戦国異伝供書
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第六十三話 成長その一
第六十三話 成長
竹千代は義元の下で学問を学び武芸の鍛錬を行っていた、そうしてだった。
日々育っていった、義元はその中で竹千代に言った。
「お主、日々頑張っておるな」
「有り難きお言葉」
「それはよいことでおじゃる。ただ」
ここでこうも言う義元だった。
「そなた母親とはどうしておるでおじゃるか」
「母上ですか」
「そうでおじゃる」
義元が今聞くのはこのことだった。
「どうしているでおじゃるか」
「今も岡崎におられます」
「三河のでおじゃるな」
「左様であります」
「そうでおじゃるか。しかし」
義元は竹千代にさらに話した。
「そなたの母君は新しいご夫君を迎えられ」
「幸せにお暮しとのことなので」
それでというのだ。
「それがしは嬉しく思っております」
「それはよきこと。しかしでおじゃる」
「しかしといいますと」
「それだけでは足りぬでおじゃる」
こう言うのだった。
「まだ」
「孝行が足りぬと」
「厳しく言えばそうでおじゃる」
「左様でありますか」
「母君に何か仕送りをしそなたがよければ」
義元はさらに話した。
「駿府に来てもらい」
「ご夫君と共に」
「そうして共に暮らすこともでおじゃる」
「孝行でありますか」
「子ならば孝行を忘れてはならぬでおじゃる」
親へのそれはというのだ。
「だからでおじゃる」
「母上にですか」
「孝行するでおじゃる。そして」
「さらにですか」
「新たなご夫君との間にはもうお子がおられると聞いておるでおじゃるが」
「その通りです」
竹千代は義元に素直に答えた。
「すくすくと育っているとか」
「その方にとっては父親が違うといえど弟」
それ故にというのだ。
「その者もでおじゃる」
「大事にすべきでありますか」
「左様でおじゃる」
「実は」
ここまで聞いてだ、竹千代は義元に述べた。
「これまではです」
「再婚したからでおじゃるな」
「遠慮しておりましたが」
「遠慮してはならぬ時もあるでおじゃる」
「では」
「それが今でおじゃる」
まさにというのだ。
「だからでおじゃる」
「母上をこの駿府にお迎えし」
新しい夫と共にというのだ。
「そして弟も」
「大事にするでおじゃる、その為にもでおじゃる」
義元は竹千代に暖かい声で話している、それは今も同じだった。
「麿はそなたによい屋敷を与えているでおじゃる」
「それがしには広いと思っていましたが」
「ははは、家族で済めば広いでおじゃるか」
「それは」
「違うでおじゃるな」
「確かに」
「だからでおじゃる」
義元はさらに話した。
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