八条学園騒動記
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第五百三十八話 牡丹鍋と羊羹その二
「お酒も出るしのう」
「日本酒だな」
「それが出るんだね」
「お酒はそっちか」
「そうだね」
「うむ、やはり牡丹鍋にはな」
この料理と一緒に飲む酒はというのだ。
「日本酒じゃ」
「それだよな」
「何といってもね」
「ワインでは駄目じゃ」
この酒はというのだ。
「肉だから赤となろうが」
「ううん、ワインはな」
「確かに違うね」
「牡丹鍋とはな」
「お味噌だしね」
「白も違うしのう」
こちらのワインもというのだ。
「それでじゃ」
「ワインは違うか」
「牡丹鍋には」
「ビールを飲む者もおるが」
牡丹鍋を食べつつだ。
「こちらもじゃ」
「違うか」
「牡丹鍋には」
「牡丹鍋は強い味じゃ」
そうした鍋だというのだ。
「だからな」
「そのことを考えてか」
「お酒も選ばないと駄目なんだね」
「それでじゃ」
それでというのだ。
「酒は日本酒でな」
「何か銘柄言ってたね」
「山内上杉じゃ」
この名前を出してタロに答えた。
「この銘柄がここの牡丹鍋には一番と聞いてな」
「山内上杉?」
「そうじゃ、その日本酒じゃ」
「何か人の名前みたいだね」
「戦国大名の家の名前じゃ」
博士は自分の席で首を少し傾げさせたタロに答えた。
「実際にな」
「そうなんだ」
「最初は関東管領の家であった」
「ああ、謙信さんの」
「山内上杉の主の養子になってな」
「謙信さんは関東管領になったんだ」
「そうだったのじゃ、最初は上杉姓ではなかった」
このことは歴史にある通りだ。
「長尾姓であったのだ」
「確か長尾景虎だったね」
「うむ、それが関東管領を継ぐ際にな」
「上杉さんになったんだ」
「上杉政虎となり」
その関東管領上杉憲政から諱を一字貰ってこの名になったのだ。
「後で上杉輝虎となった」
「よく名前の変わる人だったんだね」
「そして生涯この名であった」
「あれっ、謙信さんは」
「それは出家した際の僧侶の号でな」
それでというのだ。
「名はずっとじゃ」
「輝虎さんだったんだ」
「しかも輝虎と言われることはなかった」
「名前を?」
「当時の名は諱でじゃ」
博士はタロにこのことも話した、勿論ライゾうにもだ。
「こちらでは呼ばぬし文でもじゃ」
「書かれなかったんだ」
「それがしきたりだった」
「そうだったんだね」
「例えば織田信長は大抵は織田三郎と呼ばれていた」
この名でというのだ。
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