真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
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第91話 烏桓族諜略 後編
私は村の手前20里程で進軍を止め、兵士達に大休止を取らせると、私と揚羽、冥琳、風、稟の5人で村に近づきました。
私達が村の入り口に近づくと、1人の老人を中心に武装した村民10人が私達を出迎えました。
「私は車騎将軍、劉正礼である。この村の代表者と話がしたい」
私は馬上より、村の入り口にいる村民達に声高に言うと、1人の老人が進み出て、両膝を地面に着き拱手しました。
「劉車騎将軍に拝謁いたします。私がこの村の代表であり、代郡の烏桓族を束ねます大人、巣厳と申します。本日は、どのような御用でございますか?」
巣厳は平伏して挨拶をしました。
彼の後方にいる村民達に目をやると、明らかに私に対して怯えと不安を抱く表情でした。
「今日、お前の元を訪ねたのは他でもない。代郡の烏桓族と交易をしたくて来たのだ」
私は極力友好的な表情で巣厳に言いました。
「こ、交易でございますか? 私達の村々はご覧の通り貧しく、劉車騎将軍がご満足いただけるような大した品はございません」
巣厳は私の言葉に安堵した様子でしたが、直ぐに要領を得ない表情になりました。
「巣厳、立ち話も何だ。詳細はお前の家で話をさせてくれないか?」
「これは気が利きませんで申し訳ございません。ささ、粗末な家ですがどうぞ」
巣厳の案内され私達は彼の家に案内されましたが、彼の家は本当に祖末でした。
大人なのでもう少しまともな家に住んでいると思ったのですが・・・・・・。
漢に帰属しているといっても、異民族ということで酷い差別を受けているのでしょうね。
現代でも人種差別がありますが・・・・・・。
本当に遣る瀬無い気持ちになります。
「湯ですがどうぞ」
巣厳の家に案内されると、彼の妻である老婆が私達に木製の碗に注がれた湯を出してくれました。
「奥方、手間を掛けて済まない」
私は巣厳の妻に笑顔で礼を言いました。
「いえいえ、大したことではございません」
巣厳の妻は頭を下げて、家から出て行きました。
「劉車騎将軍、それで交易の話とは?」
巣厳は少し不安気な表情をしていました。
「巣厳、お前達は馬を育成に長けているな。それで、お前達から駿馬を50頭ほど購入したいと思っている」
「恐れながら、50頭もの駿馬をご用意するなど無理にございます。せいぜい3頭が限度でございます。それ以上は村が立ち行きません。どうかご容赦ください」
巣厳はうやうやしく平伏し懇願してきました。
多分、彼は私が官吏や商人達のように買い叩くと思っているのでしょう。
経済的に苦しくて、売れる馬が少ないのは事実でしょうが・・・・・・。
「巣厳、私は不公平な商売をしに来たのではない。市価で購入するつもりだ。稟、ここに五朱銭を10万銭、歩兵達に運ばせろ」
「はっ!」
稟は私の命令を聞くと、足早に巣厳の家を去っていきました。
「あ、あの・・・・・・、劉車騎将軍・・・・・・」
巣厳は私の言葉が理解できないという表情をしていました。
「巣厳、駿馬50頭分の代金を持ってこさせるので少し待て」
私は巣厳に優しく言いました。
1刻程後、駿馬50頭分の代金を巣厳の家の前に持ってこさせました。
私達と巣厳は彼の家を出て、詰まれた五朱銭で一杯の箱の前に来ました。
村民達も周囲から、こちらを伺っています。
「劉車騎将軍、これは・・・・・・」
巣厳は不安気な表情で聞いてきました。
「駿馬50頭分の代金だ。巣厳、私はお前達と交易をしに来たと言っただろう。お前達は漢の民だ。ならば、お前達に対し理不尽な差別をするのは道理に反する。私の叔父、劉寵は太守として、会稽郡に赴任した際、漢民族と山越族を差別なされなかった。私もその姿勢は正しいと思っている。故に、お前達の取引は適正な価格で行う。この金はお前達の物であり、もし、お前達から理不尽な理由で金を搾取する者があらば、この私に申し出よ」
私の言葉に巣厳は涙を流していました。
「劉車騎将軍、あなた様のお気持ちは有り難いのですが、今の私達には3頭の駿馬のみしかお売りすることはございません」
「ならば、その3頭のみで構わない。残りの47頭の駿馬を納入するまで、10年の猶予を与える。その金は前払いにしておくので、必ず残りの駿馬を納めよ。良いな」
私は巣厳を見て厳しい表情で言いました。
「はは! この巣厳、必ず、あなた様に駿馬50頭をお納めいたします」
巣厳は感涙しながら、深々と平伏をしました。
巣厳につられるように村民達も私に平伏をしました。
「巣厳、そんなに畏まらなくてもいい。お前は代郡の烏桓族を束ねる大人なのだぞ」
「いえ、劉車騎将軍にそのような真似はできません。劉車騎将軍のように私達を差別なく扱って下さった方はございません」
巣厳は更に深く平伏をしました。
「巣厳、私はお前達と交易を行いたくて来たのだ。返事を聞かせてくれないか?」
「交易の話はお引き受けしたいのは山々ですが、一つだけお聞かせ願えませんか?」
巣厳は顔を上げ真剣な表情で私に聞いてきました。
「何でも聞いてくれ」
「私達と交易をする対価として、劉車騎将軍は何をお望みなのでしょう」
巣厳は不安と期待がない交ぜになった表情で私を見ていました。
「対価か・・・・・・。私にとって、烏桓族との交易を行うことが目的の9割、後の1割は烏桓族との交易にとって障害となる者の排除だ」
私はそこで一度言葉を切りました。
「私は好戦的な上谷郡の烏桓族を束ねる大人、難楼を討伐し、他の好戦的な烏桓族を押さえ込み、代郡、漁陽郡,広陽郡,雁門郡の4郡の烏桓族には漢の逆賊、張純の首を取って欲しいと考えている。私は烏桓族だけでなく、多くの漢に住まう異民族が差別的な扱いを受けていることは承知している。だから、この私に時間を与えて欲しい。必ず・・・・・・、いや。少なくともお前達が理不尽な扱いを受けずに済むように心血を注いでみせる」
私は膝を着き、巣厳の手を取り、真剣な表情で彼の目を見て言いました。
「劉車騎将軍・・・・・・。あなた様のお気持ち確と分かりました。交易と張純の首の話は謹んでお引き受けいたします」
巣厳は真剣な表情で私の目を見て言いました。
「その言葉、嬉しいぞ。今後何かあれば、私を頼ればいい。幽州と冀州は離れているが、必ず力になってみせる。急ぎとあらば、郡大守である公孫賛を頼るといい。この私が話を通しておく」
その後、二ヶ月をかけて、代郡と同様に漁陽郡,広陽郡,雁門郡の烏桓族を諜略しました。
しかし、漁陽郡の烏桓族だけは色良い返事をしませんでした。
彼らは交易の話に興味を持っていましたが、私と通じるとなれば、遼西郡、北平郡の烏桓族の攻撃の矢面に晒されると思っているのでしょう。
その後も漁陽郡の烏桓族と交渉を重ね、最終的に彼らと不戦の密約を交わすことができました。
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