八条学園騒動記
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第五百四十話 快適な旅その八
「もう切りたいから切る」
「あの盲目の剣士だよな」
「そう、あいつもそうだよね」
「切りたいから切ってな」
「命乞いの声を聞きたいとか言って」
「美学とかねえよな」
「もう正真正銘の殺人鬼で」
これを人斬り侍という、この時代でも残っている時代劇の悪役のサンプルの一つであり今も出されている。
「悪党でもね」
「始末に負えねえ奴だな」
「人気あるけれどね」
それでもというのだ。
「それでも」
「ニヒルでな」
「人気はあるけれど」
「それでもな」
「正直言ってね」
「あんなタチの悪い奴いねえよな」
「切りたいから切る」
それも命乞いを無視して切るのだ。
「もう完璧にね」
「殺人鬼でな」
「美学も何もない」
「ガチの外道だよな」
「殺人以外にも色々やっているし」
「あんなひでえ奴いねえな」
「うむ、わしはあ奴とも違う」
博士はオートミールを食べ終えて食後のコーヒーを飲みつつ話した、そうしてそのうえでまた言うのだった。
「あ奴は惨殺はせぬがな」
「美学ねえよな」
「それとは別の世界の人だね」
「切りたいから切るのではな」
それではというのだ。
「もうそこにあるのは虚無じゃ」
「虚無?」
「虚無っていうと」
「何もない、虚しさじゃ」
それはというのだ。
「それじゃな」
「ニヒリズムかな」
タロは博士が虚無と聞いて述べた。
「それって」
「そうじゃ、あ奴にあるのはな」
「そっちなんだ」
「時代劇にはこれを持ったキャラも定番じゃが」
「眠狂四郎か?」
ライゾウは時代劇のそうしたキャラでこの者の名前を出した。
「それじゃあ」
「あ奴もそうじゃ」
「やっぱりそうか」
「とにかくじゃ」
「虚無ってのはか」
「あってな」
それでというのだ。
「大菩薩峠の机竜之助はじゃ」
「ああ、そんな名前だったな」
「そういえばそうだったね」
「この者にあるのはな」
美学ではなくというのだ。
「ニヒリズムじゃ」
「それか」
「それがあるんだね」
「確かに悪党じゃ」
このことは否定出来ないというのだ。
「辻斬りを趣味とするな」
「それだけで本当に外道だよな」
「無抵抗な人も切るしね」
「そうした奴でもな」
「人気があるのはどうしてかっていうと」
「その虚無じゃ、それが恰好良さにもなってな」
それでというのだ。
「人気があるのじゃ、しかしわしはな」
「博士ってニヒリズムねえよな」
ライゾウははっきりと言った。
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