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八条学園騒動記

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第五百三十八話 牡丹鍋と羊羹その十二

「なってからは猜疑心の塊でのう」
「いい奴じゃなかった」
「そうだったんだ」
「うむ」
 その通りという返事だった。
「猜疑心ばかり強く家臣を粛清していく」
「そんな奴になったのかよ」
「皇帝になったら」
「皇帝になってからは別人であったわ」 
 劉邦、彼はというのだ。
「なるべくしてなったがな」
「それでもか」
「なってからは」
「碌な奴ではなかった」
 これが博士の皇帝になってからの劉邦への評価だった。
「まことにな」
「なるべきしてなっても」
 タロは猪肉を食べつつ述べた。
「それでもなんだ」
「うむ、それでもな」
「なってからは」
「全く別人になったわ」
 そこまで変わってしまったというのだ。
「見ていて嫌になったわ」
「そんなに悪く変わったんだね」
「そして韓信、黥布、彭越とな」
「そうした人達をだね」
「粛清していったのじゃ」
 このことは史記ではかなり苦々しく書かれている、司馬遷にしても皇帝になってからの劉邦は好きではなかった様だ。
「どんどんな」
「粛清かよ」
「それはどうもね」
「確かに三人共危険であった」
 韓信、黥布、彭越の三人はというのだ。
「戦に強くしかも野心もあり欲も深かった」
「だから天下も狙う」
「劉邦さんはそう考えたんだね」
「それでじゃ、統一した後でそれぞれ王に封じたが」
 漢の中にある広大な領地の領主達に任じたのだ、位では最高位の王にだ。王の上はそれこそ皇帝しかいない。
「その後でな」
「粛清だな」
「そうしていったんだね」
「それで三人共滅ぼした」
 その様にしたというのだ。
「あの手この手でな」
「汚い手も使ってか」
「そうしたんだ」
「うむ、三人共劉邦が項羽に勝つことに貢献したが」
 それでもというのだ。
「やはり戦に強く野心がありじゃ」
「欲もあったらか」
「危険視されるんだね」
「ましてや劉邦は猜疑心が深くなっていて」
「余計にだね」
「何しろ野心のない者まで疑った」 
 相国つまり宰相だった蕭何までにもその祭儀の目を向けたのだ。その為蕭何は劉邦の猜疑の目から逃れることに必死になった。
「能力と権力があればな」
「それで粛清する」
「その流れだよね」
「だから逃れる方も必死だった」
 博士も蕭何のことを念頭に二匹に話した。
「劉邦はそんな男になった」
「皇帝になるとか」
「そうなったんだね」
「本当に最初は器が大きくて自然と人が集まってくるな」
「そんな人だったんだ」
「魅力のある人だったんだ」
「だからわしも中国を統一すべくしてしたと言ったのじゃ」
 その魅力故にというのだ。
「酒好きで女好きで怠け者であったがな」
「それはよくねえな」
「人としてね」
「それでも魅力があったからのう」
 それ故にというのだ。 
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