなの? でも本当に可愛いと思うんだけど」
私がフェイトちゃんの口から手を離した瞬間、フェイトちゃんは再度爆弾を投下した。もうダメだ。今のは確実にルシル君に大ダメージを与えたかもしれないよ。それを見ていたすずかちゃんが、「えっとえっと・・」何とかフォローしようと必死になってる。でも何も浮かばなかったのか「ごめんなさい・・・」戦線から離脱した。頑張ったよ、すずかちゃん。ヘコんじゃダメだよ。
「(わ、私が何とかしないと)えっと・・・ルシル君、もう着替えよう? ね?」
「「ええーーー」」
シャルちゃんとアリサちゃんが抗議の声を上げるけど、でもこれ以上はさすがにルシル君が気の毒だ。止められらないなんて言っていられないよ。
「そ、そうだよ。ルシル君、着替えとか持ってたら着替えてきてもいいんだよ?」
「うん。シャルちゃん達は、私たちが何とかするから」
「すずか、なのは・・・ありがとう!」
「「「可愛い❤」」」
「っ! し・・・し・・・死んでやるぅぅーーーーっ!!」
私とすずかちゃんの言葉がそんなに嬉しかったのか、すごい笑顔でお礼を言ったルシル君。その笑顔が本当に可愛くて、つい私とすずかちゃんとフェイトちゃんは、可愛い、ってまた言ってしまった。ルシル君は叫びながらどこかへと走り去って、声を掛けてくる男の子たちを片っ端から沈めていっている。だって今の笑顔は反則だよルシル君。
「あ~あ、行っちゃった。少し冷却時間も要ることだと思うし放っておこう」
「「「ええーー!?」」」
ルシル君をあんなのにした張本人であるシャルちゃんがルシル君を放置宣言。私とフェイトちゃんとすずかちゃんはそれに驚愕。走り去った原因をつくった私たちが言えることじゃないけど、それは酷いよシャルちゃん。
「捜しに行って見つけたら着替え中でした、ていうのはイヤでしょ? もし着替えを見られたら、今度こそルシル・・・・死ぬかも?」
「そうそう。ルシルが帰ってくるまで待ってましょ♪」
そう言うシャルちゃんとアリサちゃん。私たちはそれに従うしかなさそうだ。私たちは空いているベンチに座って、ルシル君を待つことにした。
「そういえばシャルちゃん。シャルちゃんって3年生の間だけの留学・・・なんだよね?」
「うん」
すずかちゃんがそう聞くと、シャルちゃんはちょっと俯いて小さく頷いて応えた。シャルちゃんは1年間の海外留学生として、高町家にホームステイに来た。それがもう終わろうとしているのがすごく悲しい。
「残念よね~。シャルって、あたしと良いコンビだったのに」
「確かに最凶コンビだったよね、シャルとアリサ」
「フェイト、今、なにか変なこと言わなかった?」
「ううん! 別に何も!」
こうしてシャルちゃんと話せる時間も残り少ないんだ。ユーノ君から、ルシル君も無限書庫の司書に誘われてるって話を聞いた。だけど迷ってるみたいで、返事はまだしてないって聞いてる。それだけじゃなくて、シャルちゃんを管理局に入れたくないって言ってたみたい。そうなったらシャルちゃんやルシル君とはもう会えなくなっちゃう。一生の別れにはならないと思うけど、それでも逢える機会が少なくなるのは確かだ。
「でも寂しくなっちゃうね。シャルちゃんが居るとすごく楽しいのに」
「ありがとう、すずか。でも実はそれに関してある考えがあるんだ」
「「「「考え?」」」」
私たちが同時に聞き返す。それに関して、ということは、このまま海鳴市に残れるのかな・・・。
「まぁルシルが許してくれないかもしれないから確定ってわけじゃないけど。そこのところは何とかするしかないかな、というか何とかする」
「はぁ? 何でルシルの許可が必要なわけ? どう見ても、あんたの方がルシルより立場が上じゃない」
「う~ん、まぁ人間時はそうなんだけどね。語るに語れないわけがあると言いますか」
そう言ってはぐらかすシャルちゃん。やっぱり2人の間には、私たちの知らない何かがあるのかもしれない。私やフェイトちゃんが出会う前からの知り合いだってことだし。
「でもそれが本当に出来たら、シャルもルシルもずっとこの街にいられるんだよね? だったら管理局にも一緒に入れるようになるのかな・・・?」
「私は海鳴市に残れるかもだけど、ルシルはどうだろう? 家族のいないノルウェーに帰って独り寂しく生きてくかもね」
「「え?」」
アリサちゃんとすずかちゃんが固まった。あ、そういえばルシル君には家族がいないって教えてなかったけ?
「アリサちゃん、すずかちゃん。ルシル君の家族の人たちはもういないんだ。私たちと会う前から一人暮らしだったんだって」
「そう・・・なんだ」
「だから家事が上手なわけね」
そう、ルシル君の異常な家事能力の高さはそこから来ているみたいなんだ。どれだけの時間を独りで過ごしたのかは聞けなかったけど、それはきっと大変なこと。
「それと管理局入りは・・・さすがに判らないかな。でも私は入るつもりだよ。なのは達とこれからも一緒にいたいから」
「シャルちゃん」
「まぁ今からでも準備をしておこうかな。まずは私の家族をドイツから海鳴市に呼ぶことにする」
シャルちゃんの家族かぁ。ホームステイ初日のシャルちゃんの様子からして、何か嫌なイメージがあるけど。時々連絡を取ってたみたいだし、きっと大丈夫だと思う。
それからちょっとして、男の子風の服に着替えたルシル君が戻ってきた。その顔は羞恥と疲労の色がいっぱいでした。ごめんね、女装させる前に助けてあげられなくて。
こうして私たちは無事初詣を終えて、アリサちゃんのお家にお邪魔して楽しく過ごしました。
†††Sideなのは⇒フェイト†††
高町家、月村家、バニングス家、ハラオウン家(クロノは欠席だった)の四家合同の大旅行から帰っての2日後、冬休み最後の日。いま私となのはは喫茶翠屋から、ハラオウン家のマンションへと向かっている最中だ。ルシルとシャルは2人だけで話があるって言って、後から追いかけるとのことだ。たぶん“あの事”についてのことだと思う。
「Entschuldigung」
私となのはの前から1人の女性が手を振って歩いてきた。年はエイミィくらいで、シグナムのような髪型をした外国の人だ。正直困った。なんて言ってるのか解からない。
「Guten tag. Darf ich Sie etwas fragen?」
「え~と、その・・・『フェイトちゃん、この人なんて言ってるか解かる?』」
『ごめん、なのは。私も解からない。シグナム達が使ってる言葉に似てるけど・・・』
私たちが困っているのを見たその女の人が「Verzeihung」と言ったあと・・・
「ごめんなさい。つい私の国の言葉で話しかけて。少し聞きたいことがあるのだけど・・・ちょこっと時間を取らせてもらってもいいかな?」
「「え?」」
その女の人は日本語で話しかけてきた。よかった。これなら解かるよ。なのはと一緒にホッと安堵していると「あれ? もしかして日本語、間違ってる・・・?」その女の人は小首を傾げて、肩に提げてるバッグから日本語会話って表紙に書かれた本を取り出した。
「いえ! 解からない言葉から急に日本語になったので・・・その・・・」
「ちょっと驚いただけで・・・」
「そっか! よかったよ!」
本をバッグに戻しながらその女の人が笑うと、うさぎの耳のように立っているリボンがゆらゆらと揺れた。なのはが「あの、聞きたいことがあるってことですけど・・・?」恐る恐る聞くと、女の人は「そうなの」少し困ったような顔をして話してくれた。
「うん。実はね、道が判らなくて困っていたんだ。海鳴市藤見町の――」
なのはは女の人が持っている手帳のようなものを見せてもらっている。すると何か驚いたような表情になった。どうやら知っている住所みたいだ。
「ここ、私の家なんですけど・・・」
「そうなの!? あ、もしかして、高町・・・なのは、ちゃん? で、君がフェイト・テスタロッサちゃん・・・かな?」
「「はい。そうですが・・・」」
「Fruet mich, Sie kennenzulernen!! Mein Name ist Chelsea Freiheit. Ich freue mich, Sie zu sehen!!」
また意味の解からない言葉攻めを受けた。でもなんだか嬉しさで興奮しているみたい。私となのはが困惑の表情を浮かべていると、「ごめんね!」その女の人はまた謝った。
「興奮すると私の国の言葉が出るみたい。さっきは“はじめまして。チェルシー・フライハイトです。会えて嬉しいよ”って意味なの」
「フライハイトって、まさか・・・!」
「シャルのご家族の方・・・ですか?」
「Ja! チェルシー・フライハイトです。いつも妹がお世話になっています!」
†††Sideフェイト⇒ルシリオン†††
「いや~旅行でも大活躍だったね、ルシル♪」
「うっさい、バカ女。また女装なんて命令出したら、無理矢理にでも英雄の居館に叩き込むぞ」
旅行先でも俺を女装させて見世物にした悪魔コンビ、シャルとアリサ。いつか何らかの方法で逆襲してやる。覚えているがいい、フフフフ。
「それで、話って何だ?」
「え? うん。えっと・・・ね。う~んと・・・」
シャルにしては歯切れが悪すぎる。それからもハラオウン邸に着くまで「え~と、ね」そんなことを繰り返してばかりだった。結局、シャルは何も言わないまま、俺たちはハラオウン家に着いてしまった。
「「お邪魔します」」
『どうぞどうぞ入って! シャルちゃん、来てもらったよ!』
インターフォンを押すと、エイミィの声が届く。それにしても来てもらった?とはどういうことだ。誰か客人でもいるのだろうか。シャルに視線を向けると、シャルは俺の視線から逃れるように玄関の扉を開けて入った。俺も続いてハラオウン邸の玄関に入る。
(ん?・・・知らない、いや・・・どこかで聞いたような声・・・)
複数の話し声が耳に届く。判るのはフェイトとなのは、それにエイミィ。あとクロノは今日が休みらしいから居るんだな。シャルは俺へと一瞬だけ視線を向けて、リビングへと続くドアを開けた。リビングへと入ると、そこで俺は信じられない光景を目にした。
「・・・なっ!? は、花の姫君、だと・・・!?」
フェイト達と話し込んでいる奴は、見間違いでは済まされない存在。かつての強敵、第九騎士、“花の姫君”の二つ名を持つ、チェルシー・グリート・アルファリオだった。俺の困惑一色の声を聞き、みんなが「花の姫君・・・?」と首を傾げている。俺が臨戦態勢に入ろうとした時・・・
「久しぶり、姉さん」
「うん! 久しぶりだね、シャル!」
「あ、あ、あ、姉ぇぇぇぇーーーーっ!?」
シャルが“花の姫君”を姉と呼び、側まで歩いていった。待て待て、どういうことだ、これ。ここまでパニックを起こすことなんて、そうそうなかったぞ。数千年の契約の中でもトップ10入りするほどのレベルだ。
「久しぶり、ルシル! 妹がお世話になってるね、いつもありがとね!」
“花の姫君”が俺に手を振りながら微笑んでいる。お前、そんなキャラじゃなかったよな、大戦時。というか話が見えない。
「ルシル君って、シャルちゃんの家で少し過ごしてたって聞いたよ」
「良かったよ。ルシルがずっと孤独の中に居たんじゃないって判って」
なのはとフェイトがそう言うが、俺は全然知らないぞ、そんな事実。“花の姫君”がこの世界に居ることすらたった今、こうして知ったくらいだ。
『おい、シャル。どういうことだこれ?』
1人だけ真剣に警戒しているのも馬鹿らしくなり構えを解く。俺は“花の姫君”の存在を以前から知っていたであろうシャルをリンクで問い質す。
『これが話したかったこと、かな。前に言ったよね。私には家族が用意されてるって。あぁ安心して、チェルシーには大戦の記憶はないし、もちろん魔術も使えないから。あと父も母もいるけど、誰だか知ったら驚くよ。あまりにイメージが違いすぎて』
リンクを通して説明を求めた結果がこれだ。シャルの言う父も母もどうせ星騎士シュテルン・リッターの誰かなんだろう。年から考えて、第一か第二が父、母は誰になるだろうか? 若い女性ばっかりだったしな。
『父が第一騎士“風の騎士公オペル”。母は第三騎士“鮮血姫シリア”。どう驚いた?』
『・・・風の騎士公は何となく解かるが、あの鮮血姫が母親? 出来の悪い家族ごっこみたいだな』
実際に家族ごっこだろう。騎士公オペル、鮮血姫シリア、花の姫君チェルシー。与えられた役割と記憶を持つ、世界が用意した人形。何故ここに居るのか気になって仕方ないが、フェイト達が俺の様子に戸惑っているため、まずは「えっと、久しぶりです。チェルシーさん」当たり障りのない挨拶。すると“花の姫君”が抱きついてきた。
「チェルシーさん、なんて堅いな~♪ お姉ちゃんって呼んでいいんだよ、ルシル♪」
「はい?」
「突然ですがルシル。あなたをフライハイト家の養子にします」
「ふーん、俺を養子にねぇ~・・・は?・・・はぁぁぁぁーーーッ!?」
本当に突然とんでもないことを言い出したシャル。俺をフライハイトの子供にしてどうするつもりだ。今日1日だけでどれだけ俺は驚けばいいのだろうか。これ以上の血圧上昇は勘弁してもらいたい。
「だって、いつまでもリンディ艦長の家でお世話になるわけにはいかないでしょ?」
「僕や艦長は、それについては気にしていないが」
「う~ん、私もこのままルシル君を住まわせても良いと思ったんだけどねぇ」
クロノとエイミィが俺に向けてそう言う。いや、しかしシャルの言うとおりなのは間違いない。このままハラオウン家に世話になり続けるのはさすがに控えたい。用意されている家に帰るのも1つの手だが、今更独りというのは少し辛いかもしれない。
「もう必要な書類は用意してあるの。姉さん」
「ん。これだよシャル」
チェルシーは膝の上に置いていたバッグから何枚かの書類を出してテーブルの上に置く。ここまで俺に悟られずに用意しているとは、これは“界律”の力を借りているな。
「あとはルシルのサイン待ち。すぐに決めなくてもいい。ううん、本当はすぐ決めてほしい」
シャルが強い視線を向けてくる。何をそこまで必死なのかは理解できないが、フライハイト家の人間としてドイツに行くのも悪くはないな。
「・・・判った。フライハイトの名、頂戴する」
「そんな簡単に決めていいのか、ルシル?」
「ああ。このままだろうとフライハイト家に入ろうと大差はない。これ以上、ハラオウン家に世話になるわけにはいかないからな。だったら考える必要はないと思う」
俺は差し出された書類にサインをした。フェイトの表情が陰ったのが判った。別に永遠の別れになるわけでもなし。そんなに悲しそうな顔をするな。シャルと家族になるだけなら大した問題じゃない。
「よろしくね、弟君♪」
“花の姫君”が俺の頭を撫でた。頭を撫でられるなんて随分と久しぶりな気がした。そして彼女は書類をしまい、意気揚々とハラオウン邸を後にした。剣神シャルロッテと花の姫君チェルシーが俺の姉妹になり、風の騎士公オペルが父に、鮮血姫シリアが母親になる。全員、かつての宿敵だ。だというのに、まさか家族となってしまうとは。本当に世の中判らないものだな。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
ルシルは確かに書類にサインをした。それをしっかり確認した私は心の中でガッツポーズを決める。
「よし! これで、これからもルシルと一緒に海鳴市で暮らせるよ!!」
「「「おおおおーーーっ!!」」」
私の計画通りに事が進み、なのはとフェイト、アルフから拍手が巻き起こる。そんな中、今の状況が理解できていないっぽいルシルは困惑しているようだ。
「ちょっと待て! 何の話だそれ!?」
「あれ? 言ってなかったっけ? フライハイト家は3月から、ここ海鳴市に引っ越します♪」
「言ってねぇぇぇぇーーーーッ!」
すでに“界律”から住所変更の許可はもらっている。というより“闇の書”の一件が終わった時点で、能力以外の制限は取り払われていることは確認した。だから海鳴市に住もうが管理局に入ろうが何も文句は言われないのだ。のだ、のだ♪
「ルシルには悪いけどもう決めたから。あと4月から正式に聖祥小学校へ入ることにしたの。だからこのまま海鳴市に住むことになる。黙って決めて本当にごめんなさい。でも、ルシルになんて言われても私は今の生活を続けたい。というか続けてやるっ」
「はぁ・・・。で、話はそれだけか?」
「・・・それとね、ルシル。私、管理局に入りたい」
これが最も重要な件だ。このためにずっと計画を練っていたんだから。しばらくの沈黙のあと、ルシルが顔を上げて静かに口を開いた。
「別にいいんじゃないか? こんな騙すようなことしなくても、最初から言ってくれれば良かったじゃないか」
「・・・え? いいの? 本当に?」
予想外の事態だ。もう少し反対を受けると思っていた。そのためにルシルを説得するための手段をいろいろと用意したんだから。それなのにこのアッサリさ。あまりにアッサリしすぎて逆に疑いたくなる。
「ああ。本当にいいよ」
そう言って、ルシルは微笑みながら私の頭を撫でた。どうやら本当に認めてくれたようだ。これで私の管理局入りが決定した。
「ルシル、以前にも言ったとおり、君にも管理局に入ってもらいたいんだが?」
「あのっ! 私もルシルと一緒に頑張りたいです!」
「わ、私もみんなで頑張りたいです!」
クロノに続いてなのは達もルシルを管理局に誘う。その真剣な表情を見て、私も真正面からお願いしてみる。
「ルシル、一緒にやろう?」
「・・・そうだな。海鳴市に住むことになるんなら、それもいいかもな。シャル達が学校に行っている間は暇だろうし。局入りした方が時間潰しがし易いな。それに、無限書庫には惹かれていたから司書として働くのも悪くはないか」
これもまたあっさりと言うルシル。半ば投げ遣りな感じがするけど、ルシルも管理局に入るなら面白くなりそうだ。
「本当か、ルシル?」
「ああ。3月まではこの家で、それからは管理局で世話になるぞ、クロノ執務官」
「わぁ! やったね、フェイトちゃん!」
「うんっ!」
「早速艦長に連絡しておかないとね!!」
あれよあれよと事が進んでいく。こうして私とルシルの管理局入局が決まった。
「そういえば俺とシャル、どっちが上だ?」
「上って?」
「兄か姉」
ルシルの何気ない疑問。家族になったことで生まれた1つの問題。私かルシル、どっちが上になるか。そんなもん決まってるじゃん。
「やっぱり私でしょ」
「君を姉と呼べと? 冗談」
「えっと、2人の誕生日っていつなの?」
私とルシルの会話を聞いていたなのはが提示した解決法。
「「4月12日」」
「シャルとルシルって同じ誕生日・・・なんだ」
4月12日は今回の契約に限ってのものだ。生前の私は11月生まれで、ルシルは2月生まれ。どうして今回は別の誕生日が用意されたのかは判らないけど、そう決まってるなら別にそれでも構わないかな。
それから、どちらが上になるか真剣に口論した。その問題は、これから何年経っても解決しなかった、激しく馬鹿馬鹿しい問題だった。
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