真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
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第92話 司馬の猟犬
前書き
この話では司馬季達サイドでお送りします。
私は司馬季達、姉上の命令で司馬家の手練を50人率いて、北郷と逃亡兵を捜索中だ。
揚羽姉上の推測では距離的に北郷達は并州に逃げ込もうとしているはず。
私もそれには同感だ。
北郷は兎に角、冀州を出ることを優先するはず。
そうなった場合、安喜県から近い州は幽州、その次に并州。
幽州に逃げた場合、義兄上の盟友、公孫賛がいるので、逃げ切れる訳がない。
北郷が仮に義兄上と公孫賛が盟友と知らずとも、公孫賛が冀州入りしたとき、劉玄徳に会ったと言っていたそうだから、義兄上との関係を知っている可能性は高い。
仮に全く知らずとも、幽州の方は公孫賛に任せればいいと思う。
なら、私は并州で北郷を捜索するべきだ。
私と司馬家の手練50人が森の中を潜行していると、3里位先に光を確認したので、周囲に気をつけ光がある場所へ物音を出さないように進んだ。
「北郷、お前の所為だ! 俺達はお尋ね者じゃないか!」
「別に、俺は付いてきてくれなんて言ってないぞ」
「逃げなくちゃ行けなくなったのは、お前があの官吏を犯そうとしたからだろうが! お前の所為で、桃香様の下にはもう戻れないんだぞ」
「じゃあ、戻ればいいだろうが! そしたら、劉ヨウの野郎に首を刎ねられるぞ」
光の正体は焚き火のようで、近づくにつれ男達の口喧嘩をしていた。
その話の内容に「北郷」という言葉を確認した私は、この先に逃亡兵がいると確信した。
私は部下に目配せと手で合図を出し、何時でも戦闘に移行できるように指示を出し、戦闘準備が整ったのを確認した後、逃亡兵の前に姿を出した。
「こんなところで仲間割れなんてお目出度いわね」
北郷は私を確認すると、周囲に気を配っていたが、暫くすると安心して、私を挑戦的な目付きで見ていました。
「脅かしやがって。女1人でこんな処で何してんだ」
北郷は嫌らしい目付きで私を舐め回すような視線を送ってきた。
こいつ、本当に盛ることしか頭にないのかしら……。
「私は司馬季達。大人しく縛につけば、公正な裁きを受けさせてあげるわ」
私は上から目線で北郷達に言った。
「ふざけるな! 何で俺が捕まらなくちゃいけない。……司馬季達と言ったな。ということは司馬仲達の姉か妹だな。この俺をあんな野郎ばかりのむさ苦しい場所で働かせやがって。毎日、毎日、石ばかり運ばされてどんなにキツかったと思うんだ」
北郷は私の名を聞くと、憎悪に満ちた表情で私を睨みつけました。
自分のやったことを棚に上げて、義兄上と揚羽姉上を恨むのは筋違いもいい。
「三食白米と副菜の食事があって、寝る処も雨漏りしなくて、そこらの農民よりましな生活だと思うわよ」
「うるせえ、うるせえんだよ! 俺があんな飯食えるか!」
北郷の言葉に逃亡兵達は白けた表情を彼に向けていた。
「調度いい。お前を犯して憂さを晴らしてやるぜ!」
北郷は何か思いついた表情をすると、不快感を覚える笑みを浮かべた。
確認するまでもなく、北郷は屑だったわね。
でも、周囲を囲まれていることも気づかず、自分が優位と思い込んでいるなんて滑稽ね。
「もう嫌だ! 北郷、お前の言うことなんか聞けるか! 俺は賊になるために義勇軍に入ったんじゃない」
逃亡者の一人が声を上げると、それに釣られるように、10人の逃亡者が北郷に剣を向けた。
「お前等、その人数でどうやって戦うんだ。その女を会わせても11人、こっちは21人だぞ。くくっ、くく、今からでも遅くないぞ。一緒に楽しもうぜ」
北郷は歯向かった兵士達に下卑た笑みを浮かべ言いました。
「う、うるせえ! お前なんかとこのまま行動したら、俺たちは山賊か盗賊が関の山。北郷、お前を殺して、劉将軍に助命を願い出てやる」
10人の兵士は北郷の誘いに乗ることなく、剣を更に深く構えた。
「お前等……。後悔しても遅いぞ」
北郷は優越感に浸っている表情をしていた。
「殺れ」
私は北郷の下品な表情が見る絶えず、怜悧な瞳を北郷達に向けると右手を上げ、戦闘開始の合図を出した。
「な、何……」
私の部下は闇夜より現れると、あっという間に北郷を除く全ての逃亡者を斬殺した。
北郷に抵抗した10人には悪いけど、北郷を生かすことに決定した以上、目撃者は生かしておけない。
「ひ、卑怯だぞ!」
北郷が自分の周りでもの言わぬ死体になった逃亡兵を狼狽した表情で見ていた。
「ふふ、安心しなさい。北郷、お前を見逃してやるわ……」
私は満面の笑顔で言いました。
「ほ、本当か!」
北郷は安堵の表情をしつつ、周囲で剣を構える私の部下をチラチラと見ていた。
「ただし、条件があるわ」
私は無表情で口元だけ笑みを浮かべた。
「条件って何なんだよ……」
北郷は私の笑みに不気味さを感じたのかたじろいでいた。
「ふふ、お前の右目を貰うとしようか? 義兄上にも体面が立つ」
私は口から出任せを言うと、部下に目配せをし、北郷を押さえつけさせた。
「はは、冗談だろ? や、やめろよ……」
北郷は私の部下に押さえつけられながら、怯えた表情をした。
「片目で命が助かるなら安いものでしょ」
私は酷薄な笑みを浮かべ北郷を見た。
「や、やめろ、止めてくれ------!」
北郷は声高に叫んだが、私は彼の懇願を無視して、彼の右目を情け容赦なく抉りだした。
「ギャア------! 痛でぇええ------!」
北郷は右目を抉り出された痛みで転げ回っていた。
私は北郷の目玉を捨て、懐から布を出し、血を拭き取るとそれを捨てた。
北郷が痛みに苦しむ姿を四半刻ほど眺めていた。
「ぜ……絶対許さねえ……。お前も、劉ヨウも必ず殺してやる!」
北郷は肩で息をしながら、私に憎悪に満ちた視線を向け、痛みで震えた声で怨嗟の言葉を吐いた。
「くくっ……。やれるものならやって御覧なさい。何の力も持たないお前に何ができるのか楽しみにしているわ。どうせ、劉玄徳を頼るくらいしか能がないんじゃない」
私は胸の前で腕組みをし、態と北郷を小馬鹿にするように言った。
「どいつも、こいつも、俺のことを馬鹿にしやがって!」
北郷は更に興奮したように怒りを表情に表すと、彼は自身の剣を拾い、西の方角に走り去っていった。
私は北郷が走りさった先をずっと凝視していた。
「真悠様、北郷を見逃してよろしかったのですか?」
部下の1人、王克が私に言った。
「揚羽姉上の指示だから良いのよ。姉上は表向きは北郷を始末しろと言ったけど、どうしようもない屑なら見逃せと言ったわ」
私は王克を見て、薄い笑みを浮かべ、また、北郷の去った方角を見た。
「揚羽様が本当にそのようなことを仰ったのですか? このことが劉将軍のお耳に入ったら大問題ですぞ」
王克は慌てた表情で言いました。
「このことを知っているのは私とお前達だから大丈夫。北郷が口を割っても、私の名が出ても、姉上の名は出ないわ」
「それが問題ではありませんか? 劉将軍の真悠様への心証を害し、あなた様を遠ざける可能性がございます」
「王克、あなたは想い違いしているわよ。もし、そのような事態になれば、姉上は自身の命令で行わせたと告白するはず。今回の件で義兄上が姉上に死罪を下したとしても、姉上は黙ってその罪を甘んじて受けるつもりでいる」
「揚羽様がそのようなことを仰ったのですか!」
王克は青ざめた表情で言った。
「ふふ、あの揚羽姉上が話す訳無いでしょ。揚羽姉上は義兄上に真の英雄になって欲しいと思もっているのよ。だから、情に流された判断がどのような結果を招くかを知って欲しい。義兄上は暗愚ではない。きっと、分かって下さるわ」
「北郷の粗暴さを目の当たりにしましたが、あの者はこの先の逃亡で必ず非道を行いますぞ」
王克は険しい表情で言った。
「だから、良いんでしょ。北郷が非道を行えば行うほど、義兄上は固く決心されると思うわ」
私は自信に満ちた表情で、漆黒の森の木々の狭間から覗く、闇に煌めく星々を見つめた。
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