戦国異伝供書

「お主はでおじゃる」
「これからは」
「わかったでおじゃるな」
「さすれば」
「麿もでおじゃる」
　義元は自分のことも話した。
「母上は大事にしているでおじゃる」
「そう言われますと」
「わかるでおじゃるな」
「はい、殿は」
「それでおじゃる。人として」
「親はですか」
「大事にするものでおじゃる」
　そこは絶対だというのだ。
「和上にも言われたでおじゃるが」
「和上もですか」
「左様、和上は流石でおじゃる」　
　こうも言うのだった。
「そうしたこともでおじゃるよ」
「わかっておられるのですね」
「だからでおじゃる」
　竹千代もというのだ。
「よいでおじゃるな」
「承知しました」
　こう答えてであった。
　竹千代は岡崎に人をやった、そうしてだった。
　母とその夫を迎え父親が違う弟とも会った、そのうえで母の於大の方に対して穏やかな声で話した。
「殿のお言葉に従い」
「こうしてですね」
「母上をお迎えしました」
　このことを言うのだった。
「この度は」
「そうですか」
「お会いすることはないと思っていました」
　竹千代は母に申し訳ない顔で述べた。
「暫くは」
「それはどうしてですか」
「私は今は修行中の身であるので」
「それ故にですか」
「はい、しかも元服もしておりませぬ」
　それではというのだ。
「母上をお迎えするなぞ出来ないと思っていました」
「そうでしたか」
「ですが殿が言われました」
　義元、彼がというのだ。
「母上を是非です」
「この駿府にですね」
「お迎えして共に暮らす様にと」
「それで、ですか」
「この度お迎えしました」
「そうですか、ではこれからは」
　ふくよかでとても落ち着いた顔立ちである、その顔で我が子である竹千代に対して優しい声で言うのだった。
「共に」
「宜しくお願いします」
「それでは」
「竹千代殿」
　ここで於大の方の夫である久松俊勝も言ってきた。
「お母上のことですが」
「これまでお守り頂き有り難うございます」
「夫として当然のことです」
「そう言って頂けますか」
「ですがこれからはですか」
「はい、久松殿もここにおられ」
　竹千代が住んでいる屋敷にというのだ。
「母上とです」
「共に住んで宜しいのですか」
「お願い出来ますか」
「それがしはこれからもですか」
「母上と共におられて下さい」
　こう久松に言うのだった。
「お願いします」
「そう言って頂けますか、ですが」
「久松殿は久松殿で、ですね」
「殿から屋敷を頂いています、ではです」　
　久松は竹千代に笑って話した。