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八条学園騒動記

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第五百三十八話 牡丹鍋と羊羹その三

「信長が諱でな」
「そうだったんだ」
「それか役職で呼ばれていた」
「右大臣とか上総介とか」
「幼名でとかな」
「だから謙信さんも」
「謙信と呼ばれることもなく」
 さらにというのだ。
「輝虎ともな」
「呼ばれなかったんだ」
「そうじゃ、そしてその上杉家がな」
「お酒の名前になっているんだね」
「上野を領地にしておったからのう」
 この縁でというのだ。
「その名になったのじゃ」
「成程ね」
「まあ地球にあった頃の名前でな」
 ライゾウは毛づくろいを終えてちょこんと座った姿勢になって述べた、座布団の上で寝ることは好きだが今はそうしている。
「宇宙の上野じゃねえよな」
「そこは違う」
「やっぱりそうだな」
「それでもじゃ、同じ上野だからのう」
「その名前か」
「左様じゃ、あと上杉家は二つあった」
 博士はこのことについても話した。
「山内上杉家と扇谷上杉家じゃ」
「身内同士だよな」
「身内同士でも別れてな」
「お家騒動してたんだな」
「わかるのう、それは」
「お家が別れたな」
 それでとだ、ライゾウは話した。
「お家騒動になるだろ」
「歴史の常じゃな」
「今だってあるしな」
「そうであるな」
「会社の後継者争いとかな」
 こうしたことはこの時代でもある、どの時代でもどの場所でも人の逃れられない業の一つであろうか。
「しょっちゅうだしな」
「それでじゃ」
「上杉さんとこもか」
「お家騒動でしょっちゅう戦をして」
 そうしてというのだ。
「お互いの力を弱めたのじゃ」
「お家騒動をすれば自分達が弱まったか」
「そこを相模の北条家に衝かれた」
「よくある展開だな」
「そうじゃな」
「お家騒動で自分達の力を弱めてな」
 そしてと言うのだった、ライゾウも。
「そこを敵に衝かれる」
「そうして最後はじゃ」
「北条家にとって代わられたんだな」
「そうなったのじゃ」
「山内上杉家もか」
「宿敵の扇谷上杉家と組んで北条家にあたったが」
 お家騒動を一時中断してというのだ。
「そうしたが」
「それでもか」
「北条家との決戦で敗れてじゃ」
 河越夜戦である、この時北条家は乾坤一擲の夜襲を仕掛けそのうえで敵の大軍を散々に打ち破ったのだ。
「大きく力を失いな」
「滅ぶ前にか」
「謙信さんに関東管領の座を譲ってな」
 そうしてというのだ。
「後は謙信さんの客分になった」
「負けてか」
「うむ、その姓の名でな」
 それでとだ、博士はさらに話した。
「長尾家は生きていくのじゃ」
「謙信さん以降か」
「そうなったんだね」
「そうじゃ、そしてその家の名前をじゃ」
「酒に名付けた」
「そういうことだね」
「うむ、ではそろそろ鍋が来て」
 博士は二匹に笑顔で話した。 
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